第8話 ぐふふ、実験の時間です

 

 今日は、待ちに待っていない負荷テストの日です。



 アレルギーの原因物質を飲食する危険を伴う検査のため、大きな病院でしかできません。


 まず、病衣に着替えて、輸液の点滴を刺されます。

 輸液とは、補水のための点滴です。


 しかし、今日はその意味だけではありません。


 これは、万が一にアナフィラキシーの重大な症状が引き起こされた際に、速やかに薬剤を投与するための命綱ライフラインなのです。




   *




『さあ、実食の時間です!』


 バーン!!


 ハンナ先生が、食パンを16分の1持ってきました。


 一口分です。


 今まで、トーストなんて2枚くらいペロリと食べていた私には、腹の足しにもならない量です。

 その一口で、また同じ苦しみを味わうかも知れないと思うと、口に運ぶ手が震えます。



『ランさん、ここは病院です。食べて症状が出たら、すぐに対処できます。何の心配もありませんよ~。ぐふふ』



 ぐふふって何!?


 Aランクヒーラー怖っ! 

 マッドサイエンティストみたい。



 でも、いっていることは理にかなっているので、私も勇気を出して、パンを口に放り込みモグと咀嚼そしゃくしました。


 1か月ぶりのパンは、涙が出るほどおいしかったですが、同時に恐怖心も湧いてきます。



 胸につけている心電図の数値が、ぱぁぁっと駆け上がります。

 けれど、それが緊張からなのか、アレルゲンを摂取したからなのか自分でもわかりません。


 そして、15分ほどだったところで、さらに四分の一の大きさの食パンを食べ時間を置き、さらに半分と残ったパンすべてを食べました。

 実質、1時間で1枚の食パンを食べたことになります。


 それから、1時間経過しても発疹が出たり、息苦しさが出たりはしませんでした。


(ん? 私、小麦食べられた?)


 不思議なことに、その日はパンを食べても大丈夫でした。


 私は、ホッと胸をなでおろします。

 血液検査では、クラス4のグルテンアレルギーが確認されていますから、治るわけがありません。


『症状が出なくてよかったですね。やはり、体調や条件で代わって来るタイプのようです。次は運動もプラスしてみましょう!』


 小麦を食べたからといって、いつでも症状が出るわけではないことに安堵したものの、運動?? この病院の中でどうやって運動をするというでしょうか?

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