4話 事件は炎に包まれて(後編)

 メアリーが意識を手放そうとした瞬間。


「俺はそんな指示はしていない」


 背後からローブを着た男が現れた


「だがよー旦那、好きなだけ殺していいって言ったのはあんただろ? 今更しゃしゃり出てきて、あれこれ指図するのは違うんじゃ...」


「黙れ、お前らは黙って雇い主であるこの俺に従えばいい。 その女は押さえとけ聞くことがある」


 そうローブの男が言うと、傭兵らしき男はメアリーの首から手を離し、軽く持ち上げ首筋に刃をを当てた。


「嬢ちゃん、命が惜しけりゃ動くんじゃねぇぞ」


 元より萎縮し動けなかったメアリーは、その震えすら許さぬ威圧に完全に硬直し、首をコクコクと頷くことしかできなかった。

 するとローブの男が口を開いた


「聞きたい事は一つ、地下に行くにはどうすればいい?」


「えっ?」


 メアリーにはその言葉の意味がわからなかった。

 そもそも地下室があるということ自体初耳だったのだ。


「ちっ、地下室なんて知りません...」


「いや、知っているはずだ。

 かつてパウエル子爵はそこに秘密を封じ込めた。俺は、その秘密が欲しいんだ、そのためならなんだってする。」


 その言葉に確かな意志を感じだメアリーまた震え出した。


(多分私は殺される...いやだ死にたくない...怖い...助けて)


 その時ローブの男は何かに気づいたように近づきメアリークビにかけてある懐中時計を手に取る。


「これは....」


「かっ、返してください父親の形見なんです」


 メアリーの顔がさらに青ざめる。

 ただならぬ焦燥を感じた男はメアリーに再度問う。


「そうか返して欲しいか、しかしそんな心配をしていていいのかな? もう一度聞く、地下への行き方は?」

「本当に知らないんです! どうかそれを返してください!」

「そうか...まだ嘘をつくか......」


 そういうとローブの男怒りのままに懐中時計を床に叩きつけた。


 ガシャン。


「さぁ言え! 次はない、また嘘を言えば次壊れるのはお前の命だ!」


 その時メアリーはひどい頭痛と共に自分の奥深くに閉じ込められていた’’何か’’が解き放たれる感覚がした。


(なっ、なにこれ!? 頭が、割れるっ)


「おいっ、どうした、聞いているのか、おい!」


 ローブの男が呼びかけているようだが、ひどい頭痛で碌に聞き取ることができない。

 その直後だった。

 メアリーを押さえている大男が宙を舞ったのは。


 メアリーはあろうことが刃物を払い除け大男を投げ飛ばしたのだ。


「グハッ」

「「えっ...」」


 ローブの男とメアリー二人分の疑問符がその場に停滞する。


(私、今なにを? まさかこんな大男を投げ飛ばした!?)


 メアリー自身さっぱり状況が読めなかったが、この好機を逃すまいと時計を拾い上げ、窓から飛び出した。


「小娘が逃げたぞ! 追え! 捕まえろ!」


 大男の怒声が飛ぶ。

 必死に走るメアリーの目には奇妙なものが映っていた。


(なにこの光、手が脈みたいに光っている!)


 考えながら走っていると目の前から手下の男が飛び出してきた。


「逃げんな!」


 手下の男が剣を振り降ろそうとした瞬間、メアリーは姿を消した。

 否

 視線が追いつかないほど早く懐に潜り込み腹に掌打を叩き込んでいたのだ。


「ぐぼあっ!」


 吹き飛ぶ下っ端を尻目にメアリーは走り続ける。


(やっぱり、なんでか体が勝手に動く、それに軽い!)


 メアリーが追手を捌きながら屋敷の出入り口にたどり着いたその時だった。


 ガクン。

 

 メアリーの体が崩れ落ちる。


「あっ、あれ? 力が入らない...どうして? あんなに動けてたのに...」


 メアリーの手には先程までの光は無く、体の内側から湧き出るような力も失ってしまった。


「ハァ...ハァ...や、やってくれたなオイ...」


 吹き飛ばされた男は、腹を抑え足を引きずりながらもメアリーに近づく。


「おいお前ら出てこい!生き残った女がいるぞ!」

「なんだと!」

「殺す!」


 屋敷の中と外からぞろぞろと兵士たちが出現し、メアリーを捕まえようと襲いかかってくる。


「ひっ...!に、逃げないと...!」


 力を失い、抵抗する事が出来ないメアリーは走る。手紙に記されていた場所に向かう為に。


 

 そして時間は進み...。


 

「ということが...」

「なるほどそんな事が...」


 現在、事務所で話を聞いていたレイは、メアリーの過去を聴きながら渡されたメモを見ていた。

 そこには簡単な地図と{ライトブルーの薔薇をあなたに}という文字があった。


「よし、とりあえずアンタからの事情聴取は終わりだ。次のステップに移る」

「次のステップ?」


 レイは書ききったメモ帳を閉じ、扉の前に掛けてあるジャケットを手に取り言った。


「事件現場に向かうんだよ。やっぱり捜査は足を使わないとな。まぁやることも山積みだし1つづつやっていくか」

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