第11話
一夜明けて、宣言通り俺は東へ向かった。
ザランの草原地帯からは、シクランの沼地を抜ければ真っ直ぐだが、ザランが沼地を走るのを嫌がったから、今日も仕方なくピーパーティンの背中に乗っている。
ただ、今日は移動距離が長いので、ピーパーティンを走らせず空を飛んでいた。
上から見ると魔界の地形がわかりやすい。
南には一夜を過ごした大草原地帯がほぼ真っ平に広がり、その向こう側に緑が濃すぎて黒々として見える樹海がある。草原の東の外れにポツンと見える灰色のところが、俺が生まれた岩場だろう。
北から西にかけては山々が壁のように聳え立っている。かなり擦れて見えるから遥か彼方にあるはずだが、それでも壁のように大きく見えるのだから、どれだけの標高があるのか目視では見当もつかない。
西の方にも南の方にも人間の国があるはずだが、山は天を突くようだし、樹海はどこまでも続いて見えるから、その向こうはまったく見通せない。
見下ろせばシクランのいる沼地がある、はずだが、モヤモヤと霧に包まれていて地上は見えない。
そして、今向かっている東側は緩やかな丘が波を打つように続く森林地帯だ。全面が緑の木々に覆われている南の樹海と違って、東側はでこぼこした大地に森と草原が斑模様を作っている。
今日まで、と言っても生後二日目だけど、ポロック爺さんの描いたテキトウな地図でしか知らなかった魔界だが、上から見ると思ったよりも大きい。それに地形も富んでいる。
この世界の全貌はまだまだぜんぜん知らないけれど、魔界なんて禍々しいイメージとは裏腹に、俺の国は結構なかなかいいのではないだろうか。
「これなら色んなことができそうだ」
それにしても、沼地上空を抜けてから気候が一気に変わった。
このままオーガの集落まで飛んでいくつもりだったが、俺は気になったので一度森林地帯に降り立つことにした。
オーガも草原の獣たちと同じくらい縄張り意識が強いらしいから、どうせブラブラしていれば向こうから勝手にやってくるだろう。
地上に降りると、明らかに気温が低くなっていた。小鳥の姿に戻ったピーパーティンも「さむっ」と言いながら俺の纏っている布に身を寄せている。
南の草原地帯は温かく乾燥していたが、東の森林地帯は気温は低いが湿度が高いらしい。でも、微かに日本の冬や梅雨時の記憶がある俺からすると、気温は肌寒いという程度、湿度も快適なくらいだ。むしろ草原地帯が少々乾燥し過ぎだった。
植生もまるで違う。俺は植物に詳しいわけではないけれど、素人目にも一目瞭然だった。
見上げれば木の枝が生い茂り緑の葉っぱが空を覆い隠している。足元を見れば湿った土に苔が生えているし、そこかしこにキノコも生えている。
南の草原地帯はその名の通り草ばかり生えていて、木があっても低木がぽつぽつ生えているだけだったし、花もあまりなかった。地質も砂と小石が多くて、雨が降ってもあまりジメジメしない感じだった。
東の森林地帯は背の高い木が密集して生えているし、開けて原っぱになっているところには花も多く咲いている。木々は針葉樹とか寒冷地に生えてそうなのが多い。
同じ大陸の隣り合った地域なのに、まるで違う島に来たような変わりようだ。
それに、南の樹海は上から見た限りジャングルという感じで湿度は高そうだったし、沼地は言わずもがなジメジメだった。ジャングルと沼地に挟まれた草原だけ乾燥しているというのは不思議な気候だ。
東の森林地帯も北の山脈に接しているが、山脈は見る限り岩山っぽい。積雪は見えない。気温はそこまで低くはないが湿度は低そうだ。低地が低温多湿に比べて高地が高温乾燥、やはり北東の気候もちぐはぐしている。
だがしかし、俺は魔王だからわかるのだ。
魔界を渦巻く魔力が気候や地質に影響を与えている。
飛んでいる時もビシビシ感じていた。北西の山脈は、きっと前世だったら霊峰とか呼ばれているだろう、山脈自体が強大な魔力の塊のようだ。
その横にある南の樹海は、大きな魔力の塊がいくつも点在して、ごちゃごちゃに混ざり合っている闇鍋状態だ。
更に東の海の方からは種類が全く異なる魔力を感じる。
そんな性質の異なる自然の魔力がぶつかり合っているのだが、その真ん中にこれまた謎の魔力を発している沼地がある。
沼地は大いなる自然魔力がぶつかったせいで出来上がった坩堝なのか、はたまた、この沼地が元から謎エネルギーを秘めていて、山と森と海の魔力を掻き混ぜているのか。どちらが先か後かはわからない。
ただ、魔界の真ん中にある沼地が性質の異なる魔力を捻じ曲げたり掻き混ぜたりしているおかげで、東西南北で気候も地質も地形もめちゃくちゃで、多種多様な魔界の不思議環境が出来上がっているのは確かだ。
「うんうん、多様性は可能性」
俺はわかってきた魔界のわけのわからない環境にワクワクした。色んな環境があるということは、やっぱり魔界は色んな事ができるワンダーランドだってことだ。
森の中を観察しながら歩いていると、開けた場所にオーガたちが待ち構えていた。
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