星くず救出隊

 夕暮れに染まる川原に、<星くず救出隊>の犯行予告を知った人たちがどんどん集まってきた。

 雲ひとつない西の空が深い群青に沈んでいくと、対岸の高層ビル群の窓が、ひとつ、ふたつと明るく灯りはじめた。空が完全な闇色に塗りつぶされていくほど、ビルが密集する一帯だけが水晶のように美しく光り輝いていく。

 あの硬質な箱の中に、無数の星が閉じ込められている。

 川原に集まった人たちにとって、この町の光を独占してシャンデリアみたいにきらめいている高層ビルのエリアは、とても遠い場所だった。だから彼らは<星くず救出隊>の活躍に期待し、焦がれるように「その時」を待っていた。

 予告された決行時間の直前に、自然とカウントダウンの大合唱が始まる。

 さん、に、いち、

 ぜろ! と同時に、ビルの窓ガラスが一斉にはじけ、中に閉じ込められていた星が外へ飛び出した。光の粒は途切れることなくあふれ続け、自由になった星たちはまるで大量の風船を解き放った時のように、広がりながらふわふわと夜空にのぼっていく。

 星の軌跡が光の線になって漆黒の空に浮かび上がり、溶けるように消え、また別の場所に現れる。さかさまの流星雨。救出された星々は、空の定位置に戻ると、みずみずしい光できらきらと瞬いた。


 見物人たちが我に返るころ、天地のきらめきはすっかり逆転し、巨大ビル群は手品のように闇の中に消えている。

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