第15話 美濃市
美濃市の夜、静まり返った町家の一角を抜け、今堀と不知火は足音を立てないように慎重に動いていた。暗がりの中に浮かび上がるのは、重厚な屋根のラインが美しい「小坂家住宅」。国の重要文化財に指定され、歴史の重みを感じさせるこの酒屋造りの建物の前で二人は足を止めた。
「この屋根、見事な“むくり”があるな…」今堀が呟く。小坂家住宅のゆるやかにふくらんだ起り屋根、そして両側の「うだつ」が、まるで二人を見守るかのように月明かりに照らされている。
「立ち止まってる暇はありませんよ、兄貴」
不知火が小声で促した。二人はさらに奥の旧今井家住宅の方へと歩みを進める。江戸中期に建立され、美濃市内最大規模の商家として知られるこの紙問屋は、かつての商人たちの栄華を今に伝えていた。
「ここの庭園には水琴窟があるらしい。日本の音風景百選にも選ばれているとか」今堀は、周囲に気を配りながら話を続けた。まるで逃走中の緊張を和らげるかのように、その歴史に思いを馳せている。
「今はそんなことを考えてる余裕はないだろ」不知火が苛立ちを隠せない様子で言い返す。「いいか、少しでも気を緩めたら終わりだ」
二人は次に「町並みギャラリー・山田家住宅」に辿り着く。享保6年から続く町医者の建物で、現在は和紙ちぎり絵などのギャラリーとして使用されている。陶器製の防火水槽が今も残っており、火災に備えた当時の工夫が偲ばれる。
「ここも昔は医者がいたのか。美濃の人たちの命を守ってきた場所だな…」今堀が再び呟いた。
「その命を守るべき場所を、俺たちはただ逃げるために利用しているんだ。情けは無用だぞ」不知火が厳しい目で彼を見据える。
二人は町のうだつが上がる家々を潜り抜け、「美濃和紙あかりアート館」のほうへと進んだ。伝統的な美濃和紙を用いたあかりアートの作品が展示されている館の中、柔らかい光が窓から漏れ出て、夜の闇に幻想的な明かりを灯している。
「こんな美しい場所を通り抜けているというのに、俺たちは後ろ暗い影の中だな…」今堀がふとつぶやいた。
「それでも進むしかない」不知火が短く言い放つと、二人は再び闇の中へと足を踏み入れていった。
---
美濃市の町並みが夕暮れに包まれる中、涼介は家族との思い出が蘇る場所を通り過ぎながら、復讐の炎を燃やし続けていた。彼の目標は火影蓮の幹部、特に家族を奪った冷酷な男に対する復讐だった。
涼介は美濃市内の「岡専旅館」に向かう。表向きは観光施設だが、裏では火影蓮の幹部たちが集まる場所であり、涼介の目標となる男もそこにいるはずだった。涼介は静かに旅館に足を踏み入れ、廊下を進んだ。
---
薄暗い廊下を進み、涼介は障子越しに部屋の中をうかがう。男たちが酒を交わしながら話し、涼介の目標もその中にいた。男が振り返り、涼介に気づくや否や、涼介は無言でその部屋に踏み込んだ。
「お前の罪を、必ず償わせる」涼介の言葉が冷たく響く。男が驚いた表情を浮かべる暇もなく、涼介は男に拳を食らわせた。男はよろめき、さらに涼介の連打を受ける。涼介は言葉を続けた。「家族を殺したお前には、これだけじゃ足りない」
---
男は痛みに呻きながらも、謝罪しようとするが、涼介はその言葉を許さず、強烈なパンチを放ち続けた。「お前は今まで何人を殺してきた?」涼介は冷徹に言い、男の顔を掴んで顔を近づけた。「俺の家族を奪ったことを、俺は許さない」
突如、裏木戸が開き凱斗が入って来た。
「今堀ッ!!」
逃げようとする男に凱斗はボーガンを射た。
男は即死した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます