3-7 ジャネットの誘拐

 翌日の早朝のことである。突然、カミーユが真っ青になって部屋から飛び出て来て、廊下で見張りをしていたアランに向かって叫んだ。


「大変です!起きたら、隣にいたはずのジャネットが居なくなっていました……!!」

「何だって?廊下には誰も来ていない。人が動いているような気配もしなかったぞ」

「でも、カミーユが寝ていた場所に……このカードが置いてあったんです!!」


 アランが覗き込むと、それは金の箔押しで縁取られた豪奢なカードだった。そこには大変流麗な文字で、こう書かれていた。


『可愛い人間の娘は預かりました。返して欲しくば、銀狼と赤ずきんちゃんは指定の場所まで来るように。今日の日没を期限とします。こなかった場合、場合娘の命の補償はしません』


 その下には簡単な地図と場所の指定が書かれている。村から外れた森の中のようだ。カードの右端には紋章の印が押されていた。


「これは……間違いなく脅迫状だな」

「ジャネット……!窓の鍵も、しっかり閉めていたのに!一体どうやって……」

「恐らく高度な魔法を使ったんだろう。……すまない。多分、俺たちの事情にジャネットを巻き込んでしまったんだ」


 アランは渋い顔で謝罪した後、すぐにルビィを起こしに行った。ドアを開けると、彼女はもう完全に身支度を終えて、出かける準備をしていた。


「事情は聞こえてたわ。カードを見せてくれる?」

「これだ」

「……!この、右下に押されている紋章……見覚えがある。そう、確か……ラノワ公爵家のものだわ!」

「何だって?何故公爵家が出てくる?」

「分からないけど、私たちを狙っている過激派の一員か……もしくは猟師ハンターなのかもしれないわね」

「チッ。公爵家ともなれば、保有する魔法も相当強力だろう。面倒な事態だな……」


 二人が対策について話し合っていると、もう一つのドアが勢いよく開いて、にゅっとカルバンが出て来た。


「面白そうなことになってるねえ〜。ねえねえ、僕も混ぜてよ」

「お前はお呼びじゃない」

「でも、指定の人物以外は来るな、とは書かれてないんでしょ?敵の裏をかくことも必要じゃない?人命がかかってるんだしさぁ」

「…………」

「僕の足取りは、多分誰にも気づかれてないはずだよ。隠れて行動していたからね。カードに『金狼』についての記載はないんでしょう?敵も、多分僕の存在は想定外なんじゃないかな?」

「アラン、カルバンの言っていることは間違ってない。それに、味方は多い方が良いと思うわ」


 ルビィが真面目な顔で言うと、アランはしぶしぶと頷いた。

 

「………………わかった。付いてくるなら、勝手にしろ」

「わぁい。じゃ、僕は隠れて見物してるね。ピンチになったら助けてあげるから」

「…………」


 アランの額には、ピキピキと青筋が浮かんでいる。これでは美形が台無しだ。ルビィが溜息を吐きながら話を再開した。


「とにかく、入念に作戦会議をしましょう」


 そこからは敵の攻撃手段の想定と取れる対策について、長い時間かけて話し合った。そして一時間ほど経った後に、カミーユを除く一同は、揃って指定の場所へ急行したのである。

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