ギャルゲー世界に転生して俺だけが好きな攻略不可ヒロインと添い遂げる
アルデヒド
第1話 俺だけが好きなキャラのいるギャルゲー世界に転生す。
ギャルゲーにつきものである「攻略不可のヒロイン」は好きだろうか?
「準ヒロインの妹」「クラスメイトの友達」といったサブキャラで、その子が可愛いと、ちょっと得するタイプのキャラだ。
自分だけが好きだと思えるような。そんなキャラ。
ここで質問だ。
もしもその子がユーザーの目に留まり、人気になり、続編などで攻略対象になったとしたら?
……そんな事になったら、嬉しいと思う人は多いだろう。
だが、俺は違う。
……俺は途端に醒めてしまう。
俺、
32歳。いい年こいて逆張り気質が抜けない俺が好きになる女子は全員、そんなヒロイン以下のサブキャラなのである。
バックボーンが描かれないからこそ、捗るというものだ。
ヒロインのママがメインヒロインを差し置いて人気になったり、学生同士のラブコメでも女教師が圧倒的な人気を獲得したりする事は、創作の世界じゃよくある事だ。
その度に俺もそのキャラが気になったりするのだが、続編でメインヒロインに昇格したり、スピンオフが出たり、IFルートが書かれたりすると急速に萎えてしまう。
つまるところ「俺だけが好きでいる」という状態に近いキャラクターでないと、俺はそのキャラを愛することが出来ない。
どうしようもない癖の持ち主なのである。
……そんな俺が未だに愛してやまないキャラがただ一人、いる。
その名は、
今から約20年前の、平成中頃に発売されたギャルゲー『KOTONOHA』のサブキャラである。
『KOTONOHA』は、親父のPCにインストールされていたのをたまたま見かけて、ガキの頃にプレイした。学生の頃は知らなかったのだが、同人イベントで頒布されていたゲームらしい。
ミホリは、主人公と3人のヒロインとの恋仲を応援するサブキャラであり、完全な便利キャラ。
主人公の幼馴染ポジであり、親友ポジ。
主人公と距離が近いのにも関わらず、ミホリは攻略不可である。
初見プレイの頃、てっきり攻略対象だと思っていたくらいだ。
幼馴染としての理解者でありながらも、全くといっていいほど主人公になびかず、親友として献身的に主人公の恋をサポートしてくれ、主人公がどんな失態を晒しても優しく受け止めてくれる。
そんなキャラがどんな事をしても攻略出来なかった時、俺の癖が開花した事を覚えている。
こんな事あってたまるか!だが、それがいい!
個別ルートなどなく、専用スチルも無く、ボイスすらも無い。
『KOTONOHA』は同人ゲームだから、サブキャラに充てる予算が無かったのだろう。
それに、1作目を出したっきり、そのサークルは次回作を出すこともなく空中分解している。
ダウンロード販売も無く、データは手元のCDのみ。それも現代のOSとは互換性が無く、エミュレータを使わないと起動が出来ない。
あらゆるSNSを調べても、『KOTONOHA』の痕跡はどこにも無かった。
―つまり「俺だけがミホリを好き」なのである。
悲恋で完成する俺の癖。
この恋愛体験の心の穴を埋めるべく、俺はSNSで誰にも読まれていない、埋もれたラブコメ小説に森園ミホリの代わりを求め、亡霊のように読み漁っているのだが、ただ虚しくなるだけだった。
探し求めるのと、出逢うのとでは、体験の価値が違う。
来るとわかっているパンチよりも、カウンターパンチの方が何倍も効くのだ。
俺には『KOTONOHA』しかない。
森園ミホリしか、いない。
負けるとわかってるのにパチンコをしてしまう様な気分で、俺は再び『KOTONOHA』を起動した。
今日は11月12日。森園ミホリの「仮」の誕生日だ。
ミホリには誕生日設定が無いので、俺が『KOTONOHA』を初めてプレイした日にした。
我ながら気持ち悪いと思いつつも、28インチの画面に小さく映る、解像度の低いゲーム画面へと目を移す。
タイトル画面はシンプルだ。大きく「KOTONOHA」と書かれ、ゲーム舞台の背景がゆっくりスクロールしているだけ。
NEW GAMEを押す。
……。
……。
おかしいな。
いつもなら黒い画面にLOAD中と表示されるはずだ。
それが気がつけば、視界全体に先程のゲーム舞台の背景が広がっている。
さながらVRゴーグルを着けた時の様な感じだ。
朝日が照りつける、河川敷の土手の上。流れる川は穏やかにせせらぎ、遠くには橋が架かっている。
光も、音も、気温も、風の心地よさも、質感を伴いすぎている。
夢でも見ているのか?
俺は目をこすり、もう一度目を開けてみたが、先程の景色のまま。
どうなっている?
両手を抱えて困惑していると、俺の服が先程まで着ていた服ではないことに気づく。見覚えのある学生服……。
それが『KOTONOHA』の男子学生の制服である事に気づくまで、10秒もかからなかった。
「きゃんきゃん!」
土手の真ん中で立ち尽くしていたからか、散歩中の犬に軽く吠えられてしまった。
「ああ、ごめんなさい」
道を譲ろうと端へ避ける。
「チョコ、待ってよ~!」
学生服を着た女の子が、子犬にリードを引っ張られるように走ってきた。
俺はその姿を見て、天地がひっくり返る様な衝撃を受けた。
「あれ…………?ミホリ…?」
「え…?」
俺が彼女の名前を知っている事が驚きなのか、よく知る顔の彼女は目を丸くしてこちらを見ている。
瞬間、俺の全身に鳥肌が立った。
これは、確信を告げる感覚。
第六感と言っても良い。
―『KOTONOHA』の世界に、どういう訳か俺はいる。
転生したのだろうか?
それともまだ、夢の中なのだろうか?
攻略不可のサブキャラを、俺だけが攻略出来る。そんな夢物語が、本当にあるのか?
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