─ヴァンス─



  凪は建物を飛び出し、そのまま飛躍── 残ったゴブリンたちへと刀を振り下ろしていく。


「はぁぁぁぁ!!」


  梓の魔法により、一帯を埋め尽くしていたゴブリンを一掃したにも関わらず、まだ三割程度残っていた。


  まずは雑魚からだ!と 凪が刀を横に一振りした。すると、炎の刃が飛びだし、そのままゴブリンたちへと一直線に向かっていき数十体の首を跳ねた。


【レベルが上がりました。】


「はっ?なんか飛んだんだけど…」

゛凪様のレベルアップに伴い私も強くなると伝えたではありませんか。゛


  いやいや、こんなの出るなんて聞いてませんが…。まぁいい。これなら簡単に一掃できる!


「フッ!」


  凪は再度、飛躍し、辺り一帯を炎の刃で火の海に変えながら首を跳ねていく。


【レベルが上がりました。】

【レベルが上がりました。】

……


゛凪様、ゴブリンジェネラルが来ます。2体!゛


「このまま突っ込むぞ!」


  フェイントをかけながらゴブリンジェネラルの懐に飛び込み、刀を振り上げる。


【レベルが上がりました。】

【レベルが上がりました。】


  振り上げた勢いのまま、もう一体へと飛びつきそのまま首を跳ねる。


【レベルが上がりました。】

【レベルが上がりました。】


「ほぉ。ジェネラルを一撃ですか。流石はグリザードの息子。ですが、次の相手はどうなりますかね。」


「ふっ…ふぅっ…!」


  大きく息を吸い込み、乱れた呼吸を整え、ジェネラルの魔石を飲み込む。


゛ご主人様。キングが来る。あれは強い。゛


  ゴブリンキングは地響きを上げながら凪へと近づいてくる。片方の手にはバカでかい剣を持っており、ご丁寧に鎧まで着ている。


  凪は地面を蹴り、一瞬で間合いを詰めようとするが、その鼻っ面を叩き潰すかのようにゴブリンキングから斬撃が襲ってくる。


「チッ、厄介だな」


  ジェネラルと違ってスピードまであるじゃねえか…


  凪は斬撃を避けるように横へと飛び退き、再度刀を構え、地面を強く蹴り上げた。そして、ゴブリンキングに向かって何十条もの刺突を繰り出した。


 しかし、凪の刺突を身体に浴びながらもゴブリンキングは手に持った剣を凪へと振り下ろす。


「グラァァァァアァァァ!!!」


  ガキン。と音を立てお互いの刃がぶつかり弾かれる。


  凪がその反動で体制を崩すと、チャンスと言わんばかりにゴブリンキングの左の拳が凪へと振り下ろされた。


 ッ……!?避けられない…


  ゴブリンキングの拳は凪の顔面を捉え、そのまま地面へと叩きつけられる。


「グッ…!!」


  っは…はぁ…はぁっ…


  僅かな間だが息が止まっていたかもしれない。それに平衡感覚がおかしい……無理やり立ち上がる。


  くそ…一撃貰っただけでこれか………。ギリっ、と奥歯を噛み締めた。


「冗談じゃねぇ。こんな所で負けてられるか」


  凪は地面を強く踏みしめ、その場で刀を一振りし、炎の刃を飛ばす。同時に地面を蹴り上げ、ゴブリンキングの頭上まで飛躍──


「これで、終わりだぁぁぁぁ!!」


  一気に魔力を解放し、ゴブリンキングの首元へと全力で刀を振り下ろした。


 ズパンッ!


【レベルが上がりました。】

【レベルが上がりました。】

……


  レベルアップの知らせが頭の中で鳴り響く。


 凪はふぅー。と息を整えながら魔力を抑え。キングの魔石を飲み込んだ。その時



  パチ…。パチ…。パチ…。パチ…。


 ゆっくりとした拍手の音が聞こえたと思えば、高みの見物をしていた男が空から降りてきて、言葉を発した。


「いやーお見事でした。まさか全滅させられるとは思ってもいませんでしたよ。」

「はっ!だったら帰ってくれてもいいんだぜ。」

「くく。兵隊を全滅させられて、手ぶらで帰ったら私が魔王様に怒られてしまいますよ。」


  チッ、やっぱ戦わないとだめか…問題はコイツなんだよな……。今のうちにステータスの確認だけしとくか。

────────────────────

山本 凪 17歳 レベル52 人族

HP 320/320 MP 230/300

攻撃  124+125

防御  109+125

素早さ 113+50

運   70

侵食度 47%

スキル 精霊召喚、精霊武装

    -神楽-蒼波-美蕾


    

称号  世界を壊す者

────────────────────


 かなりレベル上がったな……精霊も増えた。それでもアイツには全然勝てそうにねぇけど、どうするか……


  凪は心とは裏腹に余裕な態度を見せた。


「はん!そんなの俺の知った事じゃねぇけどな!」

「それもそうですね、ですがこちらも怒られるのは嫌なので、連れて帰らせて頂きますよ。あ、そうそう言い忘れていましたが、私は゛ヴァンス ゛と申します。以後お見知りおきを。」

「てめぇはここで俺が殺すから以後はねぇよ!来い。美蕾みらい


  凪はそう言うと新しい精霊の名前を呼んだ。すると目の前に胸辺りまである淡い黄色の髪に淡藤色の眼をした女が現れた。


「旦那様。わたくしをお呼びでしょうか。」

「美蕾、悪いんだがすぐに武装化してくれ。」

「承知致しました。」


  右手を差し出してくる美蕾。


 凪はその右手を手に取り手の甲へとキスをした。

 

  美蕾は光の粒子となり、凪の足元へと集まっていき、ブーツへと変化していく。


  これはブーツか…?いやどちらかと言えばグリーブか。足にだけ豪華な鎧をつけている感じだ。


  グリーブは常にバチバチと電気を帯びており、浮いているかの様に身体が軽くなった。


  凪はステータスへと視線を向ける。

────────────────────

山本 凪 17歳 レベル52 人族

HP 320/320 MP 230/300

攻撃  124+125

防御  109+125

素早さ 113+200

運   70

侵食度 47%

スキル 精霊召喚、精霊武装

    -神楽-蒼波-星雷


    

称号  世界を壊す者

────────────────────

  よし、素早さに補正が入ってるな。今の速度ならやれなくはないはずだ。


  凪は魔力を解放する。


「行くぞ!ヴァンス!!」

「いつでもどうぞ。」


  腰を低くし、刀を肩に置き左手を前に構える。


「しっ!」


  凪が地面を蹴り上げると、まさに疾風迅雷の如くとでも言うかのようにヴァンスの間合いへと一瞬で距離を詰めた。

 

  ヴァンスは凪の速度に追いつけておらず、ただ立ち尽くしており、「行ける」と凪は肩に乗せていた刀を斜めに振り下ろした。


 スパン!とヴァンスの身体は軽々と真っ二つなるが………凪は違和感を感じた。


 斬った感触もあった。そしてなにより目の前には肩から足にかけて真っ二つになったヴァンスがいる。にも関わらず危険信号は鳴りっぱなしだ。


  次の瞬間、真っ二つのヴァンスから声が聞こえてきて、凪はうしろへと飛び退いた。


「ふ、ふふ。素晴らしいッ!!」


 ッ…!?


「なぜ生きてる!!」

「なぜ?と言われましても。私は斬られたぐらいでは死にません。」

「なん、だと…!?」


 ヴァンスの身体は徐々にくっ付いていき、斬られる前の姿へと戻っていった。


 違和感の正体はこれだ。ヴァンスは凪の攻撃を避けられなかった訳では無い。そもそも避ける必要がなかったのだ。それ程までに凪とヴァンスの間には力の差があった。


「いやはや、これなら魔王様も満足していただけるでしょう。少々手荒ですが、そろそろお時間になりますので。」


゛闇の一閃 ゛

  ヴァンスがスキルを唱え手を横に払った。すると漆黒の刃が現れ、それは凪へと一直線に飛んで行った。


  凪はそれを掻き消そうと左手を前に出す……が


゛ダメッ!!ご主人様!゛


  蒼波から急に声がかかり、慌てて横に飛び退いたがお腹の辺りを掠めてしまい、苦痛で顔を歪める。


「ふふ。賢明ですね。避けてなければ今頃、貴方の身体は真っ二つでした。危ない危ない。危うく殺してしまう所でした。」


  ヴァンスは大切な玩具を壊してしまう所だったと言わんばかりの表情をしていた。


  チッ。コイツ…楽しんでやがる。


「まだまだ行きますよ。゛冥闇ゼラキエル゛」


  休む暇なくヴァンスがスキルを唱える。その瞬間、辺り一帯が闇の霧で覆われた。


 ッ……!?

「くそっ。どうなってやがる!」


  視界を奪われ混乱していると、どこからともなくヴァンスの拳が飛んできて凪の顔面を捉える。


「ぐっ…!」

「その程度ですか?抵抗しないと死んでしまいますよ。」

「うらぁぁぁぁあ!!」


  凪は刀を四方へと振り回し、炎の斬撃を飛ばし続けた。


「くくッ。闇雲に撃っても当たりませんよ?」


゛旦那様。一度引きましょう。゛


  美蕾にそう促され、地面を蹴り上げ、霧がない所まで一瞬で移動し、そのまま撤退の体制をとった。


「逃しませんよ゛幻影ビジョン゛。」

 

  霧が晴れたと思えば今度は目の前に無数のゴブリンキングが現れる。


 ッ…!?

「クソガァぁぁぁぁあー!!!」


  拳、肘打ち、蹴り、そして斬撃。すべてがかさなり狂える波となりゴブリンキングへと襲いかかる。


 しかし倒したと思えば新しいのが湧き出てくる。


「どんだけいやがるんだ…」

゛凪様。MPが少なくなってきています、私を解除して下さい。゛


「チッ。一旦戻れ。」


  そう言うと刀から人型へと姿を変えゴブリンキングを焼き殺していく。


「いやー頑張りますね。ですがそろそろ時間なので、お開きにしましょうか。゛闇の一閃 ゛」


  膨大な数の漆黒の刃が凪と神楽を斬り裂いていく。


「くそっ、強すぎる…」


  凪の体力は限界を迎えていた。


「死なない程度には手加減しますが…耐えてくださいね。」


 ヴァンスがそう言うと無数にも思える斬撃と猛打が凪へと襲いかかった。


「ガハッ。」



  血反吐を吐くと同時に視界が霧がかったようにぼやけてくる。


  また負けるのか…ごめんな、あ、ずさ…

 

  と、ここで凪の意識は途切れた。



「やっと倒れましたか。少々手間取りましたが、このまま連れて行くとしましょう。」


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