第八話:水の試練
風の試練を無事に乗り越えた俺たちは、精霊の森のさらに奥へと進んでいった。森は次第に鬱蒼とし、湿気が増してきた。足元の土はしっとりと濡れ、ところどころ小さな水たまりができている。森の中には小川が流れ、木漏れ日が水面に反射して美しい光景を作り出していた。
「どうやら、次は水の試練のようだね。」リョウが周囲を見回しながら言った。
「水の試練か…また厄介そうだな。」アキラが溜め息をつく。
その時、ふと視界の先に大きな池が見えてきた。水は澄んでおり、底が見えるほど透明だ。しかし、ただの池ではないことはすぐにわかった。池の周りには何本もの石柱が立ち並び、それぞれに古い文字が刻まれている。リョウが石柱を眺め、考え込むように指で文字をなぞった。
「これは古代の言葉で、“浄化”を意味しているようだ。」リョウが言った。
「浄化?」俺は首を傾げる。
「この池には“穢れを清めよ”という意味があるのかもしれない。心や体に何か穢れがあると、この池を通ることはできないのかも。」リョウは慎重に考えを巡らせていた。
俺たちは池の前に立ち、互いに顔を見合わせた。穢れと言われても、具体的に何をすればいいのか分からない。だが、リョウは静かに池に向かって一礼し、靴を脱いで池の中に足を踏み入れた。
「リョウ、何をするつもりだ?」俺が尋ねると、リョウは微笑んで答えた。
「この池の水は、心の穢れを映し出すと言われています。もし心が澄んでいれば、何も問題なく渡れるでしょう。」
リョウがゆっくりと池の中央へと進んでいくと、特に変わったことは起こらなかった。彼は静かに歩みを進め、やがて反対側にたどり着いた。そしてこちらを振り返りながら言った。
「大丈夫だ、心を落ち着けて、穏やかな気持ちで進めば渡れる。」
俺とアキラも彼の言葉を信じ、池の中に入ることにした。冷たい水が足元を包み込み、緊張感が高まる。しかし、リョウの言葉通り、心を落ち着けて歩くことで、不思議と池の水が穏やかに感じられた。
池の中央にさしかかると、水面に不意に自分の姿が映り込んだ。水面は鏡のように澄んでおり、俺の表情や仕草までがはっきりと映し出されている。だが、よく見ると、映っている自分の姿がどこか違うような気がした。
「これは…」俺は驚き、思わず立ち止まった。
映っているのは、俺の中に潜んでいる不安や焦りの表情だった。農業を始めてからうまくいかないことも多く、自分の無力さを痛感することもあった。そのたびに「もっと強くならないと」と自分を責めていた気持ちが、今この水に映し出されているのだ。
「リオ、大丈夫か?」アキラが心配そうに声をかけてくれる。
俺は一瞬ためらったが、深呼吸をして心を落ち着けた。自分を責めるのではなく、今ここにいること、仲間と共にいることに感謝しようと思った。心が澄んでいくと、映っている自分の姿も穏やかになっていく。
「よし、行こう。」俺は再び歩みを進め、無事に池を渡りきった。
最後にアキラも池を渡り終え、全員が無事に水の試練を乗り越えた。渡り終えた先には、小さな祠が立っており、その中には一枚の古い石板が飾られていた。リョウが石板に目を凝らす。
「ここには、“調和”と書かれている。この遺跡は、自然と調和することで試練を乗り越えることを教えているのかもしれない。」
その言葉に俺たちは頷いた。この試練を通して、自然や仲間と心を通わせることの大切さを改めて実感した。そして、遺跡の奥にまだまだ未知の試練が待っていることに、俺たちは胸を高鳴らせた。
「次は何の試練が待っているんだろうな。」アキラが期待に満ちた目で言った。
俺も同じ気持ちだった。今まで経験したことのない冒険が待ち受けているこの遺跡。仲間と共に進むこの旅路に、不安もあるが、それ以上に楽しみが膨らんでいた。
「さあ、次の試練に向かおう!」俺は気合を入れて声を上げ、再び歩みを進めた。
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