─世界改変により世界が変わる─スキル「精霊召喚」で無双する

まめだいふく

─世界改変─





── 俺はこの日久しぶりに夢を見た。



 ︎︎真っ白な部屋。目の前には場の雰囲気に合わなそうな、アンティーク調の椅子がぽつんと一脚。それ以外にはなにもない。


 ︎︎そして、その椅子に腰を掛けた一人の少女。



── 銀色にきらめく長い髪。

── 双眸そうぼう緋色ひいろに輝き。

── 整った鼻梁びりょう

── ぷっくりとした唇。



 ︎︎それら全てが完璧なバランスで配置されていた。


 ︎︎どこか異様な雰囲気を醸し出しており、見た目は人だが、人ではないのだろうと思わせる。 そんな少女だ。



 ︎︎少女と視線が絡むと彼女はゆっくりと口を動かした。



 ︎︎……君はこの世界が憎いかい?



「あぁ、憎いね。」



 ︎︎……壊してしまいたいと思うかい?



「もちろん。そう思うね。 」



 ︎︎……ふふっそれでは私が力を貸してやろう。




 ︎︎意識が朦朧もうろうとしている── それもそのはず。これは夢なのだから。


 ︎︎少女の燃えるような緋色の双眸に目を奪われる。




 ︎︎……私の事が気になるかい?



「声に出したつもりはないが。 」



 ︎︎……声に出さなくてもわかるさ。私と君は心が繋がっているからね。



 ︎︎繋がっている?意味がわからない。



 ︎︎……そぅ慌てなくてもすぐにわかるさ── そろそろお目覚めの時間だね。会える日を楽しみにしているよ。





 ︎︎意識が完全に途絶える寸前。

 ︎︎ささやくような少女の言葉を聞いた。





 ︎︎───愛しの我が主様…


   




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ︎︎ジリっじィジジリィジリィっぃぃぃ





 ︎︎暗い部屋の中に、明るい光が平たい板のような形に射し込んできている。雨戸の隙間から射す朝の光だ。



 ︎︎それと同時に独特なテンポで音を鳴らす目覚まし時計が部屋全体に響き渡る。


 ︎︎そんな独特なテンポが俺を夢の中から引っ張り出した。



「ん…あ…うるさ……これもさすがに買い替えるか。」



 ︎︎なぜ、スマホのアラームにしないかって?なんだかんだで気に入ってるからだ。



 ︎︎ベッドから重たい腰を上げ、雨戸を開けた。


 ︎︎その瞬間薄暗い部屋が朝日によって照らされ思わず目をすがめた。



 ︎︎少しシワの入った着慣れた制服へと袖を通し学校へ向かう準備をする。


 ︎︎一般的な家庭なら香ばしいパンの匂いや、コーヒーの香りなどがしてくる時間帯であろう。そんなものは家族が居ればの話だ。一人暮らしの俺にとっては無縁の話である。



 ︎︎トーストにパンをセットし、コーヒーポットの電源を入れたら準備完了だ。



 ︎︎待っている間に俺の話でもしようか。


 ︎︎俺の名前は山本 凪やまもと なぎ。東京にあるごく一般的な高校に通う男子高校生だ。身長は170センチくらいで、体重は50キロ。髪は少し茶色味のかかった黒。目が少し隠れるくらいの長さでセットなどはしていない。


 ︎︎目つきが悪いからこのぐらいの長さにして目立たないようにしている。



 ︎︎えーと、朝はパン派!


 ︎︎親はいない。…なぜって?小さい頃に捨てられた。


 ︎︎母方の祖父に引き取られたんだが、引き取ってすぐに祖父も死んじゃってな、残ったのは金と家だけ。


 ︎︎理不尽だよな。親に捨てられ、その上たった一人の身内さえもすぐに居なくなってしまうなんて。正直世界なんて滅びてしまえばいいとも思う。



 ︎︎とまぁ、自己紹介はこのぐらいにしておこうか。




 ︎︎トースターからチン。と音がなり、コーヒーポットがブクブクと音を立て、ほろ苦い香りが部屋全体を包み込んだ。



~~~~~~




 ︎︎玄関で靴を履き「行ってきます」と、返事のないセリフを口に出し家を出た。


 ︎︎学校に着き、校門を潜り、上履きに履き替え、二階にある自分の教室へと向かう。


 ︎︎クラスは全部で5クラスあり俺は1組だ。


 ︎︎階段を登った先にあるのが俺のクラス。席はテンプレのような窓際。



 ︎︎「おはよう」などと挨拶してくる人はいない。例外はあるが……




「よぉ!やまもとぉ、今日も元気か?」

「「「ギャハハハ」」」



 ︎︎ポンポン。と頭を叩きながら声を掛けてきたのは、俺をいじめてる主犯格。


 ︎︎名前は荒木 修二あらき しゅうじ。髪を真っ赤に染めていて、口と耳にこれでもかとピアスを付けている。ひと言で言えば不良。


 ︎︎そして、品の無い笑い方をしてるのが、その取り巻きたちである。


「おい!シカトしてんじゃねぇよ!!」


 ︎︎荒木は声を荒げ、凪の机を蹴りあげる。その拍子に教科書などが引き出しから床に落ちていくが、いつもの事なのであまり気にしてはいない。



「修二が挨拶してんだから返事ぐらいしろや」

「ち……っ。朝から元気だな荒木」


と、面倒くさそうに、返事をすると荒木が言った。


「何舌打ちしてんだよ!荒木様だろうがっ!てめぇみてぇなクズはさっさと死んじまえ」

「ギャハハ、修二くんまじやべぇわ」


 ︎︎机のだけでは飽き足らず、今度は座っている椅子を蹴り始めるとその拍子に椅子から落ち、床に転がる。

 ︎︎そして、床に転がった凪は、為す術べなく荒木に殴る蹴るの暴力を浴びせられた。



 ︎︎なんで俺がこんな目にあってるかって?きっかけはほんと些細な事だった──



 ︎︎入学式の初日。校内を歩いている時に不良とたまたま目が合った。それが荒木だった。ホントそれだけだ。



「てめぇなに睨んでんだよ。」

「睨んでねーよ、生まれ付き目付きが悪いんだ。」



 ︎︎と……。全てはここから始まった。



 ︎︎その程度の事で?と思うだろう?

 ︎︎俺もそう思う。学生なんてその程度の理由があれば充分なんだろう。



 ︎︎クソ野郎。と心の中で悪態を吐きながら身体を丸めて荒木達が満足するのを待つ。


 ︎︎反撃はしない。一度反撃した事があるんだが、その時はボロクソにぶっ飛ばされた事がある。


 ︎︎あとから聞いた話によれば、昔、格闘技を齧っていたらしい。


 ︎︎道理で痛いはずだ。そうゆうのは早く教えといて欲しいね……。



 ︎︎もはや見慣れた光景なのだろう。クラスの連中は相変わらず知らぬ存ぜぬだ。なんならこちらを見て笑ってる奴すらいる─── 1人を除いて。



「こぉらー!!また貴方達ね、いい加減にしなさい。」



 ︎︎彼女の名前は瀬戸 凛鳴せと りんな。このクラスの委員長だ。


 ︎︎荒木が俺をいじめ始めると現れるという不思議な女の子である。


 ︎︎見た目?そうだな……艶のある黒くて長い髪を片方に集めて髪留めで纏めている。なんでも学年で1番可愛いとか言われてるらしい。


 ︎︎ 親が警察官らしく正義感が強く、見た目からは想像できない少しめんど…いや、真面目な女の子である。



「ちっ!瀬戸が来やがった。行くぞお前ら」



 ︎︎いつも唐突に現れる瀬戸に対しては、さすがの荒木もめんどくさいのか、取り巻きたちに声を掛け早々と去っていく。



 ︎︎委員長は心配そうに、両膝を折り言った。


「凪なぎくん大丈夫?また来たらちゃんと言ってね。」

「あぁ、悪いないつも」


 ︎︎なぜ学年1可愛い子が助けてくれて、その上名前で呼ばれてるのか?そんな事は知らん。



「んーん。これもクラス委員の務めだから」

「そうか。」



 ︎︎短い会話を終わらせると。瀬戸は俺から視線を切り、クラスメイト達に挨拶をしながら自分の席に戻って行った。



 ︎︎ 瀬戸が自分の席に戻ると、クラスメイト達の視線が無くなり、急激に睡魔に襲われる。




 ︎︎冒頭の部分がなければ平和な学校生活なんだけどな……。



 ︎︎そんな事を考えながら頭を伏せ。惰眠にはいる──





 ︎︎─── ガタガタガタガタガタガタ………



 ︎︎ブワッブワッ─地震です。 ブワッブワッ─地震です。


 ︎︎クラス中に嫌な警告音が鳴り響いた。



 ︎︎ドンッ!!と床の辺りから突き上げてくる揺れが起こり、その瞬間、大きな縦揺れが始まった。


「「「キャーーー」」」

「おい、やばいぞ」


 ︎︎クラス中?いや学校中か、悲鳴に似た叫び声が無数に聞こえてくる。


 ︎︎ガチャーン、パリン。と棚の上に置いてあったものは床に落下し、掃除道具が入ったロッカーは倒れ、窓ガラスが割れる音が響き渡った。


「みんな机の下に隠れて!」


 ︎︎1人冷静に指示をしているのは、瀬戸。彼女はいつも冷静だ。取り乱している所を見た事がない。


 ︎︎ともあれ、俺も机の下に隠れ揺れが落ち着くのを待つとしよう。




 ︎︎どのくらい隠れていただろうか。揺れが落ち着いたみたいだ。


 ︎︎立ち上がって周囲を確認するが、まだ地震が続いてるかのように感覚が残っていて、気持ち悪い。


 ︎︎スマホの着信音が鳴り響き、電話をする者、啜り泣く者、窓から外を見る者、散らかった物を片付けてる者が目に入る。



 ︎︎俺は………特にする事ないな。帰るか



 ︎︎電話をする相手もいない俺はクラスの奴らを横目に教室を出て早々に昇降口に向かう。



 ︎︎ 勝手に帰ってもいいのかって?


 ︎︎もちろん駄目だろうが、俺が居なくなった所で誰も気づかないであろう。



 ︎︎ 凪は一人そそくさと教室を出ていくのであった。




~~~~~~




 ︎︎昇降口を出ると外は夜のように暗かった。まだ昼間なのにも関わらずだ。


 ︎︎ そして空を見上げれば紋章みたいなものが空一面に浮かび上がっていた。


「……なんだ、あれ…。」


 ︎︎ 空を見上げていると、突然、紋章が光を発し始め思わず目を瞑った。


 ︎︎ ほんの数秒だ。数秒目を瞑っていただけなのに、目を開いた時には得体の知れない何か。がそこにいた。


 ︎︎ッ………!?


 ︎︎ 額から伸びる禍々しい角と、背から生えた一対の羽。まさに御伽話に出てくるような姿の何かであった。


 ︎︎ その場に立っているだけでピリピリとした感覚が肌から伝わってくる。


 ︎︎そして、辺りは不気味なくらいに静寂に支配されており、恐らく世界中で見えているだろう何かに固唾を呑んだ。



 ︎︎そしてその何かはゆっくりと口を開いた。





「この世界は選ばれた。我々の楽園へと招待しよう」





 ︎︎そう言い放つと先程同様に光を発した。再度目を瞑るが、目を開ければそこには何もいなかった。


 ︎︎ 凪は唖然として立ち尽くす。


 ︎︎言葉が出ないとはまさにこの事だろう──





 ︎︎ 静寂に支配されている中、それは唐突に訪れた。


「はっ!は、はは、ははは」


 ︎︎ 凪が壊れた人形のように笑い出したのである。


「ははは、は、はぁ。最高の気分だ」


 ︎︎ 人が変わってしまったかのような薄気味悪い笑みを浮かべながら校舎を後にしたのだった。



~~~~~~



 ︎︎ 街の中はあまりにも悲惨な状況であった。数時間前に歩いた道とは到底思えない程だ。


 ︎︎ 道路だったであろう場所は崩れ落ち、車などは倒れた木や電柱の下敷きになっていた。


 ︎︎そして、悲鳴やらなんやらでよくわからない音が街中に響き渡り、家はほとんど倒壊。残ってるのは僅かだろう。


 ︎︎ 凪は少しでも歩けそうな場所を探し家までの帰路につく。




 ︎︎ 普段の登校時間の倍は掛かりはしたが、自宅まで帰ることができた。


 ︎︎倒壊していたらどうしようかと思ったが、家として機能しそうなぐらいは残っていた。


 ︎︎瓦礫をよけ、ぎ……と壊れそうな音を出す扉を開け、靴は脱がずにそのまま家の中に足を踏み入れる。


「電気…は使えるな」


 ︎︎ 廊下の照明を付ける為のスイッチをカチカチ。と動かし、電気系統が生きてる事に安堵しつつ廊下を歩いた。


「うわ、危な。鉄筋とか飛び出してるじゃん。」


 ︎︎家の中は物が散乱しており食器などが棚から落ちたのだろう。割れてガラスなどが散らばっていた。


 ︎︎幸い、靴を脱がずに入って来たおかげで、怪我をするのを免れたみたいだ。


 ︎︎もし、玄関で靴を脱いでいたら今頃凪の足元は血で染まっていただろう。


 ︎︎ 少し歩く度にガチャ、ガチャ、っとガラスを踏む音を響かせながら家中を散策する。


「ちっ。これじゃあ住めたもんじゃねぇな。とりあえず俺の部屋に行くか」


 ︎︎ 二階に上がり部屋の近くまで来るとガラスを踏む音とは別に壁を叩くような音が聞こえてきた。


 ︎︎ なんだ…?と、凪は恐る恐るドアを開けた。


「グギャギャ?」


 ︎︎バタン。


 ︎︎ そして、急いでドアを閉めた。



「…は!?なんだよあれ!」



 ︎︎緑色の体をした小柄な何かがいた。

 ︎︎ 平べったい顔に、尖った耳。そして口からは小さな牙が覗いていた、


 ︎︎ 混乱している凪をよそにドアの向こうからはバキッ。バリバリ。と扉を破壊しようとしている音が響き出す。


 ︎︎ 凪は急いで階段を降り、冷や汗を掻きながら台所に走り包丁を探した。


 ︎︎ バキバキッバタン!と扉が破られたであろう音と共に先程目にした緑色の生物が走ってきた。


 ︎︎ 片方の手には棍棒…なのか?太い棒切れを握っていた。


「あれってゲームとかラノベで言うゴブリンだよな…」



 ︎︎ 初めて見る架空の生物を前に少し足がすくむが、包丁を前に出し牽制しつつ会話を試みた。


「お前さっきの空に現れた奴と関係あんのか?」


 ︎︎口には出すが一歩が踏み出せない凪を横目にゴブリンは徐々に躙り寄ってくる。


「グギャグギャ」

「 ち……っ。会話ができるわけねぇか…」

「ギャーグギャ?ギャッギャ!」


 ︎︎ゴブリンは凪の周辺をウロウロ。としながら、バカにするかのように声を出していた。


「……お前、俺をバカにしてんのか?」



 ︎︎動け!ビビるな!相手はゴブリン。対して強くないはずだ…凪は自分の足を叩き奮い立たせる──





 ︎︎……君はこの世界が憎いかい?



 ︎︎……壊してしまいたいと思うかい?



 ︎︎……ふふっそれでは私が力を貸してやろう。




 ︎︎ ふと。いつの日だったか見た夢が頭に浮かんだ。



「ハハッ!そおだよ、そおだったな。俺がこの世界を………俺が世界を── ぶっ壊してやるよ!!」




 ︎︎そう叫び声を上げ、凪は身体全体から殺気を振り撒いた。






~~~~~~

ここまで読んでいただきありがとうございます!

処女作になりますので、暖かい目で読んでいただけると嬉しいです!

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