第25話 深淵の森での一週間生活 大海原のダンジョン編 ④

 亜空間ワールドに火山と温泉が出来た昨日。

 火山の場所はアクア様の湖の向こう側。


 「溶岩や灰が降ってこられても困るので、休火山にしました」


 「うむ、それがいいだろう。静かなのが1番だ」


 「温泉は引っ張ってますから、いつでも入れますよ」


 「ふむ、流石ジュド。仕事が早いの」


 ……うん、これだけ聞くと、アクア様がマスターに聞こえるよね。一応、ジュドは僕に1番に報告くれるから、ご心配なく。


 そして、亜空間ワールドの江戸商店街は、今や江戸温泉街。いい感じになって来たんだ。


 ん?ダンジョンで野営は?って?


 亜空間ワールドがあるからねえ。夜は船ごとこっちに戻って来て、みんな布団でぐっすり寝たんだ。


 へへ、快適に過ごせるんだもん。それに越した事はないしね。あと、昨日の夕食は凄かったよ!


 ジュドが作れる味噌鍋に、マグマレッドボア入れたら、正に頬が落ちる程美味い!って体験をしたんだ!

 

 ボア肉の臭みなし!肉の柔らかさは最高!味噌だれと薄切り肉のコラボレーションが素晴らしい!


 力也さん、楓さん、空我さん、アクア様までおかわりの連続だったんだ。僕と雅也さんも一回はおかわりしたかな。ジュドもガツガツ食べてたし。


 そして、ジュドに本館にも温泉引いて貰って、源泉掛け流しにして貰ったよ。あ、でも泉質弄れるって言ってたから、本館は硫黄泉質を薄めて貰ってる。


 いつもあの匂いをつけてたら、魔物にすぐ見つかっちゃうからね。


 そして今日もぐっすり眠って体調は万全!


 朝からキングブルーフィンテュナ丼(マグロ丼)を食べて、お腹も満たしたし、早速船に乗り込み、またダンジョンの中に戻ったんだけど……


 「へえ……!島が戻ってる」


 「あれか?やっぱり魔物みたいにリポップすんのか?」


 「だとすると、遠慮は要らんという事か」


 力也さんと空我さんが言うように、取り込んだ筈の島が復元されていたんだ。それを見たアクア様は、ニヤっと笑ってジュドに聞こえるように呟いたんだよ。


 ジュドったら「最初から取り込みますか?」って身も蓋もない事言うんだもん。そこは流石にある程度見てからってお願いしといたんだ。


 「まあ、次は『食糧庫』だ。いずれにしろ、取り込むべきだな」


 いつのまにか案内役になったアクア様曰く、主に果物や野菜が取れる島らしい。全員一致で賛成をし、今日も航海へと乗り出したんだ。


 ダンジョンの大海原は今日も快晴。


 波も変わらず、船には結界を張り直しているし、アクア様の案内のもと順調に次の島へと進んでいたんだけど……


 「あー、最近平和だよなぁ」


 「なんだ?力也は暇を持て余しているのか?」


 「え?まあ、乗ってるだけじゃ暇だよなぁって……」


 「ほう……そうか」


 力也さんのこの言葉で、アクア様が何やら思案顔。そしてジュドに何やら相談したと思ったら……


 「うえええ!ちょ、ちょっと!コレはないだろ!?」


 なんと!本船から太い綱で繋がれた帆なしの小さな回船に、一人力也さんが乗せられている自体に。今は結界を張っているから大丈夫だけど……アクア様のスパルタな一言。


 「淘汰、力也の結界を解け」


 「うそおおおおおお!」


 力也さんに悪いけど、アクア様から理由聞いていたからなぁ。


 アクア様と共闘した昨日、風光の跡メンバーの弱いところを見つけたらしいんだ。


 力也さんの弱いところは……


 「ちょおおお!多方面から来すぎだろうがああ!」


 現在バイクカラシン(魔魚)の群れと交戦中の力也さん。背中を風魔法で防御しつつ、剣でザザザザンッと倒している。


 ……どこに弱点があるんだろ?


 「あ、グッ!」


 そう僕が思っていたら、なんと力也さんが魔魚の牙で腕にケガをした!え?何で?


 「あー、力也の奴……油断したな」


 「ちょっと調子良いとすぐ気を抜くんだよなぁ」


 僕の隣で見ていた雅也さんと空我さんが「気を抜くな!力也!」と声をかけている。


 どうやら力也さんは、気を抜いてケガをする事が多いらしい。アクア様曰く、戦闘はいつも死と隣り合わせだからこそ、徹底的にその癖を無くすように訓練が必要だって言ってた。


 ……僕、1番抜けてる気がするんだけど?え?ジュドとアクア様でカバーするから良いって?有り難いやら、引け目を感じるやら……


 まあ、みんなからも僕が動くのは最小限で良いって言われちゃったよ。一応全属性なんだけどなぁ。


 なんて考えてからしばらく、力也さんが解放されたのは三つの魔魚の群れを全滅させてからだった。


 本船に戻って来てハアッハアッ……!と肩で息をする力也さんに、僕が回復を付与したレモン水を渡すと、グイッと一気飲みする力也さん。


 切り傷も全回復した力也さんは、甲板の上で大の字になって「アクア様……スパルタすぎっだろ……!」と愚痴を吐いていた。


 「何をいうか。まだまだ油断しおって。当分続けるからの」


 「ゲ!?マジで!!」


 まあ、アクア様はコレで終わりにするつもりは毛頭なかったみたいだけど。頑張れ、力也さん……!


 そしてアクア様が次にターゲットにしたのは……


 「えっ!ちょっと、俺ですか!?」


 転移魔法で、雅也さんをさっきまで力也さんがいた船に移動させたアクア様。


 「雅也にはコイツだの」


 アクア様がジュドに頼んで海に投げた魔獣は、キングブルーフインテュナ(マグロの魔魚)の大きな大きな塊肉。


 「え……!?あんなデカい餌でおびき寄せる乗って、まさか……!?」


 雅也さんは何か勘付いたのか、サアアッと血の気の引いた表情になってたけど……え?何かデカい影が来た……!?


 すると大きな波が塊肉を飲み込み、一瞬で姿が見えなくなると……


 「雅也!備えろ!!」


 空我さんが叫び雅也さんに指示を出した途端に、船に襲いかかる大きな波と黒い影。


 「【雷牢獄(サンダープリズン)】!」


 ガッチリ船に捕まりつつ、小舟全体を雷の牢獄で囲った雅也さん。


 「クォオォォォォォ……!!」


 大波から姿を現したのは、なんとクジラ並みに大きなシャチのような魔物。雅也さんが乗っている小舟をジャンプして避け、海面に大きな音と荒波をたてる様子に空我さんが叫び声を上げる。


 「雅也ぁっ!奴がオルキ“ヌスオルガだっ!魔法を消しにくるぞっ!!」


 「ああ!!わかってる!!」


 どうやら波を水魔法で抑えて耐えていた雅也さんに対し、空我さんが忠告したようにオルキ”ヌスオルガが口を開けて何か波動を放っていた。


 すると、パシュンッッ!と雅也さんの魔法が消滅し、さらに雅也さんに大口を開けて襲ってくるオルキ“ヌスオルガ。


 「クソッ!」


 雅也さんは即座に大きな光で目眩しを放ち、なんと、その場から海へと飛び出したんだ!


 ええ!!海に落ちたらアウトでしょ!


 僕が「雅也さん!!」と叫んでいると、海面の上をサーフボードを乗っているのように波に乗る雅也さんの姿が!


 水をサーフボードの形に固形化させて、ジェット水流でオルキ”

ヌスオルガの魔法消滅波動を避けて動いているんだ。


 「すっげー!雅也さん!」


 僕が興奮していると、「駄目だ!雅也の気力が持たねぇ!」と力也さんが身を乗り出してきた。


 慌てて雅也さんの表情をみると、確かに苦しそうな顔をしている……!


 魔力量は小さな頃から鍛えてきただけあって豊富な雅也さんだけど、魔法の二重展開に加え、最高出力で逃げ回るには集中力と気力がかなりすり減るらしいんだ!


 「クォオォオオオオ!!」


 苛立ったらしいオルキ“ヌスオルガが一声吠えると、パシュン!ッと雅也さんの水魔法が消えてしまった!


 「危ないっ!!」「「「雅也っ!」」」


 これには流石に危険を感じた楓さんも含め僕らが叫ぶと……


 魔法が消える瞬間、上にジャンプした雅也さん。クルっとオルキ”ヌスオルガに向き直り、両手を突き出したんだ!


 「【光速雷撃(ライトニングタキオン)】!」


 キィンッ……!と音がしたと同時に、ボシュッとオルキ“ヌスオルガ頭部に大穴を空け、貫通する程の稲妻を纏ったレーザーが放たれたんだ。


 どうやら、魔法消滅波動を放つ暇を与えない程の速さと、最大威力のレーザーと雷魔法の掛け合わせのオリジナル魔法らしい。


 その後はフッと気力が尽きたのか、ドボンッと海に落ちた雅也さん。「頃合いか」と言ったアクア様によって、海中から転移魔法で甲板へと救い出されたんだ。


 甲板に姿を現した雅也さんをみた僕らは、即座に介抱に向かう。


 力也さんが風魔法で衣服を乾かし、僕が浄化魔法で全体を綺麗にすると、雅也さんの周りを無重力状態にして楓さんが船内へと運び込む。


 雅也さんの様子に空我さんは流石に怒りを覚えたのか、アクア様に掴みかかっていた。


 「いくらなんでも危険すぎるだろうがっっ!!」


 「……ふむ。我が助けられないとでも思ったか?空我よ」


 「それでも!方法は他にあっただろうが!!」


 力の差がありすぎるアクア様にも仲間の為に怒りを表す空我さんに、正直、僕はどう対応すれば良いかわからず、オロオロしっぱなし。


 そこに仲裁に入ったのは、やっぱりオカン属性のジュド。


 「空我、アクア様がただ黙って見ているわけがないでしょうに」


 カポカポと歩いてきて、空我さんの背中に落ち着くように鼻を擦り付けるジュド。


 ジュドの説明によると、アクア様は他の魔物が邪魔に入らないように威圧を放ちつつ、本当に危険な場面では実はサポートもしていたらしいんだ。それに……


 「雅也が複合魔法に取り組んでいたのは知っておるだろう?手助けのつもりだったのだがな……」


 優しく語りながらも少し悲しい表情をしたアクア様に、空我さんも怒りが抜け落ちたらしい。


 「悪かったっす……」とアクア様の着物を離し、ペコリと頭を下げてメンバーがいる船室へと向かった空我さん。


 僕はアクア様の方に駆け寄って、アクア様を慰めようとしたんだけどね。


 「淘汰よ……仲間というものは良いものだの。あのような仲間に我もなれるだろうか?」


 力のあるアクア様が見せた一瞬の気の弱さ。


 ……うん、最強種のアクア様でも弱いところはあるんだなぁ、とちょっとホッとする僕。だから、言い切ってあげたんだ。


 「もうアクア様も僕らの仲間ですよ。アクア様が仲間じゃなかったら、僕泣きますよ?」


 僕の言葉にクシャっと笑ったアクア様。


 「そうか、泣くのか……!フフッ、そうよの。ならば、様子を見に行ってこようかの」


 安堵した表情で船室へと歩いていったアクア様は、再度風光の跡メンバーに謝った上で「許してくれるか?」と尋ねたらしい。


 メンバー全員その行動に驚きつつも、アクア様がそこまで自分達にも気を許してくれている事がわかり、気づいた雅也さんも加わり謝りあったとか。


 おかげで、僕らの仲間意識と絆は深まり、その日の晩御飯の時にはアクア様との距離が更に近くなった風光の跡メンバー。


 僕もジュドもその様子にニコニコしてたんだけど……


 「まあ、私は嫌われる要素はありませんから」


 なんて余計な一言を言って、みんなから突っ込まれて何気にショックを受けていたジュドには笑ったなぁ。

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