夜が明けるにはまだ早い
雪明かり
冒頭 旅立ち
とある村の外れ。小さな家の屋根裏部屋で、一人の老人が息を引き取ろうとしていた。
老人が傍らに座る少年に語りかける。
「リト……お前が心配じゃ。これからひとりになるお前にわしは何を残せてやれただろうか……」
「沢山のことを教えてくれたじゃない。広い世界のこと、珍しい木の実、薬になるもの毒になるもの、魔法……はちょっと僕には使えなかったけど教えてくれたし」
少しはにかみながら少年が答える。
「これから先のことはまだ分からないけど、おじいちゃんが登録しておいてくれたからとりあえず冒険者として少しずつ上手くやるよ」
少年は老人の手を取り元気付けるように言った。
老人はそんな少年に忠告する。
「お前は素直で幼く、世間をあまり知らん。ご近所さんには恵まれたが世界は優しさではできておらん。小狡い悪が蔓延っておる。
くれぐれも気をつけろよ」
ひとつ大きく息を着いて続ける。
「お前は優しい子じゃ……そして賢い。
お前が今抱える問題もいつか乗り越えるだろう。
自慢の孫じゃ。わしはお前のおじいちゃんで幸せだったぞ。」
少年が顔を上げた。
老人は目を細めつつ静かに息を引き取った。
開け放たれた窓から風がそよそよと入ってきて少年の真っ白な髪を揺らした。
少年の頬を透明な涙がとめどなく伝い床にポトリと染みをつくった。
少年は祖父の小さな葬儀を終え、手早く身支度を整えた。
ここは祖父の借りた家で手持ちの金も多くは持たない自分は、明日にはもう出なくてはならない。
十四年も祖父と暮らした家は意外なほど物がなくてあっという間に片付け終わってしまった。
今思えば、祖父が少しずつ身の回りの整理をしていたのだろう。
何も無くなった部屋に寂しさを感じつつドアに手をかけた。
「いってきます。」
そう言って少年は家を出た。
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