第6話 遭難したんですか、そうなんですね。とか言っている場合じゃない


 魔界へ行っても自由に動けると言われるお守りを作るため、その素材を集めるベーキウたち。素材の一つ、アオクーサを手に入れるためにモリモーリと言う森の中へやって来た。そこででかい蛇に囲まれたが、それなりにチートレベルの戦闘スキルがあるベーキウたちの敵ではなかった。


 ベーキウたちによってボコボコにされた蛇たちは、集まってシャーシャーと音を鳴らした。それを見たベーキウは、クレイモアを構えながら呟いた。


「会議のつもりか? 何を言っているが分らんが」


「蛇の言葉はわらわでも分からん」


「何か変なことをしなければいいんだけど」


 ベーキウの呟きを聞いたクーアとキトリはこう言ったが、シアンはにやりと笑って蛇の中に突っ込んだ。


「とりあえず今が攻撃のチャンス! 蛇共を一気に倒す!」


「あ、待てシアン! あいつらが変な動きをするかもしれないぞ!」


 突っ込んだシアンの後を追いかけるように、ベーキウが走り出した。その直後、蛇たちは高く飛び上がり、勢いを付けて地面の中に潜った。蛇の頭が地面に衝突した際、強い風圧がベーキウとシアンを吹き飛ばした。


「おわっ!」


「キャアッ!」


 吹き飛ばされたベーキウとシアンは、森の奥深くに向かって飛んで行ってしまった。


「ベーキウ! シアン!」


「あの蛇共、一度逃げおったな。だが、今はあの二人の後を追いかけるのじゃ! 行くぞ、キトリ!」


 クーアは急いでキトリの手を握り、吹き飛んだベーキウとシアンの後を追いかけた。




 吹き飛ばされたベーキウは、胸元にいるシアンの方を見てこう言った。


「怪我はないか、シアン?」


「大丈夫。ベーキウが守ってくれたおかげだよ」


 シアンは立ち上がり、座り込んでいるベーキウを見た。その時、ベーキウの左足のズボンが破けているのを察知した。


「ちょっとごめんよ。まさかベーキウ、足を怪我したの?」


「ああ。落下中に、木の枝が深く突き刺さったようだ。すぐに血は止まると思うからもう少しここで……」


「ダメだよ。ここは変な森の中。変な菌がいるかもしれない。そいつのせいで、危険な目を見るかもしれないわ。ちゃんと治療しないと」


 と言って、シアンはリュックから止血剤と大きな絆創膏、包帯を取り出してすぐに手当てを行った。それからしばらく経過したのだが、包帯は赤く染まった。


「まだ血が止まらないのね。うーん……応急処置程度の道具しか持ってきてないから……お」


 周囲を見回していたシアンは近くで生えている木を見つけ、高く飛び上がって葉を取った。


「いい所にシップの木が生えてあったよ。この木の葉は、ちゃんとした治療で使うことができるんだよね。止血の効果もあるから、かなり便利なんだよね。葉を巻くから、一度包帯外すね」


 シアンは慣れた手つきでベーキウの左足の包帯を外し、シップの木の葉をベーキウの左足に張り付けた。


「うぐっ!」


 シップの木の葉が張り付けられた瞬間、ベーキウは痺れるような痛みを感じた。だが、徐々に痛みは和らいでいった。


「楽になってきた。すごいなシアン、植物の知識もあるのか」


「いざという時に学んだの。故郷で勉強や剣術、魔力の修行を行ったのよ」


 シアンは過去のことを思い出しながら、ため息を吐いた。この時、ベーキウはシアンの家族、ダンゴ一族について何も知らないことを思い出し、シアンにこう聞いた。


「シアンの家族ってどんな感じだ? 勇者と言われるから、やはり堅いのか?」


「少しね。でも、私の母さんや父さんたちや親戚たちも、普通の人間よ。悪い人たちじゃないわ」


 シアンの言葉を聞き、ベーキウは少し安堵した。勇者の一族と聞き、かなり真面目で堅物な人たちなのだろうと思っていたのだが、実際はそうではなかったからだ。


「普通の人間か。すこし親近感がわくな」


「この冒険が終わったら、すぐにベーキウのことを皆に紹介するから」


「まさか、夫としてか?」


「もちろん」


 ベーキウは、冒険が終わったらすぐに結婚するつもりのシアンの考えを察し、ため息を吐いた。


「あのなぁ、結婚とかその前にはいろいろと順序があるもんだろ? それらをすっ飛ばしていきなり結婚ってのは……」


「大丈夫よ。皆、ベーキウのことをすぐに気にいると思うし」


「そういう問題じゃないような気がするけどな」


 ベーキウはそう言って両足を動かした。その時、ベーキウは足を動かしても痛みを感じなかった。左足に張り付いてあるシップの木の葉を取って傷を見ると、出血が完全に止まっていることを把握した。


「すごいな。血が完全に止まってる。足を動かしても痛くない」


「それじゃあよかった。じゃあ、その後は……」


 シアンはベーキウに抱き着き、そのままベーキウを押し倒した。


「おい、何をするんだ」


「すぐに結婚できるように、前準備をしようと思ってね」


「前準備? まさかお前!」


 シアンが何を考えているのか把握したベーキウは、急いでシアンをどかそうとした。だが、シアンは魔力を解放しており、そのせいで腕力がかなり強化されていた。シアンの腕はベーキウの腕より細いのだが、それでも力で負けていた。


「ぐ……が……」


「そんなに拒否らないでよ。私みたいな可愛い女の子と結婚できるんなら、ベーキウも嬉しいでしょ?」


「自分で自分のことを可愛いとか言うか? と、に、か、く! 俺はまだシアンとそういう仲に発展するつもりはない! と言うか、そこまでやったら俺は人として最悪な部類に入る!」


 根性でベーキウはシアンを押し返そうとしたのだが、己の欲しか考えていないシアンの力を押し返すことはできなかった。その後、シアンは光の魔力を使い、ベーキウの身動きを奪った。


「勇者の力を甘く考えないことね。それじゃ、服を脱ぐからちょっと待っててね」


「うわわわわわ! 脱ぐな、本当に脱ぐな!」


 服を脱ごうとしたシアンだったが、その途中で氷の拳がシアンに命中し、遠くへ吹き飛ばした。ベーキウが驚く中、後ろからクーアの声が聞こえた。


「やっぱり、バカなことを考えておったか。勇者と言われるお前にも、色欲はあるようじゃのう」


「勇者として、人としてどうかと思う」


 と、クーアの後ろにいたキトリがかわいそうな人を見る目でシアンを見つめた。ベーキウは助かったと思いつつ、立ち上がってクーアとキトリと合流した。




 無事にクーアとキトリと合流したベーキウとシアンだったが、将来のための作戦を失敗したことにより、シアンはかなり不機嫌だった。キトリはおどおどとしながらベーキウとクーアを見たが、二人は呆れてこう言った。


「何も考えない方がいいぞ、キトリ」


「あれはあ奴の自業自得じゃ。わらわのベーキウを寝取ろうなんて一千万年早いのじゃ」


「俺は誰とも寝るつもりはない」


 この言葉を聞いたキトリは、驚きながらベーキウにこう言った。


「ねぇ……まさか、ベーキウって女の子よりも……」


「俺にそういう趣味はないから安心しろ。今は自分の性欲を考える場合じゃないんだ。それと、女の子と付き合う場合はもっとちゃんとした……なんて言うか、まともな付き合いをして、将来的に大丈夫かどうか判断とか……」


「ベーキウの基準って難しいんだね」


 顔を赤く染めながら、あたふたと説明をするベーキウを見てキトリは言葉を返した。そして、心の中で真面目な人だなと思った。


 しばらく歩くと、クーアは何かを見つけた。


「おっ、あの草を見るのじゃ。あれがアオクーサではないのか?」


 話を聞いたキトリは望遠鏡を手にし、クーアが指を指す方向を見た。


「本当だ! あれがアオクーサだ!」


「結構楽に手に入るわね。それじゃ、ささっとゲットして次の目的地まで向かいましょう」


 話を聞いていたシアンは、急いでアオクーサの元へ向かおうとした。だがその途中で、急に地面が盛り上がった。ベーキウたちは武器を手にし、いつでも戦える支度をした。


「何だあれは?」


「アオクーサを守る何か……ではないのう。じゃが、わらわたちの邪魔をするつもりじゃの」


「さっきの蛇かな? 私たちの後を追いかけて、復讐のために襲い掛かってくるのかも」


「あの雑魚蛇がリベンジで追いかけてきたわけ? あいつらバカなんじゃないの? どうせ私たちにフルボッコにされる運命なのに」


 呆れたようにシアンはこう言ったが、ベーキウは強い殺気を感じていた。


「待つんだ皆。あの中に、強い奴がいるかもしれない」


 ベーキウの言葉を聞き、シアンたちは真剣な目になった。しばらくして、盛り上がった次の中から蛇たちが現れた。

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