第一話 再会

第一話(1) 再会

 朝日が眩しく輝いている。

家から高校までは自転車で三十分ほどだ。

白い息を吐きながら自転車を出す。


 自転車をこぎだすと、冬の容赦ない寒さが襲ってくる。


 十分ほど自転車を走らせると、大きな霊園が見えてきた。ここには、飯室さんの奥さんが眠っているらしい。そして、僕が小学校六年生の時に亡くなった母方のおばあちゃんも眠っている。


「凛空くーん!おはよー!」


 びっくりして自転車を止めると、商店街の八百屋のおばさんだった。


「おはようございます」


「凛空くん、今日は部活?」


「え…と、今日は無いです」


「そう、じゃあ、学校が終わったらうちに来るといいわ。ねえ!昨日、唯花ゆいかが東京から帰ってきたの!いま家にいるから!」


 凄い勢いだったので一瞬、仰け反りそうになった。


 唯花さんは、おばさんの娘で、三つ上の先輩だ。小さい頃からの馴染みなので、昔はよく遊んでもらっていた。最近は東京の大学に通っているらしく、会うのは四年ぶりだ。


「そうなんですか!それは楽しみです!あ、僕はもう学校に行きますので…!」


「気をつけてねぇ!」


 何とか、心からの喜びを上手く演じた。

 僕は、やはり母の子供で、言われたら断れないタチだ。正直四年も会ってない大学生の異性の先輩と再会なんて、気まずいにもほどがある。


 

 少し暗い気持ちで自転車をとばしていたら学校に着いた。


「おはよう」


 門にはいつも体育科の生活指導の先生が立っている。


「おはようございます」


 僕は高校での二年間、いままで無遅刻無欠席だ。僕は自分で言うのもなんだが、真面目な生徒ではあると思う。


「よぉ、凛空!」


「へ、あ、律か」


「おーいなんだよ、それ」


 律は今日も鬱陶しくだる絡みしてくる。

律とは小学校からの付き合いで、チャラいし、赤点ばっかりとっているため先生たちから目をつけられている。


「なぁ、昨日あのクラスの伊藤がさー、隣町の先輩と…」


「え!?何々?!」


歩きながら話していると同じクラスの奴らがたかってきた。


 僕はどさくさに紛れて人と人の間を通り抜ける。

 律は嬉々としてクラスメイトたちに話しているなか、僕は流れるように自席に着く。


「秋森くん、おはよ。元気?」


隣の席から声がする。


芝山しばやまさん。おはよう」

 

 芝山 和彩あいささんは、そこそこ可愛くて評判がある子だ。僕は席が芝山さんの隣であることを妬む奴もいるくらいだ。


「秋森くん、顔色悪そうだけど…大丈夫?」


「え?まあ、うん。大丈夫」


「そっか、体調悪くないならいいや」


「心配ありがとう」


それに対する返答はもう返ってこない。



「はーい、静かにしてーHR始めるよー」


今日も、同じような朝が訪れる。


***


「おい、凛空。今日は部活あんの?」

帰りのHRが終わると、いつも通り律が来る。

「今日は無いけど、この後用事あるから」


「また澪ちゃんの面倒とか?」


 律は昔からの馴染みだから、うちのことは大概知っている。僕がたまに澪ちゃんの面倒を見ていることも。


「えと、今日は八百屋のおばさんに呼ばれてて」


「ほーん。あー!そうそう、あそこん家の娘さんトーキョーから帰ってきてるんだってな」


「あぁ…うん」


「確か大学生だっけ、凛空、仲良かったもんな、唯花センパイと」


「……」


「トーキョーの女ってどんなカンジなんだろうな。もし会えたらラッキーだなお前っていうか紹介してくれ!これ絶対な!!」 


「え……?」


「んじゃ、また明日ー!」


律は嵐のように去っていった。


 はあ、唯花さんと会ったらなんて挨拶すればいいんだっけ、とぼんやり考えながら夕日が差し掛かる商店街の八百屋へと自転車をこいだ。













 


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