雪〇〇〇

菜月 夕

第1話

『雪○○○』


 野を吹き荒れる雪は激しくなるばかりで土地勘があろうとも右も左も、道路がどこかも判らなくなりそうだ。

 私はすっかり吹雪の中迷子になっていて、寒さでもう駄目だと思い出したところだ。

 そんな時にかすかに見える道の向こうの黒く見える森らしき所に灯りが見えた。

 私は最後の力を振り絞ってその家にたどり着いた。

 ずいぶん古そうな昔の民家のようだが、そこからは暖かい光が出ている。

 私は扉を叩いた。

「おやぁ、こんな時期にそんな恰好でぇ」

 間延びした土間声で女ものの着物を着たやたらがたいの大きいオネェ様が迎えてくれた。

「早くこっちでその濡れた上着を脱いで暖まってぇ」

 その異様さに疑問を抱きつつも、背に腹は代えられない。

 私はこの日本風の屋敷に似つわしくない暖炉の前に座り込んだ。

 しかし、この暖かさが身に染みてくるとさっきまで我慢していた寒さがぶり返してきて身の震えはいや増して行く。

「寒さが身に沁み切ってしまってるのねぇ。しょうがないわぁ。裸になってここに」

 同じく裸になったオネェ様が布団の端をめくって私を誘う。そこはいかにも暖かく私を誘って吸い込まれるようにそこに入ったことで安心してそのまま眠りについてしまった。


 翌日はすっきりした晴れで私はお礼を言いながらその歴史ありそうな民家を改めて見た。

「でもねぇ。わたしもぉこんなだから人には決してここでの事は言わないでねぇ」

 私は遅れた仕事を済ますべく慌てて家に帰って溜まった書類と格闘して、三日ほど遅れてあの時のお礼をとばかりに菓子折りを持ってあの家のあった所へ向かった。

 しかしどう探してもあの家は見つからない。

 近所でうまく事案を隠しながら聞き込んだが「そんな家はここらには無い」としか返ってこなかった。

 あれは昔話で良く聞いたアレだったのだろうか。

 アレは言っていた「ここでの事は秘密よ」と。

 もちろん私は言うつもりなんて絶対無い。

 アレと同衾してしまったなんて。

 私は帰りぎわ妙に色艶の良くなったオネェ様を思い出して寒さがぶり返した。

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雪〇〇〇 菜月 夕 @kaicho_oba

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