準々決勝

フレスガドル学園の代表選抜対抗戦も、いよいよ準々決勝に突入した。会場は熱気に包まれ、生徒たちの歓声が鳴り止まない。今回、アルノアとアリシアのチームが対戦するのは、異能を持つ者たちで編成された謎のチームだった。


会場の魔法陣が作り出した戦場は薄暗い森林地帯。鬱蒼と茂る木々と霧が視界を遮る中、敵チームが静かに現れる。


「白き魔法使いアルノア、そして地天聖アリシアか……。」

先頭に立つ青年が低い声で口を開く。

「今日は手加減できない。俺たちの実力、存分に味わってもらおう。」


敵チームのリーダーは、憑依魔法を操るアーセル。神の力を借りることで自身を超越的な存在に変える、異能の持ち主だった。その隣に立つのは、漆黒のマントを羽織り、淡々とアルノアを見つめる闇属性使いの少年、セイル。


「さっさと始めましょう。この戦いで、我々の力を証明するだけですから。」


他の3人も頷く


開戦


学園長の号令とともに試合が始まる。アーセルはすぐに憑依魔法を発動し、その体に雷のような神々しい力を纏わせた。


「来い、カグツチ!」


彼の体が眩い光に包まれると、圧倒的な魔力が空間全体に広がる。その力に押されるように、霧が一瞬で吹き飛んだ。


「アルノア、私がアーセルを引き受けるわ。」

アリシアが冷静に告げる。


「了解、じゃあ俺は闇属性使いを。」


アルノアは目の前に立つセイルへと向き合った。


闇の力


「君が俺の相手か。まあいい、さっそく試してみよう。」


セイルが呟くと、黒い魔力が彼の周囲を覆い始める。瞬間、アルノアの魔力の流れが乱れた。


「……なんだ?」


「どうした? 魔法が使いにくくなってきたんじゃないか?」

セイルが薄く笑う。彼の闇属性魔法は、相手の能力を封じ込める力に特化していた。


アルノアは一旦距離を取ろうとするが、闇の触手のような魔力が足元を縛りつける。


「しまった!」


「逃げられないさ。この“黒影の牢”からは。」


闇の触手がアルノアを締め付けるが、その瞬間、彼の目が鋭く輝いた。


 その時、別の敵チームメンバーが森の陰から姿を現し、手にした弓矢を引き絞る。


「隙あり!」

射手の少女が放つ矢は魔法の光をまとい、アルノアに向かって飛んでくる。


アルノアは瞬時に判断し、大鎌で矢を弾き返したが、その一瞬の隙を突かれ、別の生徒が炎の魔法弾を放つ。


「くっ……!」


アルノアは防御の体勢を取るも、セイルの触手がさらに締め付けて動きを阻害する。


「ふん、仲間がサポートすることで、俺の術がさらに強力になるんだ。」

セイルが冷たく笑みを浮かべる。


 その瞬間、大地が震え、巨大な岩壁が敵チームの間に出現する。アリシアが岩の盾を作り、アルノアを援護したのだ。


「アルノア、気を抜かないで!」


「助かった……!」


「俺はこんなところで止まってるわけにはいかないんだ!」


アルノアの魔力が解放され、触手が一瞬にして凍りつく。砕け散った闇を振り払い、アルノアはセイルに斬りかかった。


驚きと憤怒


アルノアの大鎌がセイルを捉えようとした瞬間、エーミラティスが呟いた。


「この魔力……儂が知る“黒き守護者”の技と似ているな……。」


その言葉を耳にしたアルノアが思わず口に出してしまう。

「“黒き守護者”……?」


その一言にセイルの表情が大きく変わる。驚愕と同時に、激しい怒りが彼の顔に浮かんだ。


「貴様、なぜその名を知っている……!」


黒い魔力が一気に膨れ上がる。セイルはアルノアを睨みつけ、さらに強力な魔法を繰り出す。


「お前、何者だ!? なぜその名前を口にできる!」


「え、いや、俺はただ……」


言い訳をする暇もなく、セイルが怒りを込めて闇の波動を放つ。


「黙れ! お前は俺たちの敵だ!」


 射手が再び矢を放ち、炎使いが強力な火柱を生み出す。さらに、もう一人の術士が風の刃を飛ばしてくる。


「数で押し切るつもりか!」


アルノアは大鎌を振り、風の刃を受け流しつつ、光の魔力を爆発させて周囲の攻撃を弾く。


 


アリシアとアーセルの一騎打ち


一方、アリシアとアーセルの戦いも激しさを増していた。カグツチの力を借りたアーセルは、炎と自身の雷属性を操り、アリシアに猛攻を仕掛ける。


「君の力は認めるが、この神の力を借りた俺には勝てない!」


「そうかしら? 本気を出す前に決めてしまおうと思ったけど……手加減はやめるわ。」


アリシアの魔力が地を揺るがし、地面から鋭い岩が次々と飛び出す。アーセルはそれを避けながらも笑みを浮かべる。


「カグツチ!」


彼の身体に赤い光が宿り、炎のオーラが彼を包む。その背後には、巨大な火の神の幻影が浮かび上がる。


「さあ、この炎を受け止められるか?」


アーセルは手を振りかざし、巨大な火柱を地面から生み出す。その熱波が辺りの木々を焼き払い、空気が一瞬で灼熱に変わる。


「派手な力ね。でも、私は単なる“地”の使い手じゃない。」


アリシアの足元に光が集まり、彼女が手をかざすと、地面から青く輝くサファイアの結晶が現れた。


「サファイアの力で流れを変えるわ。」


結晶が砕け、空気中に無数の水滴が発生する。それらが雨となり、炎を覆うように降り注いだ。


「なんだと……!」


アーセルの炎が水によって抑え込まれ、彼は一瞬表情を歪めた。


 「だがその程度か?本気を出さないと、君を燃やし尽くすぞ!」


アーセルは次に自身の雷の力を解放する。火と雷が交じり合い、稲妻が森全体に走った。電撃がアリシアに向かって襲いかかる。


「その程度の電撃なら、受け止められるわ。」


アリシアは再び手をかざし、地面から透明なダイヤモンドの壁を出現させた。稲妻は壁にぶつかり、そのまま四散する。


「防御が得意なのは分かった。でも、攻められるか?」


アーセルが笑みを浮かべ、彼の周囲に炎の渦を作り出す。


「だったら……攻めるわ。」


アリシアの目が鋭く光り、今度は赤い輝きを放つルビーの結晶が彼女の手元に出現する。


「ルビーの力……擬似的な炎を操る。」


結晶が砕け、アリシアの手から真紅の炎が放たれる。アーセルの炎と激しくぶつかり合い、空間全体が熱気で歪んだ。


「すごいな……君、地属性の枠を超えてるじゃないか。」


アーセルは笑いながらも、その目には緊張が宿る。


「でも、君のその力を抑え込むために、俺には“カグツチ”がいる!」


アーセルの全身がさらに赤く輝き、憑依が完全に進行する。火の神カグツチの姿が彼の体に重なり、炎の剣を生み出した。


「これで終わりだ!俺の今の最高火力だ」


アーセルが空中に飛び上がり、剣を振り下ろす。剣から放たれた火柱がアリシアに向かって一直線に突き進む。


 剣から放たれた火柱がアリシアを直撃するかのように突き進む。しかしその瞬間、アリシアの背後に岩で出来た巨大な腕が出現し、彼女を包み込んだ。


「あなたは神から力を借りるようだけど、私は大地そのものから加護を受けてるの。そんな攻撃では突破できない。」


火柱が直撃しても、岩の腕は崩れることなく耐え抜く。そして、燃え尽きるように火の勢いが衰えた。


 アリシアは静かに岩の盾の中から姿を現す。手には新たにルビーの結晶が握られていた。


「あなたに返すわ。」


ルビーが砕け、擬似的な炎がアーセルへと向かう。それは彼自身の炎と激しくぶつかり合い、圧倒的な熱量がアーセルを押し返した。


「くっ……これが、君の本気か……!」

「カグツチ……もっと鍛えなくてはいけないな」


アーセルはそのまま膝をつき、憑依が解除される。


「勝者、アリシア・グラント!」


アルノアの覚醒――――――


アルノアはセイルの激しい攻撃を受け流しつつ、冷静に考えを巡らせていた。エーミラティスの助言が頭をよぎる。


「儂がかつて戦った“黒き守護者”も、感情に引きずられやすかった。お主、まずは相手の動揺を誘え。」


アルノアはセイルに語りかける。

「本当は、君たちは何と戦うために闇を極めたんだ? 俺は敵じゃない。」


「黙れ! お前に話すことなどない!」


だがその言葉とは裏腹に、セイルの動きが一瞬鈍る。それを見逃さず、アルノアは魔力を解放し、エーミラティスの力を借りる。


「行くぞ!」


アルノアの体に白き魔力が宿り、全身を覆う。エーミラティスの前試合で経験した戦闘技術がアルノアの動きに加わり、圧倒的な速度でセイルに迫る。



決着


セイルは防御を試みるが、アルノアの攻撃を捉えきれない。大鎌が彼の魔力の中心を打ち抜き、闇の力が霧散する。


同時に、アリシアがアーセルを押さえ込み、試合の終了が宣言される。


「勝者、アルノア&アリシアチーム!」


歓声が会場を埋め尽くす中、セイルはアルノアを睨みつけながら、低く呟いた。

「いつか、真実を知ったとき……俺たちは敵同士になるかもしれない……覚えておけ。」


アルノアはその言葉に動揺しながらも、闇の奥に秘められた謎と、エーミラティスの過去に思いを巡らせるのだった

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