─矛盾─




「ほら、見て。目元とか本当にあなたそっくりじゃない?」

「そ、そうか?でも口元とかはお前に似たんじゃないか?」

「ふふ。そうかもね」


彼等はそんな会話を交わしながら、帝都から遠く離れた辺境の地で、日々を穏やかに過ごしていた。

彼の笑顔が彼女を幸せにし、彼女の優しさが彼を包み込んでいた。時には喧嘩をすることもあったが、お互いの愛情がそれを乗り越えていた。


しかし、そんな幸せも長くは続かない。




「ここか?」

「ハッ!情報に寄ればこの辺りにいるはずです」


辺境の地には似合わない服装をした男たちが、小さな小屋を囲んでいた。


「ち……っ!もぉ来やがったか」

「あなた……」

「大丈夫だ。もうすぐ勇者たちが魔王討伐に動くはずだ。」


と、彼は語りながら彼女と子供を抱き締めた。


そして、彼はジッと彼女の瞳を見つめ、「必ず逃がして見せる」と、身の丈ほどありそうな大剣を持ち小屋を出ていった。



「居たぞ!グリザードだ。殺せ!」

「形態を崩すな!相手は幹部だ。慎重に囲め!」


前衛には盾持ちが数十人、後衛には剣を構えた男が数十人おり、グリザードを囲んだ。



「なぁ……あれ大丈夫か?助けた方が良くないか?」

「だめです!私たちが手を出さずともここで死ぬ予定では無いはずです。」

「ち……っ!」


凪たちは小屋から少し離れた位置で身を隠し、歯がゆい気持ちでその光景を見ていた。



「オラァァ!!」


グリザードはその身の丈ほどありそうな大剣を振り上げ、その場で飛躍。そして、大剣を振り落とした。


その瞬間。大きく地面が揺れ、相手が体制を崩したと同時に前衛の首を跳ねていった。



「怯むな!相手は一人だ。剣を持ったものはそのまま進め!盾持ちは援護だ」

『おおぉぉぉぉ!!!』


その場からは、敵部隊の天に届きそうな程の無数の雄叫びが上がると同時に、小屋の中から赤子の鳴き声が周囲に響き渡った。


「ち……っ」

「ッ…!?子供の泣き声です!」

「なんだと!?子供までいるだと??絶対に殺せぇ!魔族と人の子など、生かしておけん!!」


敵の部隊の怒気が高まる中、小屋の扉がゆっくりと開かれた。


「女です!女が出てきました!」

「貴方たちですか…あの子を泣かせるのは。万死に値しますね」


その瞬間── 周辺一帯に無数の雷が落ち、敵部隊は一瞬で塵へと化した。


美蕾はなにかを考えるように動きを止め、ゆっくりと口を動かした。


「…まだなにか居ますね。けれどこの気配…どこかで……」


「ッ…!?いけません!転移します」


「……消えましたか。何でしょうか今の気配は…どこか懐かしい」

「美蕾、助かったぜ。……どうした?」

「いえ、気のせいでしょう。人族に居場所がバレたので移動しましょう」

「あぁ、そうだな」



~~~~~~



「どうゆう事だ?美蕾が居たぞ!!」

゛そりゃ居るだろう。グリザード一人だったら主様はこの世に存在してないよ ゛

「て事はイリスも、もう1人居るって事なのか」

「いえ、私は未来も過去も関係ありませんので」

「なぁ…二人が誰に殺されるか分かってたりするのか?」

「……」


イリスは口を噤んだ。


もちろんわかっていた。しかし、それを教えた場合、凪は必ず殺しに行こうとするだろう。その場合、タイムパラドックスが起こる可能性がある。


「先に殺したらまずいか……?」

「……えぇ」

「でもよく考えてくれ。魔王をこの時代に倒すって事は、梓たちが死なない未来に変わる。そこに関してはどうなんだ?」

「はい、間違いなくタイムパラドックスは起きます」

「だったら、親父たちを救っても結果は同じじゃないか?」

「……それを言われると、そうですが…」


「それが分かっていながらスロフは俺たちを過去に飛ばした。ようするに、過去に戻った人が過去の世界で何かをしても、それは過去に同じように起こった出来事で、結局未来は変わらない=タイムパラドックスは起こらないって事なんじゃないか?」


イリスもその答えにはたどり着いていた。魔王を倒した時点でタイムパラドックスが起きることは確定していた。それなのにスロフは過去に飛ばした。だとすれば凪の言った通りの結論になるのではないかと。


「今この話をして、戻されないって事は恐らく大丈夫だ。ダメならスロフが強制帰還させるだろうよ。だから、イリス。教えてくれ!」


「なんか凪に説得されたみたいで癪ですが…いいでしょう。グリザードたちを襲ったのは幹部たちでもなく、キング種ですよ。今の凪なら大したことではないと思いますが、数が圧倒的でした…」

「よし!じゃあ先に殺しに行こう。すぐ行こう!」

「はぁぁ。だから言いたくなかったんですよ…」

「人に干渉しなければ大丈夫だろ?たまたま魔物が死んだってだけだろ。大丈夫大丈夫!」


イリスは盛大に溜息を吐きながらも、その場を後にするのだった。


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