こんなパーティーで大丈夫か?
万福 刃剣
第1話 事件はいつだって唐突に始まる
人々が魔力と言うちょっと変わった力が使える世界、クーシリョーリ。この世界にはいろんな種族が住んでいる。その中に、魔族と言う種族がいた。魔族は魔界と言う普通の種族とは違う場所に住んでいて、そこには魔王と言う魔界の偉い人がいた。その魔王がいろいろやっていてくれたため、普通の世界と変なバカ騒ぎになることはなく、平和な時が流れていた。
そんなある日、不思議な魔力を持つダンゴ一族が、魔界で何かがあったことを察した。ダンゴ一族の動きは早く、異変を察してすぐに一族の娘は騒動をすぐに終わらせるために旅立った。世界の至る所にある大陸の偉い人も一族が動いたことを知り、すぐに協力体制を取ることになった。
いろいろと世界が厄介で大変なことになりそうになっているが、このことを察しているのは、ほんの一部だけである。一般人だけは、世界がなんか大変になりそうとは思ってもいなかった。田舎の村、ドイナーカに住むクレイモア使いの青年、ベーキウ・オニオテーキもその一人である。
その日、ベーキウはいつものように近くの森でモンスター狩りをしていた。この森に生息するモンスターはとても凶暴だが、皮や毛、牙や爪は武器の加工や服の素材になるため高く売ることができるのだ。母親と暮らしているベーキウは、それらの素材を採取して業者に売り、その金で暮らしているのだ。
森を歩いていたベーキウは、近くの木の中から殺気を感じ、背中に担いであるクレイモアを装備した。それからしばらくし、木の間から凶暴な熊のモンスターが襲い掛かった。動きを予測していたベーキウは熊の動きに合わせ、クレイモアを力強く振り下ろした。斬撃を受けた熊のモンスターは後ろに下がり、ゆっくりと倒れた。
「ふぅ……一撃で倒せてよかった」
モンスターを倒したことを確認したベーキウは、安堵の息を吐いてクレイモアを背中に戻した。それから、素材を剥ぎ取ってリュックに入れた。リュックの中にはすでに他のモンスターの素材がぎっしりと詰まっていた。
「今日はこんなもんでいいな」
リュックを見ながらベーキウは呟き、周囲を見回した。夕日の位置を見て、まだ昼頃であると確認したが、ベーキウは町へ向かって素材を売ろうと考えた。
近くの町へ向かったベーキウはすぐに加工屋へ向かい、素材の売却を行った。リュックの中にある素材を見た店主は笑顔を作りながらベーキウにこう言った。
「いつもありがとなベーキウ。この素材があればもっといいもんを作って売ることができるぜ。ほれ、これ買い取り金だ」
「ありがとうございます。また明日、モンスターを狩り終えたらきますので」
「どんどんきてくれよ! ベーキウのおかげでいい装備を作れて、おかげでうちは大繁盛!」
と、店主は笑いながらこう言った。ベーキウはすぐに家に戻ろうとしたのだが、黄色い歓声を上げる女性たちがベーキウの周りを取り囲んだ。
「ベーキウ! あなたのおかげでおしゃれな服を着ることができたわ!」
「いつもあなたが持ってくる素材のおかげよ! 今度デートしましょ!」
「抜け駆けするんじゃねーぞアバズレ女! ベーキウとデートするのは私よ!」
「何言ってんのよ腐れヤリ〇ン! いつも立〇〇ぼしているような腐れ野郎がベーキウとデートなんて一千万年はえーんじゃボケェ!」
「あぁん? テメーだってマッチングアプリで詐欺まがいのことやってんじゃねーか! 私は知ってんだよ、テメーがいくつも男をとっかえひっかえして荒稼ぎしてるってことを
! 裁判になっても知らねーぞ!」
などと、女性たちはベーキウを巡って醜い争いを始めた。ベーキウはまた始まったと思い、ため息を吐いた。
その後、醜い争いを続ける女性たちをなだめたベーキウだったが、かなり時間を使ってしまった。
「こんなことをしたらもう夕方か……」
夕暮れを見て、ベーキウは呟いた。今日は町の宿で一晩過ごそうと思い、ベーキウは宿へ向かった。それから部屋を借り、すぐに部屋に向かって母親に電話をした。
「もしもし母さん。ベーキウだけど」
「ベーキウかい? どこから電話しているんだい?」
「隣町の宿屋。いろいろあって遅くなったから、今日は宿で泊るから」
「そうかい。また女の子たちに囲まれたんだね」
と、ベーキウの母は笑いながらこう言った。ベーキウはため息を吐き、口を開いた。
「笑いことじゃないよ。今日は早く素材が集まったから、家に帰って筋トレでもしようと考えてたんだぜ」
「たまには休めってことよ。それよりも、変な女の子にナンパされても付いて行っちゃダメだよ」
「父さんみたいなことはしないよ」
ベーキウは笑いながらこう答えた。ベーキウには父がいない。生まれてから見たこともないし、母もそのことについて聞くと嫌な顔になるが、どこかでモンスターに食われてウンコになったんじゃないかと言葉を返す。ベーキウは本当なのかウソなのか分からないが、とにかく母が父に関して何も言いたくないという気持ちは理解していた。
「それじゃ、明日は狩りをしてから戻るよ。夕方前になると思うけど」
「分かったわ。それじゃ、お休みー」
と言って、母は電話を切った。ベーキウも受話器を置き、背伸びをしてからシャワーを浴びに向かった。
シャワーを浴びた後、ベーキウは宿のキッチンへ向かった。だが、キッチンへ向かったベーキウは異変を感じた。いつもなら、ベーキウがキッチンの椅子に座った直後に女性たちが我先にベーキウの横や前に座ろうと大乱闘が始まるのだが、今日はそれがなかった。
「何かあったのか?」
ベーキウはメニューを見つつ、周囲を見回した。すると、青い鎧のいい男が近付いてこう言った。
「何だい、知らないのか? 今、勇者の一族と言われているダンゴ一族の子がこの宿に来ているんだよ」
ダンゴ一族。青い鎧のいい男からこの言葉を聞いたベーキウは驚いた。勇者の一族が何らかの異変を察知し、動いているという噂を聞いていたベーキウだったが、その話を聞いて噂は真実だと確信したからだ。
「何かあったって噂は聞いていたけど、本当だったんだな」
「それよりも兄ちゃん、俺とやらないか?」
「すみません。俺にそんな趣味はありません」
ベーキウの返事を聞き、青い鎧のいい男は残念そうに立ち上がった。だが、恋をするような目をする青年を見て、青い鎧のいい男はその青年の元へ向かった。そういう趣味を持つ人もいるんだなと思いつつ、ベーキウは青い鎧のいい男の背中を見ていた。
勇者の一族、ダンゴ一族の少女、シアンはため息を吐いていた。異変を察知して故郷から旅立ったが、それらしい情報を見つけることはできなかったのだ。いろいろと話を聞いて旅をしているが、そのほとんどが無駄足だったのだ。
「はぁ、欲しい情報が見つからない」
そう呟きつつ、シアンは机の上の料理を食べていた。そんな中、筋肉モリモリの男が笑いながらシアンに近付いた。
「なぁ、お前勇者の一族なんだろ? お前に勝てば、その一族より強いってことだろ?」
男の言葉を聞いたシアンは食事をする手を止めていたが、すぐにバカにするような笑みを作りながら、鼻で笑って食事を再開した。シアンの態度を見た男は少し怒りながらシアンに向かって叫んだ。
「おい! 何か答えたらどうだ!」
「相手の力と自分の力の差を理解できないバカな雑魚を相手に、喧嘩なんてしたくないわ」
シアンの言葉を聞き、男の怒りは爆発した。
「誰がバカな雑魚だ! こうなったら、意地でもお前をぶっ飛ばしてやるぞ!」
男の叫び声と直後に、周りから叫び声と悲鳴が上がった。男は筋肉で肥大した大きな右腕を大きく振り上げ、シアンに向かって振り下ろそうとした。
バカな男だ。これだけ攻撃前の動作が大きいと隙ができるし、動きも見切られるのに。
そう思いつつ、シアンは攻撃のタイミングを見計らって止めようとした。だが、その前に男の動きは止まった。
「オッサン、キッチンは喧嘩をする場所じゃないぞ。周りの迷惑を考えろ」
騒ぎを聞きつけたベーキウが、男の右腕を掴んでいたのだ。ベーキウの姿を見た女性たちは歓声の声を上げ、ベーキウを応援した。男はベーキウの手を振り払い、恨みと憎しみをぶつけるかのようにベーキウを睨んだ。
「お前か、ベーキウ! いつもいつもマンガの主人公のように登場して、カッコつけやがって!」
「そんなつもりで俺は動いていない。お前が迷惑だからやっているだけだ」
ベーキウは呆れつつこう言った。男は荒く鼻息を出し、ベーキウに向かって歩き出した。
「勇者と戦う前にお前を殴ってやる! そのイケメン面を整形してやる!」
そう言って男はベーキウに殴りかかろうとしたのだが、女性の一人が大きなハンマーを男の頭に向かって振り下ろした。
「私たちのベーキウを殴ろうとしたってそうはいかないよ!」
ハンマーの一撃を受けた男はふらつきながらも立ち上がったが、後ろにいた女性たちが次々と男の股間を蹴り始めた。
「この筋肉ダルマ野郎! 自分が強いからっていつも偉そうにしてんじゃないわよ!」
「その筋肉、見た目だけじゃないの! あんたいつも、弱いモンスターとしか戦わないじゃない!」
「だから稼ぐことができないのよ! 私知ってんのよ、あんたには借金があることを!」
「しかも金の使い道はギャンブルと女遊びのため! 史上最悪のダメ野郎じゃないの!」
「お前みたいな野郎にチ〇コは不要よ! 私たちの手……いや、足で去勢させてやるわ!」
それから、女性たちによる攻撃が男の下半身を襲った。ベーキウは股間を抑えつつも、大きな騒動にならなくてよかったと思った。その後、ベーキウはシアンに近付いてこう言った。
「騒動になってすまなかった。被害がなくてよかったよ」
そう言って、ベーキウは自分の席へ戻った。その時、ベーキウの顔を見たシアンは胸が熱くなるのを感じた。
その日の夜、シアンはずっとベーキウのことを考えていた。イケメンで、優しく真面目な性格。そして剣士としての腕もある。シアンは一目でベーキウのことを見抜いていたのだ。
あの人と一緒に旅をしたら素敵な旅になりそうだな。旅が終わったらそのまま結婚して小さくて素敵な家に住んで、二人くらいの子供を作って幸せな家庭を……。
そう考えた直後、シアンは自分の今の気持ちを察した。ベーキウに一目惚れしたと。こうなったらすぐに行動に移そうと考えたシアンは宿屋の主の元へ向かった。
「ねぇ! さっきのイケメン剣士のこと、何か知ってる?」
シアンの話を聞いた宿主は、少し考えてこう言った。
「もしかしてベーキウのことかい?」
「ベーキウ? その人、ベーキウって言うのね!」
「あ……ああ。まさかシアンさん、ベーキウに惚れたんですか?」
宿主の言葉を聞き、シアンは顔を赤く染めた。宿主はその反応を見て、あらまと呟いた。
「この様子じゃあベーキウに惚れたようだねぇ。ま、あんなイケメン見たら、誰だって惚れるよ。下手したら、男も惚れるからね」
宿主は笑いながらそう言ったが、シアンは宿主にこう言った。
「すぐにベーキウの部屋の鍵を渡して!」
「それは無理です。客にもプライバシーがあるので」
「そう……それじゃあ無理矢理にでも!」
と言って、シアンは宿主の部屋から出て行った。
その後、シアンは部屋からベーキウの部屋に入ろうと考え、壁を伝って移動を始めた。
「待ってて……今……会いに行くから……」
シアンは何が何でもベーキウに会いに行くという気持ちでいっぱいだった。だから、こんな無茶なことをしても何も思わなかった。
そんなことを知らず、ベーキウは部屋で寝ていた。寝ている中、外から変な音が聞こえたため、変だと思ったベーキウは目を開けて窓に近付いた。
「何だ、この音は?」
そう呟きながらベーキウは窓を開けた。そして、壁を張って歩いているシアンの姿を見つけた。
「イギャァァァァァ! き……君は勇者の!」
「あら、起きてたのね。でもいきなり窓を開けられると……」
いきなりベーキウと目が合ったため、シアンは緊張した。そして、緊張のせいで手足が震え、それが理由でシアンは下に落ちてしまった。
翌朝。ベーキウはシアンから話を聞いていた。シアンは仲間が欲しいと言っていたが、ベーキウはシアンの本音を察していた。一目惚れしたから仲間になってほしいと。
「私の旅はきついの。情報もまともにないし、そもそも魔界がどーなっているのかまーったく分からない。こんな状況だから一人じゃきついの。だから、剣の腕がありそうなあなたに相棒になってほしいのよ」
「本音は?」
「好きです。さっさとこの旅を終わらせるので結婚してください」
この言葉を聞き、ベーキウはため息を吐いた。ベーキウ自身、結婚を前提として付き合ってくれと何百回も女性から言われた。だが、ベーキウは女性と付き合うことは考えていなかった。かといって変な趣味は持っていない。ベーキウは真面目な男だ。だから、結婚を前提として付き合うとしても互いのことをちゃんと知り、いろいろとしないといけないと理解していた。
だが、シアンの旅はきついということは本当だとベーキウは察した。世界に異変が起きつつあると言っているが、情報がない。そして、シアンはまだ十代後半の少女。そんな少女一人に重荷を背負わせるわけにはいかない。そう思っているが、ベーキウもモンスター狩りの仕事がある。自分の稼ぎがなければ、母親を養うことができないのだ。
「うむ……どうしよう……」
「とりあえず、ベーキウのお母さんの所に行きたいな。というわけで行きましょう!」
そんな感じで、シアンは無理矢理ベーキウを連れて宿の外に出た。その時、ベーキウは周りを見て驚いた。
「母さん! どうしてここに?」
人盛りの中に、ベーキウの母がいたのだ。ベーキウの母はベーキウに近付き、話し始めた。
「宿主さんが電話で教えてくれたのよ。勇者の一族、シアンちゃんがベーキウに夜這いを仕掛けるかもしれないって」
話を聞いたシアンは宿主の方を向いたが、宿主はとっさにシアンから視線を反らした。そんな中、ベーキウの母は話を続けた。
「ベーキウ。真面目なあんたのことだから、シアンちゃんの話を聞いてちょっと動揺しているでしょ? 女の子に危険な旅をさせるわけにはいかないけど、私のこともきにしているんでしょ?」
「どうして分かるんだ?」
「何年あんたの母親をやっていると思っているんだい? あんたの考えていることは分かるよ」
ベーキウ母は笑ってそう言うと、ベーキウの肩を叩いてこう言った。
「私のことは大丈夫だよ。貯金もへそくりもあるし、実は副業で株もやっているから金銭面は大丈夫だよ」
「そう……え? 母さん株やってるの?」
「うん。おかげであんたより大儲け。それよりも、ベーキウ。シアンちゃんの助けになってやりな」
母に背中を押された気分となったベーキウは決心を決めた表情になった。その前に、明るい顔のシアンがベーキウ母に近付いてこう言った。
「ありがとうございますお義母さん! 旅の間に何人か孫を作るかもしれませんので、期待して待っていてください!」
「孫はまだ先だ!」
とんでもないことを発したシアンに対し、ベーキウはこうツッコミを入れた。こうして、ベーキウは滅茶苦茶な流れでシアンの相棒になってしまったのであった。
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