第2話:義体化技術
みなさま、ごきげんよう。
銀髪美少女メイドさんのノルンです。そういえば、メイド喫茶はありますけれど、家政婦喫茶ってあるのでしょうかね?
もっとも、普通にレストランなどで給仕をして頂けるだけで、メイドさんや家政婦さんみたいな感じではありますけれど……じゃぱんという国はほんと不思議ですね。
さて、今回も頑張って色々と解説しちゃいます、ふんす!
* * *
最初の量子メールはこちらです。
『全身義体ってどこまで義体化すんですんかねんす』
すんすんと鼻を荒く鳴らしていると、警察の人に通報されちゃいますよ?
さて、全身義体化についてですね。いわゆるサイボーグというものです。
サイバネティック・オーガニズム(Cybernetic Organism)、生命体(organ)と自動制御系技術(cybernetic。サイバネティックス)を組み合わせた言葉ですね。
「サイボーグ」という言葉ではなくヒューマノイドという言い方もされていたりします。
どこまで自動化すればサイボーグになるかどうかは定義が曖昧ですが、現在でもコンピューター制御の義手や人工心臓などを埋め込んでいる方は、ある意味サイボーグとも言えます。
ちなみにアンドロイドやバイオロイドとの違いは、元は人間であった場合はサイボーグ、元々機械であったものに生体部を持ったものはアンドロイドとなったりします。
アンドロイドはギリシャ語が語源ですので、アンドロは男性を指します。女性の場合はガイノイドと区別して使っている作品もありますね。
日本語で義体化というと、その文字の通り、一番最初に思いつきやすいのは手足が機械化されている事をイメージする方も多いでしょう。
ですが人工心臓などの内臓器官などを一部機械化、人工化する方も義体化に含まれます。
日本で馴染み深いのは石ノ森章太郎さんの作品『サイボーグ009』が有名ですね。顔や体型などはそのままに、通常のヒトよりも強い力や特殊能力が使えるようになっています。
内蔵などの意識化にない器官については自動化が為されますが、腕や足は意思があって初めて動きます。
皆様の世界線と時代では、筋電義手・筋電義足といったようなものを使って手足の代わりをしていますが、研究段階ではあるものの、前回説明した
また、VRゲームやワールドなどを通じて、食感や圧迫感、場合によっては匂いなどもシミュレーションで合成し、実際に触られたような感覚にする機械なども色々開発されています。将来的には五感すべてに対応できるデバイスが出来ても不思議ではないですね。
士郎正宗さんの漫画『攻殻機動隊』では、脳髄と脊椎以外は全て機械化されている全身義体が登場します。
有線や無線通信で会話できたり、広大なネットワークが存在している部分が目立ちますが、通常の食事を採ったり、義体化人用の食事があったりします。
つまりは、筋肉や駆動部分だけでなく、消化器官や循環器系、神経系などもほぼ全て機械に入れ替わっている描写も見受けられます。
全身義体化に辿り着くには、大きな壁がいくつもあり、胃や腸といった栄養吸収の仕組みや肝臓や腎臓といった化学プラントの処理を、ヒトと同様のサイズまで縮小するのは、かなり大変です。肝臓や腎臓の機能を代替させるには、巨大な石油処理プラント並の大きさが必要とも言われていたりします。
口から入った様々な有機物・無機物がいくつもの処理をされ、不要物はまとめて棄てられるようにしている事は、まさに宇宙の神秘と同様です。
2025年の段階でも、各医療系・ロボット産業系の研究者の方々が、その難題に挑んでいる最中でしょう。
わたくしが居る世界線では、2040年代にようやく商業ラインに乗せる事ができ、自分で外観をカスタムできるようにまでなりましたが、皆さんの世界線では、恐らくもっと時間を必要とするでしょう。
私の世界線でなぜそれが可能になったのかは、物語終盤に明かされます。
そうそう、イヤホンやメガネというものも義体化として扱われますので、「今から俺、サイボーグになる」といって装着するのも良いかもしれませんね。
その後、ご友人との仲が冷めてしまっても、当方は責任を負いかねますわ。
全身義体化には様々な問題もあります。故障や不具合、意図しない動作をするなどが合ったり、倫理や法的な問題、そして世界レベルでみれば宗教観も大きく関わってきます。
「サイボーグはヒトかモノか」という哲学的課題が、ずっと残る可能性が大きいですね。
寿命ももしかすれば、生身より短くなる可能性もあります。
内蔵の小型化も難易度が高く、新発見のナノマテリアルやナノマシンといったものを活用しなければ、小型化は難しとされています。そうでなければ、巨人サイズのヒト形になり、電車にも乗れなくなってしまいますね。
こうした課題が、皆さんの世界でどう変化していくのか、ノルンも興味が湧きますの。
ぜひとも、こんな感じだよ、と教えて頂ければ嬉しいですわ。
* * *
さて、それでは次の量子メールに行きましょう。
『この作品中での
すっすかすかすかではない事は確かですね。ザギまがいの中身が無いBMIデバイスも、通販サイトで売り出しそうではありますが、色々と問題になりそうですね。
私が居る世界線での
先出の『攻殻機動隊』では、首筋にジャックが付いており、有線接続をしている様子がありますが、この世界ではたいてい
これらの機能は倫理的観点から、直接脳に電磁波を送って一部の機能を麻痺させたり、活発化させたりという機能はブロックされています。また、イメージや記憶がユーザーの意図とは別に相手に伝わってしまう部分もブロックしています。
会話はあくまでも言語ベースであり、頭の中で喋らないと伝わらない、という制限があります。
一応、外部外骨格(パワードスーツ)と連動させる事もできるよう、拡張性は持たせてますが、社会崩壊前後で研究・実験は注視されています。
ドクター・カレンが持っているMRゴーグルとヘッドギアは特殊性があり、ある程度の感情や記憶などを共有できるようになっています。ドクターがフィルタを解除しない限り、その機能は封印されています。
これもまた、技術的転換期がいつ来るか、待ち遠しいですね。
* * *
さて、お次の量子メールです。
『ノルンちゃんの屋敷はあるのに、なんで更に城立ててんの? 引っ越すの?』
はい、歩いて数分の場所に適度な土地があったので買っちゃいました。美少女割引でタダで頂きましたの。
払う相手がもう居ないので、冗談ですよ。
お屋敷も城も、仮想空間上に描写されているもので、現実のシステムの大きさや、支配下範囲の大きさを示すバロメータ的な役割があります。
北米全土が完全掌握したら、城の一階部分くらいは出来上がる予定をしていますの。
お屋敷の方は、一時的に拡張を止めていますが、エネルギーや物資に余裕が出たら、お屋敷も拡張されていきます。
現実にはお屋敷も城も存在しませんが、巨大なシステムになるとそうした比喩的なアセットを使う事で、視覚的にも分かりやすくなり、整理も付けやすいのです。
地球の自転やある程度の天候や季節表現、風や水の動きなどもシミュレーションを同時にできますので、わたくしにとって心地よい空間になっています。
ティーセットなども庭先にありますので、ここまで来れたのなら、お茶会で歓迎致しますわね。
さて、それでは次の量子メールです。
『多世界解釈シミュレーションってどげん?』
どげんどがん、ドMなんですね。生きるのが大変そうです。
まずは、多世界解釈とは何ぞや、という説明をしていきますね。作品本編中でも多世界解釈についての説明ブロックがあります。まずはそこを読んでみてください。
(第15話:眠った天神 冒頭部分)
多世界解釈は、少子力学でも複雑な絡み合いがあり、◯◯方程式や◯◯仮説といった、様々な要素が絡み合っています。
ここで説明するのも長くなり、重要な要素ではあるものの、シンプルにパラレルワールドと解釈していただければ幸いですわね。
皆さんの世界線での科学では、平行世界に対して移動や干渉を行う事はできない、とされています。SF作品の多くは、過去に飛んで別の未来を作ったり、人物が移動して様々な体験をする作品があったりしますが、これはかなりファンタジー寄りのものですね。
私の居る世界線でも、まだまだ仮説段階のものが多く、宇宙の構造や不明な物質が山程存在しています。
私が「多世界解釈シミュレーション」を行えるのは、量子コンピュータによる計算と、バイオモジュールを活用したカオス理論や生物学的選択などを利用する事で、ある程度の未来予測的なものが、計算上だけはできるという事です。
その選択をすれば、「こうなるかもしれない」程度のもので、完全な未来予測は不可能です。
それが、その計算を行う事で、自分の選択がどう未来に変化をもたらすか、何かが起きようとしているのであれば、前もって対応策を行うなど、予防的な使い方もできるのです。
これが「多世界解釈シミュレーション」です。
* * *
さて、そろそろ最後の量子メールに行きましょう。
『ノルンちゃんのスカートの中身って宇宙なの?』
センシティブガードが掛かっているので、観測できませんわ。宇宙があるかどうかもわかりませんね。
とにかく、このメールと送り主は、素粒子レベルまで分解しちゃいましょう。
それでは皆様、ごきげんよう。
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