もしもし、お母さんだけど
歩芽川ゆい
第1話
rrrrrr
「蒼鷺さん、ご家族の方から電話だよ」
「あ、すみません!」
『もしもし、お母さんだけど』
「なに、どうしたの。オレ今、仕事中なんだけど。しかも会社に電話って。どうでもいい話なら後にしてくれないかな」
『ごめんねえ、仕事中に電話しちゃって。あのね、お父さんが入院しちゃって』
「ええ!? オヤジ、どうしたの!?」
『雨どいから水漏れしちゃってね、業者頼むって言ったのに、俺が直してやるーって』
「ああ……出来もしないのに」
『そうなのよ。私も止めたんだけど、逆にムキになっちゃって。ホームセンターで材料買ってきて、私もしょうがないから手伝ったんだけど、はしごに乗って作業して、それは無事に終わったのよ。なんだけど、はしごから降りる時に足を踏み外しちゃって』
「それで怪我を? 骨折とか?」
『そうなの、右足をぽっきりとね。それで今、入院しているんだけど、実はねぇ、治療費とか入院費とか、入院するんであれこれ買い揃えたりしたら、お金、足りなくなっちゃって……』
「ああ……。父さんの退職金は? 結構出たんでしょ?」
『できれば手を付けたくないのよ。これでお父さん、もうしばらくは働けないじゃない? 私もお父さんも歳だし、働いても雀の涙のお金にしかならないし。老後、あなたに苦労掛けたくないから、老人ホームに入るお金を残しておきたいのよ』
「……うん」
『ああもう、この子ってば! そこで『俺が面倒みる』位の事は言いなさいよ!』
「現実問題として、二人を介護するのには俺が職を辞めないといけないし、そうしたら収入ないし、やってあげたいけれど無理だよ……」
『まあそうよね。それはわかっているけれど。あ、まあそれでね、当面の生活費を少しで良いから援助してもらえないかと思って』
「ああ、そのくらいならもちろん良いよ。どれくらいあればいいの?」
『うーん、あんたはどのくらいなら大丈夫なの?』
「ええと……。10万くらいならすぐに用意できるかな」
『あらそう、悪いわねえ。でもそれじゃあ入院費の一部にしかならないわねえ……』
「え、そうなの? じゃあ、もう少し……」
『無理しなくていいのよ。それだけでも助かるわ』
「うん、まあ、ちょっとかき集めて、出せるだけ持っていくよ。入院ってどこの病院?」
『〇△□病院よ。できるだけ早く来てもらえるかしら。入院費、待っていてもらっている状態なのよ』
「分かった、会社に訳を話して、少しだけ外出させてもらうよ。そこに持っていけばいい?」
『助かるわ。あ、でも今感染症予防対策で、面会は家族一人だけに制限されているの。だからあなたが来てくれてもお父さんには会えないけれど、良いかしら』
「そういう状況なら仕方がないよ。それに俺も時間もあまりないし」
『ありがとう、悪いわねえ。じゃあ、病院に着いたら電話貰える?』
「分かった」
『ああそうだ、スマホの電話番号、この間変えたのよ。番号いうからメモしてくれる?』
「そうなの? いいよ、教えて」
『080-○○○○-□□□□、よ』
「分かった、病院付いたら連絡するから」
『ありがとう、待っているわね』
~~1時間後、〇△□病院ロビー~~
rrrrr
「あ、母さん? 病院付いたよ」
『ありがとう、でも今、お父さんの診察中でちょっと離れられないのよ』
「そうなの? 時間かかる? 会社に無理言って出てきたから、そんなにいられないんだけど」
『そうよね、ちょっと待って。……おまたせ。あのね、看護士さんに行ってもらうから、その人に渡してもらえる?』
「ああうん、いいよ」
『笹五井さんって男性が行くから、その人に渡して。ああ、万が一があるから、金額、聞いていいかしら』
「貯金と会社から前借して、50万円、入ってる」
『あらあ、ありがとう! 助かるわ!』
「入院費はこれで足りる?」
『充分よ、ありがとうねえ。じゃあ笹五井さんに渡してね、あ、お父さん、レントゲン室から出てきた、切るわね』
「分かった」
~~数分後~~
「蒼鷺さま~? 蒼鷺さま~?」
「あ、俺です」
「蒼鷺さまですね、わたくし、看護士の笹五井と申します。お母さまから品物を受け取ってきてほしいと言われまして」
「母から聞いています。ええと、これをお願いしたいんですが」
「こちらの紙袋ですね、確かに受け取りました。すぐにお母さまにお渡しいたしますね」
「はい、どうぞよろしくお願いいたします。あの、母とは会えませんか?」
「ちょうどお父様が診察中でして、しばらくは無理かと……」
「そうですか、わかりました。では今日は帰ります」
「はい、ではこちら、確かにお預かりしました」
「よろしくお願いします」
~~その夜~~~
『はい、蒼鷺でございます』
「ああ母さん、家にいたんだね」
『あら、隆? どうしたの?』
「どうしたのって。いくらスマホに電話しても出ないから、家電にかけたんじゃないか」
『スマホ……? ああ、リビングに置きっぱなしかも』
「全く。それで、オヤジ、どうだった」
『どうだったって、……何が?』
「何がって。オヤジ、診察うけたんだろ? その結果だよ」
『ええと……何を言っているの? お父さんなら、テレビ見て笑っているけれど?』
「は??」
『定年退職してからゴルフ行ったり図書館行ったりして、現役の時よりも元気よ? お父さんがどうかした?』
「いや、ちょっと待って。母さん、今日会社に電話してきたじゃないか、父さんが足を骨折して入院したって」
『してないわよぉ。大体今日はお父さんと映画観に行っていたし。それに会社になんて電話するわけないじゃない』
「え、だって、俺、オヤジの入院費が必要だからって〇△□病院にお金届けたじゃないか!」
『〇△□病院? お金? 何のこと?』
「だから、母さんからの電話で! 笹五井って看護士にお金の入った紙袋渡したじゃないか!」
『ちょっといやあねえ、だから私は電話なんてしていないってば』
「いや、本当に、ちょっとさ! あ、オヤジいるのなら、電話に出して!」
『ええ? まあいいけど……ちょっと待ってなさい。 おとうさ~~ん、隆がなんか変な事いってるんだけど~。(変な事?)。うん、なんだかあなたが入院したとか、お金がどうとか。それで、お父さんと話をしたいって。(なんだ? うんとこしょっと) はい、隆か? どうしたんだ?』
「いやどうしたって……。オヤジ、入院してたんじゃないの!?」
『しとらんよ。ぴんぴんしとるわ。今年の健康診断も中性脂肪が高い以外は大丈夫と医者に太鼓判押されているくらいだぞ』
「じゃあ、え、じゃあ、昼間の電話は……」
『昼間の電話?』
「かくかくしかじかで、〇△□病院にお金届けたんだけど」
『……それ、オレオレ詐欺じゃないのか?』
「はあ!?」
『ああ、オレオレじゃなくてお母さん詐欺になるのか? お母さん、スマホなんて新しくしてないし、今日は俺と映画見て昼飯も夕飯も一緒に食ってきたから、病院になんて行っていないぞ』
「そ、そんな……!」
『それで、いくら渡したんだ?』
「50万……」
『ご、50万!? お前、そんなに金持ってたのか?』
「貯金は10万しかないよ! 会社に言ったらそれならって、40万前払いの形で貸してくれたんだ!」
『会社も巻き込んでるのか!? すぐに警察に電話しろ!』
「で、出来ないよ!」
『何故だ! すぐに警察に連絡すれば、病院の防犯カメラで、その笹五井とやらが写っているかもしれないじゃないか! ああ、すぐに病院にも連絡しないと……。もしかして病院もグルなのか!?』
「そ、それはないと思うけれど……とにかく、警察はダメだよ!」
『なんでだ!』
「だって、そんなことしたら、会社に迷惑かけちゃう! 辞めさせられちゃうよ!」
『はあ!? 騙された方が辞めさせられるってどんな会社だ!』
「と、とにかく! 自分で何とかするから!」
『できるわけがないだろうが!』
「ああもう、とにかく、少しだけ待って! 警察にも自分で連絡するから、オヤジからはしないで!」
『……まあ、当事者の方が説明しやすいだろうから、お前がするというのなら良いが。手に負えないと思ったらすぐに連絡しなさい』
「わ、わかった!!」
~~後日~~~
TVのニュース
『先日、都内でオレオレ詐欺グループが摘発されました。詐欺メンバーの一人が、別のグループからオレオレ詐欺被害に遭い、それを警察に相談したことで、被害者が所属しているのが、詐欺グループのひとつであると判明。グループが摘発されたという事です。被害者は、偽の母親から電話で父親が入院したと言われて、グループから横領した金を、指定された病院で看護士を名乗る男に手渡したという事で、警察は病院の防犯カメラに写っていた、笹五井と名乗る受け子の写真を公開しました』
~~SNSの反応~~
「は? え? どういう事?」
「情報量多すぎwww」
「今北産業」
「詐欺グループAの被害者、Bグループからの詐欺に引っかかる。被害者、Aの金を無断で持ち出し、Bの受け子に渡す。多分組織にバレて警察に助けを求め、Aが一網打尽にされる」
「アホすぎwwwww」
「母親の声と似てたのかな」
「被害者、蒼鷺隆っていうらしい」
「特定班、速っwwwww」
「サギがカモられてるwwww」
「タカシじゃなくて、タカモ、じゃね?wwww」
「サギにタカだったのかwww それにカモが増えたのかwwww」
「苗字もサギだし、適職カモwwww」
「まあでも、人を騙して金を巻き上げるようなヤツも、自分の家族には金を払うんだな」
「家族思いの良い面もあったわけだ」
「だけどその金も、人から巻き上げた金だけどな!」
「しかもグループから横領wwww 度胸あるwww」
もしもし、お母さんだけど 歩芽川ゆい @pomekawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます