第22話 クレイゲート

 剣や槍、ナイフやモーニングスターといった武器を持った十人の男たちが俺を取り囲んで睨みを利かす。素手の俺に対して随分と物々しいが、正直かなりやばいと思う。

 ただ、獣耳を付けた男が数人いるので、いまいち緊張感にかけるような気がする。いったいなんなんだ?


 武器を持った相手というのは戦い難い事この上ない。ろくに剣術を知らないホブゴブリンですら1対1の戦いで苦労するのに、それなりに訓練された多数の人間の男たちが相手では、正直勝算は低いと思う。


 ただ、弓矢はあるようだが、拳銃のような武器は見当たらない。翼竜との戦いでも使用していなかったので、その手の飛び道具は無いのだろう。それが救いといえば救いだな。


 だが、男たちのボスであるクレイゲートの気持ち一つで戦わざるを得ないだろう。このまま痛めつけられたり殺されたりするのは嫌なので、抗うべく戦う心構えをする。

 作戦としてはモーニングスターを持った奴の後ろに飛んで、武器を奪ってから逃走というところか。あのトゲトゲの鉄球は見るからにやばいからな。


 ジリアーヌが居た所をチラリと見ると、いつの間にか後ろに下がって様子を見ている。戦いに巻き込まれる事は無さそうだ。

 他の人達は何事かと息を潜めて見ている。

 武装した男たちはクレイゲートの命令を待っている。


 当のクレイゲートは俺を睨みつけているが、少しの間を置いてからくっくっくっと笑いだした。


「あっはっはっはっはっ…」


 それが大笑いに変わって、手をプラプラと振った。

 男たちは包囲を解かないものの、持っていた武器を収めた。単なる脅しだったのかどうか判らないが、俺はいつでも戦える気構えだけはしておいた。


「どうだ『ルイッサー』、勝てそうだったか?」

「正直判らないですぜ。負けるとは思わないが、さっきから背中が汗でびっしょりだ。」

「相手は素手で一人なのにな。」

「まったく、得体がしれないぜ…」


 ルイッサーと呼ばれた男は俺の正面に立つ奴で、他の九人の男たちよりも一回りデカくて装備も一番良い物を身に着けている。ついでにトラ耳も付けている。


 この十人の男たちはクレイゲートの護衛で、ルイッサーはその隊長なのだろう。いかにも歴戦の猛者という雰囲気を醸し出しているが、クレイゲートが戦えと命令しなかったのでホッとしている。


 正直、俺は戸惑いを覚えていた。

 特に何かをした訳ではないが、そんなに俺は危険なムードを漂わせているのだろうか?

 ジリアーヌも随分と恐れていたけど、単に貴族だと思い込んでいただけでは無かったのだろうか…


 クレイゲートが進み出て来た。

 ルイッサーは止めようとしたが、クレイゲートはそれを制して進み、俺の直ぐ前に立った。堂々とした態度だ。


「驚かせて悪かったなディケード。まあ、ちょっとした余興だよ。俺達の恩人なのに付き合ってもらって済まなかったな。」


 大きな声で皆に聞こえるように言ってから、俺にだけ聞こえる小声で呟いた。


「すまんが話を合わせてくれ、悪いようにはしない。」


 俺はクレイゲートの態度の急変に驚きながらも小さく頷く。

 クレイゲートは俺の横に並び、手で小間使いと思われる者たちに合図をした。


 数人の小間使いが木のコップに飲み物を注いで全員に配り始めた。一通り配り終わる頃には、護衛たちの包囲は解かれ、息子のクレイマートも俺の隣に立っていた。

 最後に俺にも木のコップが渡された。中身の見た目と匂いはワインとほぼ同じだ。


「商隊のメンバー及び護衛とその他の者全員に、ここで新たな仲間となるべく男を紹介する。」


 クレイゲートが参加者に向かって演説を始める。


「知っている者も多いと思うが、我が商隊が『飛竜』と魔物の『レオパールウ』に襲われて全滅の危機に陥った。そこへ颯爽と現れて窮地を救ってくれたのがここに居るディケードだ。彼は我々の恩人であり英雄だ!あの飛竜を一人で倒してのけたのだ!!!」

「「「「「 おおおっっっ!!! 」」」」」


 威厳に満ちた張りのある声でクレイゲートは俺を紹介し、参加者は熱狂的に手を突き出したり拍手したりして応える。


 そうか、あの翼竜はここでは飛竜と呼ぶんだな。ヒョウ柄狼はレオパールウというらしい。格好良い名前だな。しかし、魔物ってなんだ?


 それは兎も角、なんとなくだがクレイゲートの狙いが見えてきた。俺は油断をせずに流れに乗って状況を見守る。


 一応用心のために、息子のクレイマートの持っている木のコップと自分のを取り替えた。

 クレイマートはムッとしたが、クレイゲートはフッとニヒルに笑みを浮かべた。

 二人の様子を見る限り、毒は盛られていないらしい。俺にとってここは、まだ得体の知れない敵地みたいなものだからな。


「これを見ろ!」


 クレイゲートが気を取り直して、何やら小さな箱のような物を取り出して弄り始めた。

 すると、レーザー光線のような赤い光が飛び出し走り出した。赤い光は何かの形を描き始め、それが飛竜の形を作った。

 次の瞬間、飛竜の形だった赤い光は本物の飛竜になった。


「「「「「 おおおおおっっっっっ!!!!! 」」」」」


 皆が驚くが、俺もびっくりだ。

 羽が折り畳まれているのでそれ程大きさは感じないが、それでも馬車並の大きさはある。

 って、そうじゃない。


 これは何かの魔法なのか!

 いきなり目の前に物が現れるってどういう事だよ!


 触ってみると、確かに感触はあるので、実体なのは間違いない。

 しかも、俺が倒した証となる穴が胸に空いている。

 驚きつつ見ていると、胸の穴から血が吹き出し始めた。


「おっといかん、ここまでだ。」


 クレイゲートが再び小さな箱を弄ると、今度は飛竜が青く光り、光が解けるようにして小さな箱に収められていった。

 本当にびっくりだ。

 やはり魔法なのか?魔法にしか思えないが…


 馬車の作りや人々の格好を見る限り、そんな途方もない科学技術があるとは思えないしな。

 そういえば、《花の精》もかまどや肉をどこからともなく出していたが、同じ原理なのか?

 ふと、何かが頭の中で引っかかりを覚えた。ディケードの記憶か…


「今のを見て解っただろう。あんな化け物を一人で倒すなどありえない事なのだ!それをディケードはやってみせた。彼こそ英雄中の英雄だろう!」

「「「「「 うおおおおぉぉぉぉっっっっ!!!! 」」」」」


 何かを思い出しかけたが、喝采にかき消されてしまった。

 それにしても、クレイゲートは随分と俺を持ち上げる。


「その英雄にふさわしい働きをした彼を、私は最初貴族だと思った。知っている者もいると思うが、我々庶民とは違い貴族は何かしら特別な力を持っている。そう思うのも仕方のない事だろう。」


 へえ、そうなのか。貴族は特別な力を持っているのか。

 飛竜との戦いを見る限り、俺と同じような能力を持っている者は居ないみたいだったが、貴族はそういった能力を持っているのかな?


「だが、嬉しい事にディケードは貴族では無いという。彼は我々庶民と同じ身分でありながら、あれだけの戦いをしてみせた真の強者つわものだ!我々の希望なのだ!!」

「「「「「 うおおおおぉぉぉぉっっっっ!!!! 」」」」」


 群衆と化した人々は熱狂に包まれていく。


「その度胸の良さは皆の見ての通りだ。素手なのに、武器を持った10人の男に囲まれても平然として余裕すら見せていた。

 もっとも、飛竜に敢然と立ち向かうのだから、それも当然といえば当然だがな。

 しかも、私が考えた余興に付き合ってくれるユーモアも持ち合わせている。」


 クレイゲートの話を聞いている男たちは、すげーとか大したもんだとか言いながら俺に尊敬の眼差しを向ける。


「そのディケードを、私は仲間に迎えたいと思う。飛竜との激戦で仲間が随分と失われたが、ディケードが加われば空いた穴以上に戦力が補われるだろう。

 例え、また飛竜が襲って来たとしても、ディケードが居れば必ず撃退してくれるはずだ。」


 クレイゲートは俺の腕を高々と持ち上げる。


「さあ皆んな、英雄たるディケードを讃えよう!ディケードと共に戦うのだ!」

「「「「「 うおおおおおぉぉぉぉぉっっっっっ!!! 」」」」」

「ディケードに!」

「「「「「 ディケードに! 」」」」」


 クレイゲートを始め、皆が一斉に木のコップを煽りワインのような物を飲む。

 俺も一口飲んでみた。味は渋みの強いワインそのものだ。

 この体では初めてだが、久しぶりに飲む酒は喉と胃が焼ける感じがして、なんともいえない程良い刺激となって全身に広がっていった。


 息子のクレイマートが樽を一つ開けて、皆に飲むように告げた。

 途端に場は最高に盛り上がった。


「「「「「 ディケード!ディケード!ディケード!……… 」」」」」


 全員がディケードの名前を叫んで連呼する。

 場は盛り上がっているが、俺はいまいちピンと来なくて傍観者になっていた。自分でディケードと名乗りはしたものの、まだ自分の名前だという自覚がなくて、自分が讃えられているという実感がまったく無かった。


 少しの間、人々が酒を楽しむシーンを眺めていたが、クレイゲートは息子と護衛と共に俺を誘って自分のテントへと向かった。

 まあ、これで一応は俺とクレイゲート両者の面子を保ったまま、皆の前で一触即発の危機は免れた。皆には俺とクレイゲートが仲間になるように見えただろう。


 クレイゲートは中々に策士のようだと俺は思った。

 貴族という誤解で生じた茶番劇だが、咄嗟の機転でクレイゲートは俺を立てつつも、いつの間にか自分の立場が上であるかのように振る舞ってみせて場を収めた。


 クレイゲートは商人らしいが、その姿勢を見る限り政治家のようだと思った。上手く聞き手の心を掴んで誘導していたし、人心掌握術に長けているようだ。

 まあ、これだけの人間を率いて商売をしてるんだ。日本ならそれなりの企業の社長といったところか。これくらいの才覚は必要なんだろう。

 年齢で係長になっただけの俺とはまるで違うな。



 クレイゲートのテントの中に入ると、そこは執務室のようになっていた。

 組み立て式の机とテーブル、応接セットがあり、ちょっとした会議や相談が出来る場所になっている。移動した先でも商談なんかがあるだろうから、そういった事が出来るように準備してあるのだろう。


 クレイゲートは上座のソファに座ると、俺に対面のソファに座るように勧めながらロングブレザーの襟元を緩めた。


「どうにもこの貴族用の衣装ってのは堅苦しくていかん、息が詰まるってもんだ。」


 父親に倣うように、息子のクレイマートも隣りに座って襟元を緩める。


「ディケードも楽にしてくれて構わないぞ。」

「ああ、そうさせてもらう。」


 俺も襟元を緩めながらソファに腰掛ける。

 たしかにこの衣装は見てくれも凄すぎるし、硬くて動きにくい。


 俺たちが対座するとテントの入り口は閉じられた。

 入口の外と中に二人ずつの護衛が立ち、クレイゲートの後ろには三人、俺の後ろには二人が立った。


 ルイッサーはクレイゲートの隣に腰掛ける。この男はクレイゲートの懐刀のようだ。まったく、物々しいにも程がある。これじゃあ完全に拉致されたようなものだ。

 ジリアーヌがお茶らしき物を淹れてテーブルに並べると、部屋の隅に下がった。


 さて、これからが本当のお話し合いという訳だな。

 話し合いの結果次第では戦う事になるかも知れないので、それに備えて出口の確認と武器になりそうな物を物色しておく。


「この状況じゃあ身構えるのも仕方ないが、少しはその《プレッシャー》を抑えてくれないか。下手すると部下が暴発するからよ。」


 ルイッサーが俺を睨みつけて、俺の後ろにいる男を指さしながら警告する。

 後ろを振り向くと、男が剣に手をかけてカタカタ震えていた。

 と言われてもなぁ…俺としては何もしてないのだが。

 何の事か分からないので肩をすくめて見せるが、ルイッサーがフンと鼻を鳴らす。


 おもむろにコインを取り出して俺に投げつける。

 コインは俺の手前でコースを逸れて後ろに飛んで行った。

 他の者たちは唖然とする。


「それだよそれ!そのお前を取り巻く《フィールドウォール》が強烈な《プレッシャー》を放ってるんだよ!」


《フィールドウォール》と言われてなんとなく理解した。

 これはあれだ。森の中でヒルや蜂の攻撃を逸らすために無意識に張り巡らされている《場》の幕だ。


 この世界では《フィールドウォール》という名で認知されているんだな。今まで意識しないで張り巡らせていたので、消せと言われても難しい。

 無意識にやってる事だから無理だと言ってもルイッサーは信用しない。


「もういい、このままでは話が進まない。」

「しかしボス、こいつが《フィールドウォール》を張ったままだと、こっちの攻撃は殆ど通用しませんぜ!」

「止むを得んだろう。ディケードだって、こんな針のむしろ状態では自衛するのが当然だ。」


 クレイゲートの説得に、ルイッサーは渋々引き下がる。

 ルイッサーは俺の後ろにいる部下に命令する。


「おい、剣から手を放しておけ。くれぐれも勝手に動くなよ。」

「すまんな、ルイッサーは護衛として忠実に仕事をしているだけなんだ。」

「まあ、そうなんだろうな。」


 そう答えたものの、睨みつけるルイッサーを見ながら俺は当惑していた。

 俺に張り巡らされている《フィールドウォール》によって、ルイッサーたちの攻撃が通用しないと言っている。これってそんなに強力なものなのか?


 せいぜい虫除け程度にしか思っていなかったし、今まで戦ってきた獣たちは当たり前に攻撃を当てていたけどな。


 そういえば、10匹のヒョウ柄狼と戦っていた三人の男たちは二人が怪我をしていた。もしかして、この世界の人間はとても弱いのか?

 俺は今まで生き残るために獣たちと必死に戦ってきただけだが、そもそもその基準値がおかしいのだろうか?

 そういえば、日本に居た時は俺もあんな小さな月の輪熊ですら恐れていたしな。


「ディケード。」


 考え事をしていた俺に呼びかけてクレイゲートが立ち上がり、それに倣って息子とルイッサーも立ち上がった。


「まずは我が商会の馬車隊を救ってくれた事に、改めて礼をさせてもらう。ありがとう、助かった。」

「あ、いや、当然の事とは…言わないが、上手く倒せて…良かったと…思う。」


 まさかクレイゲートがこんな殊勝な態度を取るとは思わなかったので驚いた。

 思わず妙な返答になってしまったが、驚いているのは息子やルイッサーも同様だ。二人も慌てて頭を下げた。


 ジリアーヌは部屋の隅で口に手を当てて驚いている。よほどレアな光景なのだろう。

 クレイゲートはソファに座り直すと、俺を真っ直ぐに見つめた。


「それでだ。この一件の謝礼として金貨20枚を支払おうと思うが、それでいいかな、妥当なところだと思うが。」

「あ、ああ、十分だ…」


 金貨20枚というのはどれほどの価値なのかさっぱり解らないが、元々金が目当てで助けに入った訳ではないので十分だろう。

 まあ、金貨というくらいだから、それなりの価値なのだろう。


 それよりも、目の前に積まれた硬貨は、やはり精巧な作りをした物だった。

 ゴブリンの巣で拾った物と同様で、クレイゲートたち人間の文明の水準に見合うとは思えない。


 それをいうなら、さっきの飛竜を出し入れした小さな箱もそうだ。あれは文明というレベルでは表せないほど逸脱した存在だ。

 どうにも不思議な世界だ。


「それと、商談をしたいんだが良いかな?」

「商談?」

「ああ、ディケードが倒した飛竜を是非買い取らせて貰いたい。どうだろうか?」

「それは構わないが…」


 俺がそう答えると、クレイゲートはニタリと笑みを浮かべた。

 今までの冷徹な雰囲気とは一変して、ギャンブルを楽しむオッサンの顔になった。これは商人の顔だな。これが本来のクレイゲートの素顔なのだろう。


 俺はクレイゲートが提示する金額をそのまま受け入れた。なにせ物の価値や相場というものが全く分からないので検討しようがない。

 それに買い取って貰えなければ、今まで戦った獣同様に捨てていくしか無い。金になるだけありがたいと思う。


 クレイゲートとしては金額の交渉を楽しみたかったみたいだが、商談の成立に満足そうに頷いた。

 金額はレオパールウ(ヒョウ柄狼)9匹を含めた値段で金貨80枚だ。


 これにはルイッサーやジリアーヌも驚いていたので、相当の金額なのだろう。

 この馬車隊を救った金額の4倍だが、あの飛竜はそれほど価値があるものらしい。


 証文を書き終えたクレイゲートはホクホク顔をしていた。

 最初は金貨で渡されたが、100枚もの金貨は非常に重い。気軽に持ち歩けるような重量ではない。財布も金庫も無い俺は途方に暮れた。


 クレイゲートが証文を書こうと言ってくれたので、それに従う事にした。

 なんでも、この商隊が向かう街『エレベト』にはクレイゲート商会の本店があるので、そこに証文を持ち込めば現金に替えてくれるという。


 もしかしたら嘘かもしれないが、証文を読む限りは内容は大丈夫そうなので、俺は現金で金貨20枚だけは受け取り、それで良しとした。

 最悪騙されたとしても、金貨20枚あれば何とかなるような気がした。


 それはそうと、この世界の文字は読みやすいと言っていいのか読みづらいと言っていいのか微妙だ。

 ディケードの記憶だと、本来の文字は数種類ある。日本語に当てはめるなら、漢字、ひらがな、カタカナといった具合だ。


 それが、この証文の文字は全てがカタカナに相当する文字で書かれていて、読み難い上に理解するのが大変だ。

 まあ、漢字に相当する文字がふんだんに使われて書いてあったとしたら、逆に今の俺では難しすぎて理解できないと思うので、それで良かったのかもしれない。


 なんでこんな事になっているのか不思議に思ったが、それよりもクレイゲートたちは俺が文字を読める事に驚いていた。この世界で文字を読み書きできるのは、貴族などの特権階級とそれに近い者、そして商人と裕福層の者だけらしい。


 そんなバカな、と思う。

 ディケードの記憶では、全員が当たり前のように全ての文字を理解していたはずだ。なのに、ここでは識字率が異常に低く、それが常識らしい。

 もしかしたら、余計な疑念を持たせたかもしれない。


 まだ記憶がちゃんと整理されていないので何ともいえないが、ディケードの記憶にある世界と、今現在の世界はかなり乖離していると思える。

 もしかして、違う世界なのか?

 何をするにも疑問だけが付き纏う。


「よしと、これで商談は無事終わったな。」


 そう言い終えると、クレイゲートの雰囲気がまた変わり、商人から冷徹なヤクザのボスのようになった。

 ボスの態度に周りの護衛たちもまた、少し緩んでいた表情が非情な男のものへと切り変えた。


 滑稽にも思えるが、止むを得ず、俺もそれに倣って身構える。

 クレイゲートが視線だけで殺せると思える程、強く睨みつけた。


「さて、これから本題だ。ディケード、お前は何者だ?」


 商談なんかするので、いつの間にか有耶無耶になっていたが、本来はそれを探るために俺をテントに招き入れて監禁に近い状態にしたはずだ。


 まあ、それだけ何をおいてもクレイゲートは飛竜を手に入れたかったのだろう。あの飛竜が取り返しに来たと思われる雛を運んでいるくらいだ。この世界では、飛竜は俺の想像もつかない価値があるのかも知れない。


 長い話になりそうだ。俺は心の中でため息をついた。



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