アイスと氷菓

たちばなつき

アイスと氷菓



初めてじゃないはずなのに心臓が挨拶を急かす春の出会い


目が合って 永遠がもう目の前にあるってことに気付いてしまう


横顔を見つめるだけでいられずにコンビニアイス調べたりする


声が好き、と言われたから今日だけは少しゆっくり名前を呼ぶよ


コンビニでアイスを買うたび近くなる距離を思うとこれは恋だな


真夜中のファミレスで聞く雨の音 夜が更けるまで僕らは天使


ひだまりの内側だけを見つめる日 豊かな日々の証左の余白


右側に君の横顔増えてから今までよりも豊かな世界


話せなくなる様な熱を知ったら もう離せないよ 君だけが星


おもってたよりもあつくて、くるしいな キスも地獄も初めは怖い


熱帯夜 記憶の淵に残るのは花弁の様な膨らみばかり


朝の波間 夢を見る君 春の来ない暮らしのことを「素敵」と笑う


真夏日の乾かないシャツ 火照る頬 柔らかな爪は人魚の名残


幸せは塩だけで味ととのえるらしいと聞いて減る調味料


光縫い目指すコンビニ 夜は君が手を引くからゆっくり歩く


特別じゃない空なのに特別な夜にするため空に花火を


清らかで柔らかな君、息乱し微笑む顔は僕だけにくれ


君以外知らないままで生きていくことを誰にも笑われない夜


早朝のコインランドリー 眠そうな君の横顔だけが光だ


いつか来るその朝のこと考えてお揃いのマグ

買ったりする日


君が僕のそばで笑う時にだけ生きてて良いと確かに思う


君を選び孤独を得たい この先は閉じた世界で花を愛でたい


混ざり合う夢ばかり見て境界が曖昧になるアイスと氷菓


朝起きて履修登録と年金から目を逸らしお花に水を


美味しさをまだ覚えてるのに今日は食べ飽きたフリして大人ぶる


進化しない傘の形を思い出す 僕らの未来みたいな骨組み


つまらない綺麗な映画 本物は繋いで溶けた手の温度だけ


わかりあう、って奇跡だね 明日から聞けない曲が増えてしまった


ひとりきり生きていくには持て余すだけの潜熱みたいな夜更け


お互いを捧げることもままならぬ連夜を越えて歪む空間


言い訳を重ねる為に生きてきた訳じゃないのに枯れてゆく花


さみしい、と言うには資格が必要で 急拵えの花束と飴


交わって 混ざらないのは君がもう夢から醒めて生きていく為


天秤に貴方由来の幸せを乗せたところで変わらないこと


聞こえない 聖歌と怒号 その狭間 別れを告げる 赦されたいよ


祈るため手を離すこと赦される 繋げなくても貴方を想う


本当に終わる瞬間はここだと感動的な曲が流れる


「楽しい日ばかりが続く映画は、ね」そう言ってもう別れた手と手


ありふれた本や映画にこの日々を重ね合わせて憶えていてね


開いた穴を隠す為に抱き締めてこれからはもう降りない駅を


夢の中でも握れない手を想い泣き出す僕を讃美歌が蹴る


暗い朝 エンドロールがまだ続く気がして

一人取り残される


もう二度と水をやらずに枯れる花 此処にあるのは理不尽な愛


地平線 その先にまだ海がある事を知らずに終わった恋は


この星で幸せでいる義務はないから僕はまだ不幸でいたい


あの味は期間限定だったんだ。生きてゆけずに探す代替


これからは誰も選ばず、選ばれず そんな未来が相応しい罰


永遠はもう此処にない。それでも、と振り返るとまだ明るい部屋が


おかしいね、って笑う日が思い出の始まりのせいで憎めないきみ


もうここにいないあなたを想っても終わらない日々 花火が綺麗



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アイスと氷菓 たちばなつき @tachibana_tk_

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