土曜のショートストーリー

月柳ふう

第1話 ハロウィンのオバケ一家の物語

 ハロウィン、ハロウィン、きょうは たのしい ハロウィンだー!


 オバケ一家の子供たちは、朝から大忙し。

 だって、今日は一年に一度、おやかし国のお祭り。

 

 「お母さん、今日はなんのケーキ?」


 末っ子オバケが、お母さんオバケに聞きました。


 「今日はねカボチャのケーキよ」


 それを聞いた末っ子オバケは大喜び。


 お母さんの側では、お姉さんオバケたちがカボチャのクッキーを焼いていました。


 リビングでは、お父さんとお兄さんオバケたちが家の中や外を飾りつけ。


 でも一番小さな末っ子オバケには、仕事がありません。


 そこでお母さんに聞きました。


 「お母さん、ボクもお手伝いがしたい」


 お母さんは少し考えて言いました。


 「それじゃ、さっき焼いたカボチャのケーキをおじいちゃんとおばあちゃんのところへ届けてくれる?」


 末っ子オバケは大喜び。


 「うん、ボク行ってくるよ!」


 焼きあがったカボチャのケーキを大事そうに両手に抱え、おじいちゃんとおばちゃんの住む家へと出かけていきました。


 しばらく歩いていると、道の真ん中でカラスが泣いていました。


 「どうしたの、カラスさん?」

 

 するとカラスは言いました。


 「さっき集めたどんぐりを全部落としてしまったんだ。家では子カラスたちがお腹を空かせて待っているのに……どうしよう」


 カラスは大きな声で泣き出しました。


 困った末っ子オバケは、「それなら、このカボチャのケーキを切ってあげるから泣かないで」と言いました。


 ケーキを四切れに分け、そのうちの一切れをカラスに渡しました。


 カラスはお礼を言うと、ケーキをくわえて飛んで行きました。


 末っ子オバケはおじいちゃんとおばあちゃんの家へと急ぎました。


 すると今度はドラキュラが道の真ん中で泣いていました。


 「どうしたの、ドラキュラさん?」

 

 「さっき買った血のジュースを落として割ったしまったんだ。お腹が空いて死にそうなんだよ」


 ドラキュラはまた泣き出しました。


 末っ子オバケは言いました。


「血の代わりにはならないけど、このカボチャのケーキを食べてごらん。お母さんの焼くケーキは世界一美味しいんだよ」


 ドラキュラは恐る恐るカボチャのケーキを一口食べました。すると口の中でトロけ、カボチャの味が口いっぱいに広がりました。


「これは絶品だ!」


 ドラキュラは末っ子オバケからもらった一切れをペロリと食べてしまいました。


 「ありがとう、坊や。おかげで元気が出たよ」


 そう言うとドラキュラはコウモリに変身してどこかへ飛んで行きました。


 末っ子オバケはおじいちゃんとおばあちゃんの家へと急ぎました。


 するとまた道の真ん中で、今度は狼男が泣いていました。


 「どうしたの、狼男さん?」


 狼男は、オイオイと泣きながら言いました。


 「さっき恋人のために栗を拾おうとしてたんだ。でも、トゲトゲに刺されて足が傷だらけ。おまけにお腹も空いてきた」


 そこで末っ子オバケはカボチャのケーキを一切れ、狼男に渡し擦り傷のいっぱいある足に薬を塗ってあげました。


 「こんな美味しいカボチャのケーキは初めてだ。それに傷の手当てまでしてくれて、ありがとう」


 狼男はお礼を言うと恋人とのデートの待ち合わせ場所へ急いで走っていきました。


 末っ子オバケはおじいちゃんとおばあちゃんの家へと急ぎました。


 すると今度は小さな魔女が泣いていました。


 「どうしたの、小さい魔女さん?」


 小さな魔女はしくしく泣いて言いました。


 「おつかいのカゴを川へ落としてしまったの。今日のパーティーに使うはずだったのに」


 末っ子オバケは、カボチャケーキの入っているカゴを小さな魔女へ差し出しました。


 「これあげるから、泣かないで!」


 小さな魔女は、カゴの中を覗きました。


 「カボチャのケーキも入ってるけど、全部もらってしまっていいの?」


 「大丈夫。家へ帰ればお母さんがいっぱいカボチャのケーキを焼いているから」


 小さな魔女はお礼を言うと箒にまたがり飛んでいきました。


 手ぶらになった末っ子オバケは、身軽になりました。


 そして、おじいちゃんとおばあちゃんの家へと駆けっていきました。


 「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは!」


 おじいちゃんとおばあちゃんオバケは、末っ子オバケが来たことを大変喜びました。


 でもお母さんから頼まれたカボチャのケーキはもうありません。


 そこで末っ子オバケは泣き出しました。


 でもすぐに、あることを思いつきました。

 

「おじいちゃん、おばあちゃん、今日はハロウィンパーティーだからボクらのお家へおいでよ!」


 末っ子オバケ、おじいちゃんオバケ、そしておばあちゃんオバケの三人は一緒にオバケ一家ところへ行きました。


 「お母さん、カボチャのケーキを届けられなくて、ごめんなさい」


  末っ子オバケが謝りました。


 「謝る必要なんてないわよ」


  お母さんオバケは末っ子オバケに優しく言いました。


 だって、オバケ一家の庭では、末っ子オバケが助けたカラス一家、ドラキュラ、狼男と恋人、そして小さな魔女とお母さん魔女がたくさんの食べ物を持って遊びに来てくれていたのです。


 お母さんオバケとお父さんオバケは末っ子オバケをたくさん抱きしめて「えらい、えらい」と褒めてくれました。


 そして今年のハロウィンパーティーは大勢で朝まで楽しみました。


 おしまい

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