3話 事件は炎に包まれて(前編)

「あれは昨日の夕方のことです。」

 

 メアリーは事件が起こった時の事を語り出す。

 その日、メアリーの誕生日パーティがあり、朝から屋敷の人間は慌ただしく準備をしていた。

 

「あら〜良いじゃないメリー!凄い似合ってるわよそのドレス!」

「もうお母様ったら...何もそこまでしなくても...」

「何言ってるのよ!大切な娘の誕生日なのよ!主役のおめかしなんて一番気合いを入れてやらなくちゃ!」

 そう言いながら、メアリーの母は自身の娘の服を選ぶ。

「おい、そろそろ料理が運び込まれてくるだろ、手伝ってくれ」

 

 メアリーの父がそう言うと、母は立ち上がり、屋敷に運び込まれてくる料理を受け取りに戻る。

 

「ふう...お母様に着せ替え人形のようにされ疲れたわ...少し休憩しようかな...」

 

 そう言ってメアリーは眠りにつく。


 

 ...それが両親との最後の日常だと気付かずに。


 

 1時間ほどしたのち...


 

 部屋の外からの焦げ臭いにおいと、肌を焦がすような熱波でメアリーは飛び起きた。

 

「何かしら...この臭い...」

 

 気になって部屋から出てみると、そこにあったのは、先程まで綺麗に飾り付けられていた家具や床、壁が燃え上がる屋敷だった。


「なに...これ...」

 

 メアリーは困惑する。自分が寝ている隙に何が起こったのかわからず脳が理解を拒む。

 

 「と、とにかくお父様とお母様のところへ行かないと...!」

 

 メアリーが階段を降りた瞬間、先程よりも更に激しく階段が燃え上がる。

 

「お父様?、お母様?、どこにいるのですか?」

 

 必死に声をかけるが、周りから聞こえるのは炎が燃え盛る音のみ。

 そうしてたどり着いたダイニングでメアリーは衝撃の光景を目にする。

 

「お母様!しっかりしてください」

 

 駆け寄り、揺するがメアリーの母はすでに息絶えていた。

 

「そんな...お母様...」

 

 泣きそうになりながら母の亡骸を見つめていると。

 

「メア...リー...」

「お父様!」

 

 声の方に振り替えるとそこには、何者かに刺され壁に寄りかかった父の姿が。

 

「どうされたのですか、すぐに止血を!」

 

 必死に介抱しようとするメアリーの手をそっと父が包む。

 

「もう...いいんだ...僕はそんなに長くない...」

「何を言うんですか!、すぐ治療すればまだっ!」

 

 そういいかけたメアリーの言葉を父は視線だけでとどめる。

 

「メアリー...立派になったな...」

「っ!」

 

 その一言でメアリーは悟った、父はもう助からないと、それを父自身わかっているのだと。

 刺された場所からとめどなく血が流れ出て、もはやあと数分で命が尽き果てる事を嫌でも理解してしまう。

 

「お父様...ぐすっ...死なないで...私を、一人にしないで...」

 

 涙を流すメアリーの頭を撫でながら父はこう続けた。

 

「メリー...このメモを受け取ってくれ...」

 

 父は先程から握っていた紙をメアリーに差し出す。

 

「これは...?」

「私の知り合いの居場所が書かれている...彼なら...きっと...君の助けになるはずだ...」

 そう言うと父は冷え切った手でメアリーの頬を撫でる

「メアリー...強く...いき...ろ」

 そう言うと父は息を引き取った

「お父様...お父様...!」

 父の身体に縋り付き、年甲斐もなく泣きじゃくるメアリーの元に突如、怒声が聞こえた

「なんで燃えてんだよ畜生」

「誰!?」

 すると男はメアリーに気づき近寄ってきた

「んだぁ?この女...まだ生き残ってやがったのか」

 明らかにこの屋敷にいた使用人では無い男に、メアリーは恐怖する。

「貴方が...貴方がこの家を...家族を...!」

「あ?俺は燃やしてねぇ。燃えてたせいでここまで来るのも楽じゃねぇんだよ」

「まっ、そこの女共は俺が殺したがな」

 男はメアリーの首を掴み、空中に持ち上げる。

「剣で殺るのも良いけどよぉ、やっぱ素手でじわじわ殺るってのも生と死を感じられていいだろ?」

「がぁっ...」

 メアリーは首を絞められ、段々と意識が遠のいていく。

「いや...まだ死にたくない...まだ...何も分かってないのに...」

 メアリーが意識を手放そうとした瞬間。

「俺はそんな指示はしていない」

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