プリン消失事件
藤澤勇樹
プロローグ
東京・神田の片隅で、古びたオフィスビルが春の陽光を浴びていた。窓ガラスに映る光が埃っぽい空気を淡く照らし、それはまるで昭和の残像のようだった。
築30年を超えるこのビルは、かつてのバブル期の喧噪を今も留めている。
大手企業の撤退後は、小規模なベンチャー企業や個人事務所が入居する静かな商業ビルへと姿を変えていた。
そんな商業ビルの5階の廊下を歩く人影があった。
三木田悠一郎。すらりとした体型に、やや長めの黒髪。知的な印象を与える角縁の眼鏡の奥には鋭い観察眼が宿る、私立探偵である。
彼は時折、警察の非公式な相談役も務める存在だった。
廊下の突き当たり、「株式会社フューチャーワークス」のドアプレートは、やや傾いて掛けられている。
従業員わずか5名の小さな会社。その前で悠一郎は立ち止まった。スマートフォンに表示された親友・田嶋健一からのメッセージを、もう一度確認する。
「三木田、深刻な事態だ。すぐに来てくれないか」
悠一郎は眉をひそめた。大学時代の後輩である健一からこんな切迫したメッセージを受け取るのは珍しい。何か只ならぬ事態が起きているのは間違いない。
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