第2話 ぐるぐるマダム
トップバッターはこちら。ぐるぐるマダム。
生き馬の目を抜くエッセイ業界、タイトルである程度引き付けないといけませんので、かなり誇張したタイトルにしました。誇張した、と書いております通り、実際にそこまでぐるぐるしていません。そこまでしていないというか、実際にぐるぐるしてはいません。おい早速嘘を書きやがったぞ、このおばさん。
まぁ聞いてください。
そのマダムが来店されたのは、コ□ナ日本上陸直後のこと。なんかもう罹った人は保健所に連絡しーの、隔離されーの、そのまま村八分になりーの、みたいな雰囲気の頃です。
ちなみに『村八分』というのは、ぶっちゃけ誇張ではありません。人間よりもなまはげの方が多いんじゃないのか、なんて言われるような秋田県ですから(初めて言いました)、コ□ナが日本に上陸した後も暫くはかなり持ちこたえておりました。都会の方で感染者が続々と出る中でも、かなり頑張って抑えておりました。何せ人がいねぇんだ。
そんな中ですので、一人でも出れば大騒ぎです。「〇〇地区の〇〇さんがコ□ナらしい」、「東京にいた娘が帰省して持ち込んだらしい」など、これくらいの噂はあっという間です。そしてこれが、満員電車で逃げようがなかったとか、医療従事者で患者さんからもらった、といった、本人に全くの非がないパターンならまだしも、飲み会、ライブ、都会からの帰省などなど、避けようがあったのでは? という理由が大半だったため、
「お前のせいで、ウチの近所一帯が危険にさらされている。どうしてくれる」
となるわけです。
こうなるともう、ガチのマジでもうそこには住めません。いまとなっては、もちろん厄介な病ではあるものの、ここまでの村八分にはなりませんけど、当時は酷かったものです。
感染対策のため、マスクや消毒液が店から消えたことを覚えている方も多いでしょう。それから、レジや受付の前に透明ビニールを垂れ下げたりもしたものです。
そう、その透明ビニールの話なのです。
「薄い透明ビニールはあるかしら」
まぁ色々割愛しますが、マダムがお求めになっているのはこれでした。
その当時、レジや受付の前に垂れ下げる用の透明ビニールもまた、飛ぶように売れており、品薄状態となっておりました。ちなみにこの透明ビニール、もともと何の目的で売られているやつかというと、テーブルクロスです。スチール製のデスクの上に敷かれているような厚手のビニールもありますが、1㎜もないようなペラッペラのやつもあります。
マダムはその、とにかく薄手の透明ビニールをご所望のようでした。
時期が時期です、きっとこちらのマダムも感染対策で使用するのだろうなと思いました。確かに、感染対策で間違いないようです。
ないのですが。
「身体に巻くの」
巻くのだそうです。――え?
「だから、薄ければ薄い方が良いのよ」
まぁ、身体に巻くのでしたらそうでしょうね。
ですが、マダムが求める薄さの物は欠品状態。入荷時期も未定です。何せメーカーの方でも品薄状態なのですから。という説明をしたところ――、
「勧誘するのはやめてください!」
待って待って。
いつどこで私が勧誘しました?
ていうか、勧誘って、マジで何の話?
メーカーも品薄状態です、という説明のどの辺に勧誘要素があったのかはわかりませんが、とにかく気分を害された様子のマダムは、ぷりぷりと怒りながらお帰りになられました。
というわけでこちらが、いまでもかなり印象に残っております、『ぐるぐるマダム』でございました。
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