─四天王 ベルベット3─ side梓




「はるはるっ!パパさんの治療お願い!!゛プロミネンス ゛」

「任せてください!」


  梓がベルベットへと魔法を放ち、それと同時に橘はグリザードの元へと走りだした。


「くっ、鬱陶しいわね。」


  ベルベットはそう言うと大袈裟に後方へと飛び退いた。


「…凛鳴ちゃんはあのバカたちを結界で閉じ込めておいて!゛アトモス・レイン ゛」

「はーい。了解!……えいっ!!」


  空から無数の核がベルベットを襲う


「チィ、小娘がぁ!!」

「んー全部避けられちゃったか。まぁとりあえず目的は達成できたか。」


  梓がベルベットを引き付けている間に、橘がグリザードを回収、そして回復魔法を掛けていた。


  坂柳たちだが凛鳴の結界により、その場を身動き取れずにいた。仮にもレベル50オーバーの二人を閉じ込め、身動きを封じる程の結界。凛鳴を知らない村瀬と早乙女は唖然とした。


「あまり……調子に…乗るんじゃ、ないわよ…」


  ベルベットが綺麗な顔を歪めると同時に空気が重くなる。そしてボソボソと詠唱を始めた。


「……深淵の闇より湧き出でし魔力よ。

燃え盛る炎とともに爆裂せよ。」


「ッ……!?あれはやべぇ!!…結界の嬢ちゃん!味方全員に全力で結界を張れ!!」


  梓たちを中心とし、魔法陣が領地を広げて行く中ベルベットの詠唱は続いた。


  凛鳴は言われた通りに全力で全員へと結界を張り直した。


「ふざけろ!いつの間に詠唱魔法なんか覚えやがった!!お前ら全員であいつを止め───」


 そして、詠唱が終わる。


「我が手に秘めし力を解き放ち、無限の暗黒を呼び起こさん。爆焔の災厄よ、現れよ」


  ゛アポカリプス ゛


  その刹那── 周辺一帯が一瞬で焦土と化した。


  ベルベットがスキルを発動した瞬間、ピカっと光を発したかと思えば、焦土と化していたのだ。


 もし結界が無ければ今頃、皆は黒焦げになっていた事だろう。


「……なっ…!?これを使って無傷と言うのかしら…こっちは全魔力を込めたと言うのに、化物ね…。」

 

  凛鳴の結界は優秀であった…ベルベットから化物と呼ばれる程に。


  それもそのはず。ベルベットの全魔力を込めたとなればグリザードですらただでは済まない。それを全員無傷で耐えきったのだ。 学校にいた頃の結界とは大違いだ。四天王の詠唱魔法すら防げるほどの結界。 凛鳴があれからどれだけの努力をしたのか計り知れない。


「えー…なにこれぇ。結界壊れなくてよかったぁ……。」

「…おいおい、これは流石に……。でも助かった、ぜ!!」


  グリザードはそう言うと、走りだし、ベルベットへと持っていた剣を投げつけた。


  投げつけた剣は軽々と避けられてしまうが、避けたと同時にグリザードの拳がベルベットの顔面を捉えた。


「ガっ……」


  グリザードに殴られたベルベットは勢いよく吹き飛び、身体を回転させながら転がって行った。


 ベルベットは脚をガクガクと産まれたばかりの子鹿のようにしながら、なんとか立ち上がり言った、

「……さすが、に勝てそ、うにないわ、ね……」

「さっさと諦めて死んでくれると助かるんだけどな。ほら、もう魔物退治も終わりそうだぜ」


  グリザードに言われベルベットはチラっと視線を周辺に向けるが魔物はほとんど残っておらず、残りはベルベットだけとなっていた。


「……そうね、そうするわ。ふふ。でも貴方たちでは魔王様には絶対に勝てないわ。」

「もういい、喋るな。」


  グリザードはそう言いベルベットの首へと剣を当て、それを横に引振り抜いた。


  首を跳ねられベルベットは灰へと変わり、その場には魔石だけが残った。


  グリザードはその魔石を手に取ると、ネーヴェへと投げつけ、


「これで、問題ねぇか?」


  と、口元を吊り上げた。


「ご苦労様……うん、これならなんとかなりそうだね。それじゃあ始めようか。」


 と言い、神楽、蒼波、美蕾を自身の身体へと呼び戻した。



  ベルベットを倒した事により、坂柳たちの魅了が解けた為、凛鳴は結界を解除した。


「……何があったんだ!?そして君は誰だ!」


  坂柳が凛鳴に向かってそう言うと、凛鳴は律儀にも自己紹介をし始めた。


「そうか…凛鳴!君は僕と共に…イダっ!?」

「いい加減にして頂戴!貴方たちのせいで私と胡桃は死にかけたのよ!!」


  坂柳のいつもの悪い癖が出始めたと同時に村瀬が思い切り坂柳の後頭部を叩いた。


「そうです。お二人共反省して下さい。今回は凛鳴さん?ですか。彼女のお陰で助かりはしましたが……次はありませんからね。」


 早乙女がそう言うと坂柳と国嶋はその場で土下座。謝罪を始めたのだった。



「それはそうと梓先輩。凪くんはどこなんですか?」

「凛鳴ちゃん…。なぎなぎは今別の世界にいる。」


  凛鳴は梓の言葉に目を見開いた。 梓は話を続け、


「そして、これからネーヴェちゃんがその世界に続くゲートを開いてくれるはず…」


  梓がそう言うと、凛鳴は口を噤んだままネーヴェへと視線を向けた。


「無窮の宇宙にて、星々が踊り狂う時、深淵の闇から現れし異界の扉よ」


  ネーヴェが詠唱を始めると、周辺から音が消え、空間が少しずつ歪みをみせた。


「我が意のままに、我が声に従い、世界の法則を捻じ曲げよ。我が名はネーヴェ。」


  空間は更に歪み、徐々に扉の形を作っていく。


  ネーヴェの額からはおびただしい程の汗が流れ、ベルベットの魔石からは目を眇める程の光が放たれていた。


「蒼穹の果てに渦巻く運命の渦を絡みつけ、時空の縫製を逆転させ我が前に現れよ。」


  詠唱が終わると同時に魔石は粉々に砕け散り、ネーヴェの目の前には扉が現れた。


「……く…、魔石だけじゃ足りなかったか…私の魔力まで持っていかれたよ……。」

「ッ…!?ネーヴェちゃん!!はるはる回復!!」


  ネーヴェはそう言うと地面へと倒れ込み、梓と橘が駆け寄った。


「上出来だ。よし!この先は別世界だ。戻ってこれるかも分からねぇ!覚悟のあるやつだけ着いてこい。」

 

  グリザードはそう言うと同時に扉を開け中へと入ると姿を消した。


「もちろん私たちは行くけど、凛鳴ちゃんはどう──」


  梓と橘はネーヴェを抱えながら凛鳴へと視線を向けるが、凛鳴の顔を見てフッと頬が緩んだ。


  凛鳴の表情からは強い意志が現れていた。


 その表情は、今度こそは私が……と言わんばかりであった。


「愚問だったね。行こう凛鳴ちゃん!なぎなぎを助けに。」

「うん!行こう。」


  梓たちは扉へと脚を進め、姿を消した。



「私たちはどうするの?今のでハッキリしたけど、確実に邪魔になるわよ。」


  村瀬がそう言うと坂柳は目尻を吊り上げ険しい顔をしていた。


  坂柳は自分の無力差に苛立ちを募らせると同時にどうしてアイツばかりと嫉妬の感情が溢れていた。


「クソッ。なぜ俺たちがアイツを助けに行かないといけないんだ!行くわけないだろ!!」

「そう。別に私はそれでいいわ。どうせ行った所でなにもできないしね。」

「大体なんなんだ!みんなして凪、凪って!僕は勇者だぞ!!」

「和馬…………。とりあえず落ち着いてちょうだい。」


  村瀬はそう言うと、坂柳から視線を切り扉へと視線を向けた。


  少し経つと扉は徐々に薄くなっていき、それから数分後には跡形もなく消えてしまった。



  行き場をなくした勇者パーティは誰もがその場から動かず沈黙に包まれていた。


  そんな中意外にも早乙女が口開いた。


「ふぅ。それでは私たちはあそこでも目指しますか?」


  早乙女は浮かんでいる都市に向かって指をさしていた。


  そんな言葉にそこに居た誰もが口を噤んで、空を見上げていた。


  どれ程そうしていただろうか、いや。ほんの数分であろう。都市から一つの影が坂柳たちへと向かってるかと思えば、徐々にその姿が顕になり、坂柳がゆっくりと口を動かした。




「ヴォルガノス…………」と。


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