第5話 濡れた日々
再会した涼介と綾は、夜の都内を散策しながら話し込んでいた。懐かしさと新鮮さが入り混じり、二人の間にはかつて感じたことのない親密な空気が漂っていた。涼介は無意識に彼女の手を取り、二人は夜の静けさに包まれた公園の奥へと足を運んでいった。
都会の喧騒から離れ、二人だけの世界が広がる中で、涼介はふとした瞬間に彼女の瞳を見つめた。過去の記憶と今の彼女の姿が重なり合い、抑えがたい思いが心の奥底から湧き上がってきた。静かに彼女の髪に触れ、綾もまた目を閉じて涼介に身を委ねた。
夜風が二人の周りを優しく包み込み、遠くで街の光がかすかに瞬いている。幼き日の純粋な想いが、今ここで新たな形となって二人を結びつけていった。
その後、綾は村を離れ、夢を追うために都会へと向かった。涼介は彼女を見送る際、ようやく「頑張って」と声をかけることができたが、それ以上の言葉を伝えることはできなかった。綾の背中が遠ざかっていく中、彼は心にぽっかりと穴が開いたような寂しさを感じつつ、初恋の甘酸っぱい記憶を胸に秘め続けた。
涼介にとって綾との思い出は、初恋の痛みと共に、彼自身が強くなるためのきっかけとなった。
数年後、涼介は仕事の関係で都内に出張に出かけた。都会の喧騒に少し疲れを感じていた彼は、仕事が終わり夜の街をふと歩いていると、ふいに懐かしい笑顔が目に飛び込んできた。そこに立っていたのは、かつて彼の初恋の相手だった綾だった。成長した彼女は都会的で洗練された雰囲気をまとい、しかしどこか当時のままの柔らかな雰囲気を残していた。
二人は驚きと再会の喜びを分かち合い、近くのカフェに入り、これまでの時間の流れを埋めるように話に花を咲かせた。綾は都会での生活や仕事のことを語り、涼介もまた故郷を離れての生活や仕事のことを話した。彼女が夢に向かって努力している姿を再び目の当たりにし、涼介は胸に懐かしい想いが再び湧き上がってくるのを感じた。
その夜、ふたりは自然の流れで涼介の宿泊先のホテルに足を運んだ。昔の面影を残しながらも、大人としての魅力を備えた彼女に惹かれる気持ちは抑えがたく、彼は静かに彼女の肩に手を添えた。幼き日に抱いた想いが、時を経て、より深く強いものへと変わっていた。ふたりは互いの心の隙間を埋めるように、自然と身体を重ね合った。
彼にとって、それはただの再会ではなく、初恋の思い出を新たな形で締めくくるひとときだった。そして、かつての未練が静かに満たされ、彼の心は穏やかな安らぎに包まれた。
その夜、二人は思い出話とともに静かに愛を確かめ合った。しかし、都会の夜はいつまでも二人だけのものではなかった。
数日後、涼介が転職活動で青龍県にやって来たその日、町には異様な緊張感が漂っていた。周囲に立ち込める静寂の中、不意に地面が微かに振動し始め、低いエンジン音が遠くから響き渡ってきた。やがて、角を曲がった先に巨大な装甲車が現れた。その重厚な車体が町の中心に堂々と進み、涼介は思わず足を止めてその威圧的な光景を見つめた。
青龍県の住民たちも不安と好奇の入り混じった目でその装甲車を見つめていた。何が起こっているのかとざわつきが広がり、人々の間には緊張感が漂い始めた。涼介は、その装甲車がただの威圧目的でないことを感じ取った。
装甲車が停車すると、厳重な制服を着た警備隊員が次々と降り立ち、周囲に厳戒態勢を敷き始めた。青龍県の片田舎において、これほどの警備態勢が敷かれることなどこれまでなかったことだ。涼介は装甲車の向こう側に立つ一人の男の姿に目を留めた。彼は冷静な表情で町の様子を見渡し、まるで何かを探しているかのようだった。
涼介は、彼の視線が一瞬自分に向けられたことに気がついた。
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