第24話 深淵の森での一週間生活 大海原のダンジョン編 ③

 上陸した島の山頂からもくもくと上がる黒い煙……!

 ゴゴゴゴ……と地鳴りの音が響く中……僕らはどこにいるのか?


 「はぁーーー!これぞ和の心!」


 「力也よ。ワの心とはなんだ?」


 「アクア様、力也の言葉は気にしない。適当に言ってるだけっすよ」


 「まあ、気持ちはわかるけどね」


 硫黄の匂いと湯気が立ち昇る中、一応パンツは履いたままでひとっ風呂を浴びている僕ら男性陣。


 楓さんとジュドはこの辺りの散策に行っているけどね。


 なんでこの状況になったのかって?そのきっかけを作ったのは、やっぱりアクア様なんだ。




   ◇




 「お?着いたか、風呂に」


 最初の島に着いた事を告げに行った時に、アクア様が何気なく発したこの言葉。風呂好きの元日本人が聞き逃す訳もなく……


 「何か腐った匂いのするお湯が湧き出る泉?」


 「ちょっと待て!さっきからゴゴゴゴ……って言っているのは火山か!?」


 「だとしたら温泉しかないじゃん!」


 アクア様のいう事をまとめた雅也さんに、状況を掴んだ空我さん。それから導き出した答えをいう力也さんによって、この島の温泉に寄る事は決定となったんだけどね。


 勿論ここはダンジョンの中。そして、温泉の中にも周囲にも当然魔物がいるわけで……


 「うん!温泉の為なら魔物を弾く結界を張ろう!」


 温泉と聞いた僕が、何よりやる気を出したんだよね。


 「【魔物強制退去】!」


 ブゥン……ッと100m×100mくらいの四角い結界に付与魔法を張ると、中にいた魔物がブワッと外に飛び出して行ったんだ。


 流石に温泉の中にいた魔魚が地面でビチビチ跳ねているのは、魔魚とはいえ可哀想に思ってしまったわけだけど。


 それはそれ。すぐさま雷で仕留めてサッと亜空間ワールドに取り込む抜け目のないジュド。


 「これは削りブシにでもしますかね」


 ……ジュドが段々とオカン状態になっているのは、明らかに僕の影響だね……


 と、ともかく、入れるようになった温泉に手を入れると、ちょっとあっついかなってぐらいなんだ。


 躊躇せずにサッサと脱いで、全裸で温泉へと入って行ったアクア様の様子を見て、力也さんや空我さんも脱ぎ、念のためパンツは履いとけと雅也さんの忠告に従って、ザブンと入った天然温泉。


 で、温泉に浸かる事しばらく……


 「うーあー……これでダンジョン攻略中ってありえねえわ」


 「俺らもう淘汰達と離れられねえよなぁ」


 「というか、置いていかれないようにしないとね」


 力也さんの言葉に空我さんが同意し、雅也さんの言葉でハッと僕の顔を見る3人。


 「置いて行きませんて。僕にとっても、みんなはもうかけがえのない仲間なんですから」


 「「「淘汰ー!!」」」


 なんて茶番じみた会話をしつつ遊んでいたら、出来上がったのは湯あたりした男性四人組。


 この温泉に慣れているアクア様はなんともなかったけど、硫黄温泉ってのぼせやすいんだって。ジュド曰く、「多分こうなると思ってました」とレモン水を出してくれたけどね。


 最初に言ってくれよぉ。


 なんてジュドにブーブー文句言ってたら、アクア様まで笑って同意してたけどさ。でも、異世界で、天然温泉に入れたんだもん!悔いは無い!


 「みんな、温泉臭い」


 すると、タイミングよく戻って来た楓さん。デカい獲物を仕留めて結界の外に置いているからって、ジュドを呼びに来たらしい。


 で、その獲物を鑑定したのがコレ。


 『マグマレッドボア Bランク 3m級のマグマに耐える身体とマグマボールを吐き出しながら突進して攻撃する猪の魔物。弱点の核は両目の間。皮は防具に、身はジューシー且つ柔らかで美味』


 「よくやった!楓!」


 「ん?楓、どうやって倒した?」


 「重力思いっきりかけて眉間にブッ刺した」


 僕の鑑定の結果に喜ぶ空我さんの一方で、疑問に思った力也さんは、楓さんの答えに「また一人で無茶しやがって」と楓さんをデコピンしていた。甘んじて受ける楓さんもだけど、やっぱり仲いい兄妹なんだなぁ、と僕はほっこり。


 そんな中、ジッと獲物を見つめるアクア様。


 「この島で1番美味いのは、コイツだの。全部仕留めにいくか……?」


 その呟きに乗ったのが、湯あたりから復帰した3人。早着替えをして準備を整え、アクア様を連れ立ってウキウキと狩りに行ったんだ。


 え?僕?僕は亜空間ワールドの為に色々採取しようと思っていたから、残ったんだけどさ。


 「淘汰……私も温泉入りたい」


 女の子にこう言われたら、やっぱり動くでしょう!


 作りましたよ、簡易女風呂!土魔法で四方の壁を作り、木のドアをジュドに出して貰って設置しましたとも!


 ちゃんとカゴとタオルも亜空間ワールドから持って来たし。


 準備が出来た事で呼びに行ったら、「ありがと」と僕の頭を撫でて笑顔で入って行った楓さん。喜んでくれたら僕も嬉しいし、美人な楓さんのお風呂の見張りは役得だしね。


 「マスター、鼻の下が伸びてますよ?」


 「そ、そんな事ないよ!と言うか、ジュド。やっぱり温泉も亜空間ワールドに欲しいけど、何か案はある?」


 からかって来たジュドに、焦って話題を変える僕。あ、本当に温泉は欲しいって思ってたんだよ!?


 「勿論です。お任せ下さい」


 自信ありげに言うジュド曰く、江戸時代は銭湯があったらしく、商店街の一角に銭湯ならぬ天然温泉をつくる予定でいたんだって。


 「まあ、風俗まで江戸時代だと、マスターが大変でしょうから、きちんと男女別に作りますよ?」


 ……一言余計なんだよ、ジュド。


 うん、江戸時代は男女一緒に入っていたらしいし、男の三助が女性の身体を洗うって事もあったらしいからね。


 ……ちょっと羨ましいって思った事は秘密だけど。ジュドにはバレてるんだろうな……


 ジュドをみるとブフッと笑ってたし。勝手に考え読むなって!


 なんてジュドと戯れつつ、僕らは待っている間にマグマレッドボアを取り込み、辺りの魔物も駆除をしておく。そんな中、ちょっと気になった江戸事情。


 「ねえ、ジュド。肉の料理ってジュドまだ出来ないの?」


 「一応、江戸時代って、肉を食べる事がタブーだったんですよ。とはいえ一部なら出来ますよ」


 「ん?どう言う事?」


 「どの時代も、人間は言い訳が得意なんですよ。山鯨と言って猪を食べていたり、薬と言って牛肉の味噌漬けを食べていたり、江戸の後期には軍鶏も食べていたり。それに長崎の出島では肉パラダイスでしたからね」


 だから、猪や軍鶏の味噌鍋、牛肉の味噌漬け、焼き鳥は出来ますよと言うジュドに、肉料理はまだ自分で作った方がいいかなぁ、と思った僕。


 しばらくして楓さんが上がった頃、本当に島中のマグマレッドボアを狩って戻って来た男性陣。成果は亜空間ワールドに戻ってから、と言う事で船へ戻ったんだ。


 でも、最後までジュドが乗らないからどうしたんだろう?って思ってたらね……


 「マスターのご要望の為ですし……」


 何か呟いたジュドが振り返って島を見つめていると、パアアッと島自体が光りだし、なんと島が丸ごと無くなったんだ!


 「「「「「えええええええええ!!」」」」」


 僕らの絶叫と共にジュドが船に戻って来たんだけど、「コレでいつでも温泉に入れますね」とご機嫌だったジュド。


 ……そういえば、ジュドも温泉入りたそうにしてたっけ……


 唖然とする僕らの中、唯一、アクア様だけが冷静に一言。


 「島に着くたびに亜空間ワールドに取り込んでいくのも有りだな」


 なんて言ってたけど……そんなのダンジョン攻略っていうのかな?と思うのは僕だけだろうか?

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