─銀髪の少女─
「俺は死んだ、のか?身体は…動くな。」
凪は気が付けば辺りになにもない場所にいた。正確に言えばなにもない場所に椅子が一つだけポツンと置いてあり、そこに少女が座って居る。だろうか。
銀色の髪。緋色の眼。恐ろしい程に整った顔。
人の形をしてるのに、そのはずなのに、自分と同じ存在に思えない。根本的に中身が違うのだ。
彼女は人ではないのだから……。
そして凪はこの少女と面識がある。一度目は夢、二度は学校、そして今。
凪が少女に視線を向けると、少女はゆっくりと口を開いた。
……まったく。我が主様は何回負ければ気が済むんだい?
少女は言葉を続ける。
……私の眷族を呼んでおいて、あの程度に負けるようでは困るのだけどね。
少女はやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
「チッ。好きで負けてるわけじゃねぇよ。そもそもてめぇは誰だ?」
……ふむ。まず私の名前は ゛ネーヴェ ゛。眷族達からは女王と呼ばれている存在だね。そしてここは、主様の精神世界だよ。あぁ、安心してくれ。此処では時間の概念がない。主様も生きているよ。
「そんな精霊のトップが俺になんの用だ。そもそもなぜ俺に手を貸す?」
……用と言う程でもないんだが、気絶してる今なら呼べると思ってね。…なぜ?か。ふふ、愚問だね。そんなの私が君を愛しているから。以外に理由はないと思うがね。
少女はそう言うと凪へと両手を差し出してきた。
触れられる距離では無い為そのまま両手を戻すが、距離次第では抱きしめられていたのだろう。
「俺はお前…ネーヴェに愛される覚えがねぇんだが」
……ふむ。一理あるね。強いて言うならば唯一私と契約できる器を持つ者だからかな。三月では私を呼ぶ事ができなかったからね。
「ッ…!?母さんの事を知っているのか!!」
……当たり前だろう。三月にスキルを与えたのは私だ。彼女は精霊達に愛される存在だったよ。
しかし、私を呼べる程の器ではなかった……
ネーヴェは悔しそうな顔をし、表情から感情が抜けていく。
……凪。君が生まれた時、私は抱く事も、撫でてやる事もできなかった。声すらも届かない。
三月が死ぬ時だってそうだ。私はなんて役立たずなんだと、自分を呪ったよ。女王なんて肩書きは捨てて今すぐそこに行きたいと、何度願った事か…だけどその願いが叶う事はなかった。
その時に思ったのさ、世界を壊してしまおうと。精霊にこれ程愛されるこの子でもダメなんだと。
私を呼べる者など誰もいない。私なんて元からいないのではないかと思わせるこの世界を。
ネーヴェは椅子から立ち上がりゆっくりと凪へと歩みをを進めた。
……最初は誰でもよかった。世界を憎み、壊したいと思っていて、私を呼べる器を持つ者なら…
ネーヴェは凪の目の前まで来ると、愛おしそうに目を糸のように細め、凪の身体を抱きしめ話を続けた。
……そして見つけたのが凪。君だ。一目見てわかったよ、あぁ、この子は三月の子供だってね。
あの時どれだけ願っても叶わなかった。それが今なら叶う。叶える事ができるのだと。
だから決めたのさ、今度こそは必ず守ってみせると。
ネーヴェは凪を抱きしめるのを辞め、一歩距離を取ると先程とは打って変わり、何かを問いたげな強い眼差しへと変わる。
……世界を救いたいと願うなら─ 私が救おう。
……世界を壊したいと願うなら─ 私が壊そう。
……山本 凪。 君はなにを望む。
ネーヴェはそう言うと手を凪へと差し出した。
「世界を壊す。いや、違うな。
愛する人全てを守る力が欲しい。」
……それが、君の願いか。
凪は恭しく片膝をつき、ネーヴェの手をそっと取り
「あぁ。俺に力を貸してくれ。ネーヴェ!」
手の甲へとキスをする。
……仰せのままに。我が愛しの主様。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、どうやって持ち帰りましょう……。」
ヴァンスが気を失った凪をどうやって運ぼうか悩んでいると眩い光がヴァンスを包み込んだ。
気を失って居たはずの凪が立ち上がり右手の辺りから光を発しているのだ。
「はあ。しぶといですね。いい加減にしてほしいのですがね。」
「悪いな。あんまり負けてばっかだと見放されちまうんでな。」
「まぁいいでしょう。ッ……!?そ、それはなんだ!!」
ヴァンスが突然焦りだし凪は右手に視線を向けた。
そこには拳銃を巨大化したような柄に分厚く長い刃を取り付けた剣のような物があった。
全体的に白を基調とし、刀身に緋色の縁取りがされておりスポーティな雰囲気を醸し出している。シリンダー部分はクラシックな作りで刃は銀色である。
なんだこれ…どこか神聖さを感じる。
゛主様よ、これが私の本来の姿さ。眷族は一度回収させて貰ったよ。30秒だ。それ以上は今の主様では維持できん。゛
身体が軽い、力が溢れてくる。
ステータス!
────────────────────
山本 凪 17歳 レベル52 人族
HP 110/320 MP 140/300
攻撃 124+1000
防御 109+1000
素早さ 113+1000
運 70
侵食度 47%
スキル 精霊召喚、精霊武装
-神楽-蒼波-星雷-ネーヴェ
称号 世界を壊す者
────────────────────
「は、はは。これは…すごいな。」
グッと拳をにぎり、ヴァンスに剣を向ける。
「ッ…!?忌々しい…その力は魔王様に脅威となるかもしれません。ここで殺す事にしましょう。゛闇の一閃 ゛」
「ふっ!」
ヴァンスが手を振り挙げると同時に凪はネーヴェを横に薙ぎ払った。
ヴァンスからは漆黒の刃が、凪からは光の刃が飛び交った。
゛言い忘れてたけど、私から放たれる斬撃、銃撃により傷をおった場合、そこから腐食するからね ゛
え……。
お互いの刃がぶつかり、激しい音と共にヴァンスの刃を破壊し、光の刃は勢いを殺すことなくヴァンスの身体を斬り裂いた。
「くっ…!?私の斬撃を凌駕するとは…ですが私は斬られたぐらいで………ぐはっ…なんだこれは。身体が、腐って……いく…」
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
……
……
凪が唖然としていると、右手から剣が消え、人型のネーヴェたちが現れる。
「女王よ。凪様を助けて下さりありがとうございました。」
神楽、蒼波、美蕾はそれぞれ膝を尽き頭を垂れた。
「あぁ、構わないよ。しかし、あの程度も倒せないようでは困るね。仮にも私の眷族ともあろう存在が、主様に苦労をかけないでくれるかい?」
「「「申し訳ありません。」」」
銀髪の少女へと頭を垂れ謝罪する大人3人。凪は異様な光景を前に言葉を失った……
しばらくその光景を眺めていたがネーヴェのお説教が終わりそうにないので、しぶしぶ声をかけた。
「ネーヴェ。みんなが居なければ俺はとっくに死んでたし、あんまり怒らないであげて。」
「ふむ。主様が言うならば今回は良しとしようかね。」
どうやら凪が声を掛けた事でお説教は終了したらしい。その後、神楽たちは凪へと謝罪をしてくるが、気にしなくていいと。頭をあげさせた。
「そういやこの前普通のマスケット銃じゃなかった?」
「あぁ。あれは私だけだったからね。」
「ん?どうゆう事だ?」
「そもそも精霊は私の子供でもあるが、私の力を具現化した形でもある。要するに精霊たちは皆が私の分身体みたいなものなのだよ。最も性格は皆ちがうようだがね。」
ようするに一人の時は最低限の力しか出せないって事みたいだ。フルパワーの時は確かに強いが燃費が悪すぎて乱用はできないな…
「さて、主様よこれからどうするんだい?」
「そうだな…まずは梓を探して合流しよう。ヴァンスを倒した事で別の奴がくる可能性もあるからすぐにでも移動したい。」
「ヴァンスの魔石はちゃんと拾って行く事をおすすめするよ。」
ネーヴェにそう言われ、凪はヴァンスが倒れた辺りを探す。すると拳ぐらいの大きさの魔石が落ちていた。
「あれでも一応魔族だしね、食べればスキルの一つでも手に入るかも知れないよ。」
「へぇ、そんな事もあるのか。気が向いたら食べてみるよ。」
~~~~~~
凪たちは一度建物の中へと戻り一階から三階まで見回りをし、誰も居ない事を確認した。
「よし、みんな一応避難できたみたいだな。」
「凪様。あちらにこんな物が…」
神楽がどこからか、置き手紙を見つけてくると凪へと渡した。封を開き中を確認すると、新宿に向かうとだけメッセージが書いてあった。
「みんな新宿に向かったみたいだけど、ここからどのぐらい掛かるんだ?」
「凪様。ナビによると徒歩で1時間半程かかるみたいですよ。」
なんか俺よりスマホ使いこなしてねぇか…そもそもいつの間に俺のスマホを…
「かなり、遠いじゃん……車とかあればいいんだけど。」
「私たち武装化したら30分も掛からないのではないかい?」
「確かに……じゃあみんなよろしく!」
~~~~~~
ネーヴェの言う通り武装化をして、走ったら30分も掛からなかった。
ここが新宿か……初めて来たな。こんな状態でなければ楽しめるんだけどなぁ。
さてと、梓を探すにしても何処に居るのかまでは書いてなかったしな…適当にウロウロするか。
ヴーーーガルゥゥア!!
「よっと。」
ハイウルフが牙を剥き出しに凪へと襲いかかって来た所をギリギリで避け、そのまま蹴りをお見舞いしてやると、一瞬で灰になる。
「ここには犬型の魔物も居るのか。」
「さすがに主様の敵ではないようだね。」
「わたくしも旦那様のお役に立って見せましょう!゛万雷 ゛」
美蕾のスキルで周辺一帯に雷を落とし、魔物を一掃して先を進む。
魔物を倒しながら進んでいると、少し離れた所から激しい爆発音らしきものが聞こえてきた。
「あー見つけたわこれ。」「凪様。あれ絶対、梓様です。」
爆発音が聞こえた拍子に凪と神楽の声が重なった。どうやらお互いに同じ事を思ったようだ。
「自重って言葉をしらないようだ……」
凪は長い溜息をつきながら爆発音が聞こえる方へと歩みを進めるのだった。
~~~~~~
ここまで読んでいただきありがとうございます!
処女作になりますので、暖かい目で読んでいただけると嬉しいです!
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