王国最強騎士は追放されたので、商業都市に引っ越して何でも屋をしながら、お調子者のラッキースケベオヤジとして楽しく暮らす!

イコ

追放

序章 

 血生臭い戦場から帰還した俺は、王命によって謁見の間に呼び出された。


 いつもならば報告を文官に済ませればそれで事足りるはずなのに、どういうことだ?


 俺はエルデリア王国の騎士団長として、すでに二年の歳月を過ごしてきた。


 もしかしたら昇進もあり得るのかと、夕陽が沈む空を見上げる。


 両親が幼い頃に死んでしまったために、十二歳から戦場で戦う日々だった。二十歳である事件をきっかけに騎士に取り立てられ、現在二十五歳で騎士団長に上りつめた。


 戦場を駆け抜けていくうちにいつの間にか、王国最強と呼ばれるようになっていた。


 悪いことではない。だが、虚しく感じる時もある。多くの者たちをこの手にかけてきた。頭が良くない俺は戦うことしかできなかった。


 だが、一つの約束のため、それが俺を支えていた。すでに、軍務では俺の上に立つのは元帥閣下しかおられず。やっと、俺は約束を果たせるのかもしれない。


「あなたが1番になったら、私の専属騎士になってください」


 不意に思い出す言葉に、頬が緩みそうになる。


 俺をここまで引き上げてくれた老王のためにも、俺は王国に忠誠を誓い、あの方のために生きる。


 王から頂いたファルクスとは、あの空の王と言われる「鷹」を意味しており、鋭い洞察力と強靭な精神を象徴するような名前だ。


 最強の騎士としての俺の威厳を表現していた。王国最強の騎士であることから、俺には騎士としての貴族位も与えられていた。


蒼騎侯爵ソウキコウシャク


 平民である俺に、王が忠誠高い騎士という意味を込めて、貴族の位を与えてくださった。また他の貴族に配慮しており、位で言えば侯爵と同等ではあるが、領地を持たず一代限りの貴族位とされている。


 これまでの俺は誰もが認める騎士になるために、戦場では勇敢で誇り高く戦い続け、王への忠誠心を示してきた。


 現在の俺は王国を守る盾であり、王国の強さを表す剣として、王国の象徴ともいえる存在になれたと思う。


「ライアン・フォルクス第一騎士団長、入ります」

「入れ」


 謁見の間に立って名乗りをあげると、巨大な扉が開かれる。


 左右に居並ぶ文官や武官たち。中央には玉座に座り御簾が掛かったエルデリア王のお姿が見えて、気品と風格を持ち合わせた王のもとに向かう。


 だが、部屋に入ってから俺は不穏な気配を感じていた。


 普段ならば気軽に話しかけてくる騎士仲間たちが一人もいない。


 誰もが厳しく重い表情をして、まるで俺を睨んでいるようだった。彼らの表情に一抹の不安が過ぎる。


 エルデリア老王の前に来て、頭を下げ、膝を折って礼を尽くす。王の隣にはこの国の宰相閣下に元帥様が左右に立ち並ぶ。


 お二人とも、何度も話をしてきたが、今日は厳格な表情で俺を迎えた。


「ライアン・フォルクス。ここに」

「うむ」


 俺が到着を告げると、王から返事があるだけで、何も声をかけてもらえない。普段であれば、戦場の功績を讃えてくれる。


 だが、今日は誰も何も言葉を発しない。


「王に代わり発言をお許し願えますでしょうか?」


 沈黙を破ったのは、若く才気あふれると噂の文官、フィリップ・ダルメンテスだった。ダルメンテス侯爵家の次男で、第二王子の学友だったと記憶している。


 そんな者が王に代わって発言するという。


 長い髪に切れ長の瞳は、さぞ女性にモテるだろう。無骨な俺とは違って色男であり、切れ者として知られているが、どこかイケすかない男だ。


 老王退位が近づく現状。


 次期王位争いでは、二人の王子たちの間で権力を握るために動きがあるという。平民である俺には関係ない話ではあるが、フィリップ・ダルメンテスの名前は嫌でも耳に入ってきていた。


 政治の裏で暗躍する厄介な存在。


 奴は俺に冷ややかな視線を向け、一束の書類を差し出してきた。


「ライアン・フォルクス様、この書類に書かれていることは、事実ですね」


 体に蛇が巻き付くような嫌な声が、俺に浴びせられ、疑問の色を浮かべながらその書類に目を落とした。


 見覚えのない文字が並び、内容は国家機密を漏洩して他国から金品を受け取ったという俺への疑いが書かれた書類だった。


「なっ?!」


 その文面には、隣国への情報流出と裏切りの証拠が詳細に記されていた。


 何かの間違いだ! 俺は名誉ある騎士として、この国の象徴に恥じない生き方をしてきた。


 確かに、記された人物と交渉をして平和協定を結んだことはあるが、金品のやり取りは一切ない。ただ、会談を行なって食事をしただけだ。


 それも全て王国のためだった。決して情報漏洩などしていない。


 そんなことをするはずがない、する意味もない。衝撃を受け、即座に否定した。


「これは…違う! 俺は王と王国に命を捧げている。こんなことをするはずがない!」


 しかし、フィリップは冷たく笑い、事もなげに言葉を続けた。


「あなた様がこのことに関与したことを目撃した者や、証言している者も大勢いるのです。すべての証拠が揃っているのですよ。すでにこの場に集まった人々はそれを承認しています」

「どういうことだ!?」


 意味がわからない。ここに集まった者たちは承認している? 俺はすぐに王へ視線を向けた。エルデリア王の顔は見えない。だが、老いた王は御簾ミスによって隠されている向こうで、ため息を吐いておられるように感じられた。


 王と共に俺を取り立ててくれた宰相も、これまで共に戦場で戦ってきた元帥閣下も目を閉じてこちらを見ようともしない。


 明らかに何かがおかしい。だが、俺には違和感に気づくことができない。


 文官たちや、軍務を争っていた者たちが冷たく鋭い視線を向けてくる。俺の心臓が凍りつくような感覚に襲われた。


 これは罠だ。いくら愚鈍グドンな俺でも気づくことができた。


 俺はやっていない。無実であることは明白だが、フィリップ・ダルメンテスの狡猾な罠にはまり、もはや抜け出せない状況に追い込まれているのが理解できた。


 俺は力強く拳を握りしめ、王に向かって必死に訴えた。


「陛下、どうかお考え直しください。我は王国に忠誠を誓い、命を懸けてまいりました。どうか、調査をもう一度…」


 しかし、王は苦渋に満ちた声で答えた。


「ライアン…よ。その忠誠心は誰もが知っている。戦場での活躍は大いに王国に貢献した。だが、お前は他国にハメられたのだ」

「えっ?!」


 他国にハメられた? つまり、俺を密告したのはあの会談を行なった者も含まれるということか? そんなバカな。あの時は笑顔で会談を終えて、互いにこれ以上の血を流さないでおこうと約束したというのに……。


「証拠が揃っている以上、余はライアンを見過ごすことはできない。王国の秩序を守るためには、どれだけの地位を持っている者でも許すわけにはいかぬ…」


 王の言葉に俺は項垂れて、膝を折る。俺の味方は誰一人いなくなった。


 フィリップの冷酷な笑みを背後に感じながら、俺は沙汰を言い渡される。


「ライアン・フォルクスよ。貴殿はこれまで王国に多大な貢献をしてきた。それは間違いない。本来であれば大罪を犯したお前を処刑するところではあるが、王の慈悲により国外追放を命じる。貴様の家や家財は没収となるが、生きるために金はいるだろう。手持ちの貯蓄は持っていくがいい。これは王の慈悲だ。ありがたく、どこへなりとも行くが良い」


 奴の声に、俺は地面を失ったような喪失感を覚えた。


 これまで忠誠を誓い、全てを捧げてきた。


「ライアンより、フォルクスの名を剥奪する。同時に【蒼騎侯爵】の位も剥奪とする」


 王の言葉は俺の胸を深く突き刺し、その誇り高い魂を粉々に砕いた。その場に立ち尽くし言葉を失った俺を、王国の騎士が手をかけ城外へと連れ出そうとする。


 そんな俺にフィリップ・ダルメンテスが近づいて耳打ちした。


「お人好しの王国最強騎士様。あなたを葬れなかったことは残念ですが、追放できたことは喜ばしい。平民は立場を弁えよ!」


 最初は嫌味を含んだ敬語で、最後の言葉には、奴の毒が含まれていたように思える。


 城から放り出された俺は、外の風は冷たく、辺りは薄暗くなり始めていた。


 俺は王国の門の外に一人立ち尽くし、自分自身への怒りと無念の涙が流れるのを感じた。


「約束は果たせませんでした」


 絶望が心を占める。最も信頼していた王に裏切られ、フィリップによって全てを奪われた。


 俺には、もはや守るべきものも、帰るべき場所も存在しない。


 あるのは、フィリップ・ダルメンテスの策略によって陥れられた惨めなこの身と、王の温情によって生かされた残された命だけだ。


「全ては夢幻と消え、己が一生などなんの意味もない」


 冷たい風が吹き荒れる中、俺は王国から追放された。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 もうすぐカクヨムコンテストですね。


 今作品は、そのままカクヨムコンテストに出品するのか不明ですが、今年出す新作としてはラストになるのか、もう1作品かければ提出しようと思っています。


 応援していただければ幸いです。


 どうぞよろしくお願いします。

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2024年11月17日 12:00
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王国最強騎士は追放されたので、商業都市に引っ越して何でも屋をしながら、お調子者のラッキースケベオヤジとして楽しく暮らす! イコ @fhail

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