─オークジェネラル─
「神楽連れてくるの忘れた…」
廊下を歩いてると、ふと違和感を感じた。
なんだ?と思えば、神楽がいないのだ。最近ずっと一緒に過ごしたせいか、いないと違和感であった。
「よっ、と。」
バリケードに空いた穴をくぐり、階段を降りて二階の踊り場で様子を確かめる。
「さて、どうするか…見える範囲にはなにも居ないな。」
少しだけ身を乗り出し様子を確認するが、やはり物音一つしない。
「…オーク共はどこに行った?」
「こんな所に隠れてなにしてるの?」
「ッ………!?」
突然背後から声が掛かり、思わず叫びそうになる。
……なんでここに居るんだこの人。
「なにをしてるんですか?先輩……」
「え?後輩くんが教室出て行ったから、どこ行くのかなぁ?って思って着いてきた。」
全然気がつかなかったぞ……忍者かなにかかよ。
「俺はこれから二階を探索するので、先輩は帰ってください。」
「後輩くんは神楽ちゃん居なくても戦えるの??」
「……戦えなくはないかと。」
「ふーん。……じゃあアタシがついていってあげる!」
はぁ。
凪は半ば諦めたように長い溜息を吐いた。
「邪魔はしないで下さいね!」
「ちょ、邪魔ってなによー!お姉さんと一緒に居た方が安全でしょーよ!」
「……あーはいはい。助かります。」
「なんで投げやりなのよォ!!」
先輩は頬を膨らまし、ポカポカ。と凪の背中を叩いていた。
「ちょッ!先輩声でかいっす!」
「あ、ごめん…」
慌てて手を口元に持っていったかと思えば両手を合わせごめんなさいのポーズをしていた。
「じゃあ行きますよ!危ないので俺の傍から離れないで下さいね。」
「ひゃー後輩くんた、の、も、し、い!」
先輩はツンツンと凪の脇腹を小突きつつ、楽しそうに凪のあとを追いかけた。
「やっぱりなにもいない…?一部屋ずつ慎重に見ていこう」
「なんもいないねぇ?後輩くんが来る前まではいっぱい居たんだよ?」
一組から順に二組、三組とドアの小窓から中を覗きながら進んで行く。
凪は小声で言った。
「止まれ。」
「どうしたの??」
「中…見てみろ。」
先輩の前に手を出し止まれの合図をし、ちょいちょいと手招きをし、四組の教室内をドアの小窓から覗かせる。
「ちょ、なにあれ?やばくない?」
「オーク…の上位種。って所だろうな。」
凪たちが目にしたのは、普通のオークを殺し、魔石を食べている巨大な存在だった。
その姿は圧倒的で、恐ろしいほどの力を感じさせる。
「後輩くん、あれ倒せる…?」
「いや…俺一人だと多分厳しい。」
どうする……あれはやばそうだ。魔力全開にしてどれだけやれるかだが…はたして俺と先輩の二人で勝てるか?
「ねぇ、あれ成長してるの?」
「あぁ…そうみたいだ。これ以上成長されるとマジで手に負えないかも知れない。」
「どうする?今ならまだバレてないから先制攻撃できるよ?」
「いや、凛鳴を呼びに行こう。」
凛鳴にスキルで結界を張ってもらいながら、俺が攻撃する感じなら、なんとかなるかもしれない。
「オッケー!じゃあ一旦戻ろう…きゃッ!!」
先輩はドアの小窓から視線を切り、くるっと身体を戻そうとし、そのまま転んでしまう。
「やっば…!!」
「ブガァァ゛ア゛ア゛ア゛!!!」
先輩が転けた時の物音に反応し、耳を塞ぎたくなるほどの声で叫びながらこちらに駆けてきた。
「走れぇぇ!!!」
先輩の腕を掴み無理やり起き上がらせる。
「神楽ァァ!!」
廊下を走りながら神楽を呼んだ。
「凪様。どぉしま…ッ…!?ジェネラル…」
「はぁはぁ。ジェネラルってなんだ!!」
「あれはオークジェネラル。オークなんて比にならないくらいの化物です」
チッ。 さっきですらギリギリだってのに、格上だと?ふざけんな!
凪は足を止め神楽へと指示を出した。
「神楽!燃やせ。先輩は俺の後ろに。」
凪が神楽に指示を出すと、神楽はオークジェネラルに向かって手をかざした。すると── ボッッ。という音と共にオークジェネラルの身体から火柱があがった。
先程オークと戦った時より威力が上がっていた。おそらくレベルアップの効果なのだろう。
「先輩!奴が怯んでいる今の内に凛鳴を呼んで来てください!結界がないときつい」
「でも、後輩くん一人になっちゃう!」
先輩は不満そうに眉間に皺をよせた。
「来るまで保たせます!此処で逃げたら間違いなく三階に被害がでる!」
唇を噛み締め、少し悩んだかと思えば、よしっ!っと気持ちを切り替えたのか返事が返ってくる。
「…わかった!」
先輩から視線を外したその時、不意に頬の辺りに柔らかい感触と共にチュッ、と音がして思わず振り向いた。
「んなッ…!?」
「おまじない。だよ!」
先輩は頬を赤く染めつつ一言だけ言い残し三階に走って行った…
凪は頬をポリポリと少し照れており、その様子を横目に神楽が声を掛けた。
「……凪様。」
「……。ッたく。やりますか。── 神楽!」
「ふが、フガ。プギィィア゛ア゛」
ふっ。焼かれたから怒ってやがるな。 とりあえず四割ぐらいでいいか。どこまでやれるかわからんが…
「来いよ。クソ豚野郎!!」
刀をオークジェネラルに向け対峙する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アタシは必死に走った。人生で初めての全速力と言って言い程に。
「 ひゃーキスしちゃった……」
正直すごく恥ずかしい……顔が真っ赤になっているのが鏡を見なくてもわかるぐらい熱くなっていた。
なんでそんな事をしたのかなんて正直自分でもわからない。ただ死んでほしくないなぁ。って思って気が付けばしていた。
「凛鳴ちゃーーん!!」
「先輩どうかしました?とゆうか何処行ってたんですかー?なんか神楽さんも急に消えちゃって。」
凛鳴はなにが起きてるかなど露知らず小首をかしげていた。
「とりあえず一緒に来て!」
有無を言わさず手を引き教室を出ようとする。
「おっ!委員長はっけーん!」
「ボインちゃんもいるじゃん!ラッキー」
が、タイミングが悪く荒木達と鉢合わせをした。
梓はなんでこんな忙しい時に。と、少し苛立ちをみせる。
「何か用?今忙しいんだけど。そこ邪魔。」
手で荒木の身体を押しのけようとするが、びくともしない。逆に、荒木に腕を掴まれてしまった。
「おぅおぅ、威勢いいねぇ!邪魔はこっちのセリフだっ!」
「かはッ……!?」
荒木に強く蹴られ、身体が窓際まで飛ばされる。机や椅子がバタンと倒れ、教室中が騒がしくなる。
「梓先輩ッ!!ちょっと!女の子蹴るなんて何考えてるのよ!」
「俺は委員長以外に興味ねぇーんだわ。」
荒木はニヤニヤしながら凛鳴に近づいていく。
「えいっ!!」
「はっ!しゃらくせぇ。砕拳!!」
凛鳴が手を前に出し、スキルを発動するが、荒木のがレベルが高いのか、結界が一瞬で壊されてしまう。
「う、そ…」
「クックク…クハハハハ!それだよそれ!!その顔を見たかったんだよ!」
凛鳴は自分のスキルがいとも簡単に壊され、顔を歪ませていた。
「どうしようどうしよう…こんな事してる場合じゃないのに!!このままじゃ後輩くんが死んじゃう…」
梓は焦りと責任感に苛まれながら、呟いた。
「はいはい、ボインちゃんの相手は俺ですよー!!」
取り巻きの一人が身体に触れようとした。しかし、梓は激しく抵抗し「やめて…触るな!!」と、叫んだ。手で払おうとしたが、先ほど蹴られたせいで上手く身体に力が入らない。その時、梓の心には怒りと焦りが生まれた。
「てゆうか普通女の子の事本気で蹴る…!?まじでありえない…」と梓は思わず呟く。
「ほんといい身体してやがるぜ」
男は下品な表情を浮かべ、再度胸へと手を伸ばした。
「アタシの身体はそんな安くない!!」
男の顔に向かってツバを吐き、少しでも抵抗しようとした直後。
バチンッ!!と。
梓の頬は激しく殴られ、赤みをおびていった。その痛みは心にも深く刻まれ、涙が頬を伝って流れ落ちた。
「チッ!鬱陶しいな、おい、あれを使え!」
シューーーー。
取り巻き達は口と鼻をバンダナで覆いながら、スプレー缶を取り出し周辺へと撒き始めた。
あれ…なん、だろう、すごく眠……い。
「ギャハハ!おっ効いてきたか!はい、おやすみー!」
「後輩く、ん。た、すけ…て。」
そのまま彼女は電源が切れたかのように意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます