2.悪魔たちの狂宴 ※大人向け暴力表現あり
「さぁさぁ紳士淑女の皆々様。お立ち合い、お立ち合い。本日の目玉となりますのはこちら!」
そう言った司会者の合図で引き立てられた初音は、ステージから見るその光景にごくりと喉を鳴らした。
香水の香りを纏って、ほぼ身体のラインが透けている服を纏ってステージに立たされた。
バイパーには荒々しく身体を検分されて、人生堂々一位の最悪な出来事となった。
それだけでも拭い去りたいほどの過去なのに、今度はこんな大きなホールに集まる大量の人に品定めされるのかと思うと顔が引き攣る。
「本日の目玉! 異世界者! さらにこの若い娘、ご覧の通り見た目も悪くございません……!! こんなレアはなかなかお目にかかれませんよ!」
感情を殺して、初音は色めき立つ会場を冷めた瞳で眺める。釣り上がっていく初音の価格に、現実感が付いていかなかったと言うのが正しいのかも知れない。
一際張り上げた司会者の声が、会場の盛り上がりが最高潮にあることを知らせている。
落札! の声に、初音はビクリと身体を震わした。ゆっくりと視線を上げれば、ひどく太って、脂に塗れたような悪代官オヤジがニヤニヤと会場半ばで立ち上がっている。
お世辞にも美しいとは言い難いその風貌であるが、宝石だらけの豪奢な装いや初音を落札したことを見るにお金は持っているのだとわかった。
悪代官はいやらしい笑みを浮かべて舌舐めずりをすると、近寄った会場スタッフに何事かを耳打ちする。
何か嫌な予感を受けて、初音の背筋がゾッとした直観とやらが、正しかったことは直ぐに知ることとなった。
「お喜び下さい! 心優しい落札者様のご厚意により、会場の皆々様にも異世界者の御賞味のお裾分けです!」
声高々に会場へ向けて放った司会者の言葉に、初音は耳を疑った。スタッフの男に肩口を押されて、その場に無理矢理座らされる。
司会者の放った言葉の意味が何となく理解できたが、理解出来なかった。張り裂けんばかりに盛り上がる会場のボルテージとは反対に、初音からザーっと血の気が引いていく。
視界の端で、初音を落札した悪代官がのそりのそりとその太った図体を揺らしてステージに近づいて来るのがわかった。
初音は無意識に後退さろうとするも、前手に拘束された手と、床に取り付けられた足と首の鎖に阻まれる。
この衆目の中でこれ以上の展開を思いつく辺りで、相当頭のネジが飛んでいる。葉巻片手にニヤニヤとした顔で近づいてくる悪代官を、初音は睨みつけるだけで精一杯だった。
会場の盛り上がる声が聞こえるがそれどころでもなく、初音はそっと鎖で繋がれた四肢の可動域を確かめる。
パチャリと乱雑に、何か液状のものを身体にかけられて初音はビクリと身体を震わした。
「声も出ないか。そうかそうか、私は衆目の中泣き叫ぶ女が大好きなんだよ」
へへへと得意気に頭が沸いた発言をする悪代官に、初音は怒りと屈辱で気を失いそうだった。いやむしろ失えた方が幸せかも知れない。
これ以上ないほどに醜悪な顔の悪代官を初音は見上げ、会場からは一際大きな歓声があがる。
のそりと目前に身を沈めた悪代官の急所でも、腹いせに蹴り上げてやろうかと初音が腹を決めた瞬間ーードガァっともの凄い音と衝撃と共に会場が静まり返った。
「何もーぐえっ」
「キサマっがっ」
男たちの慌てたような声と鈍い音が続き、初音は悪代官を踏み倒して床にめり込ませて仁王立ちするローブの人影をただただ見上げた。
ガキンと言う金属音が立て続いて、初音を拘束していた足と首の鎖をローブの人影が剣で切断してくれたのだと知る。
ピクリとも動かない悪代官の後頭部を踏み倒して、初音の鼻先で仁王立ちするローブの人影は、その奥から金色の瞳を光らせて初音を見下ろしていた。
「だれ……っ」
「……一緒に来るか?」
そう言って低い声と共に差し出された手。にわかに正気を取り戻したスタッフや観客が騒ぎ出した気配に、初音は反射的にその手に飛びついた。
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