第47話 栄枯盛衰

 私を無視して、いきなり進み出したダイヤモンド・ダストに反応できなかった。



「――っ!? 待って! 話を――」



 体を動かすよりも、反射的に静止の言葉をダイヤモンド・ダストに向けて放っていた。

 しかし、今の彼女にその言葉は届くことなく――そもそも、最後まで言い切ることはできなかった。



 空気を読まない乱入者達に妨害されたからだ。



 上空から、硝子がひび割れるような音が連続で響く。鼓膜が破れそうになり、咄嗟に足を止めて、両耳を塞ぎその場に留まってしまう。



 騒音が収まるよりも先に、それまで全く感じなかった強大な魔力反応を感知し、私は慌てて周囲を見渡した。



 見上げた空には、本来存在することはありえない亀裂が無数に発生していて、そこから絶え間なく魔物達が姿を現し続けていた。



「――え? どうして――」



 思い出したくないあの時を含めて、魔物の自然発生に遭遇したことはあるが、今起きている魔物の出現とは違っていた。

 この魔物の出現の仕方は、『アクニンダン』の支配下に置かれている個体特有のものだ。



 つまり、どういう訳か『アクニンダン』は増援を送り込むことにしたらしい。

 もしかして、『アクニンダン』を治める『ボス』は、これまでの小競り合いとも呼べない戦い擬きに飽きて、『魔法庁』を壊滅させに来たのか。



 自称元仲間達で、実質的に世界の支配者である魔法少女達でさえ絵空事だと言っていた、『ボス』が魔法少女時代から口にしていたという「真なる世界平和」の実現方法が分かったから、昔からの因縁に決着でも付けにきたのか。



 考えても、考えても、今の私では答えを出すことはできない。思索に耽る時間も、余裕すらもない。



 『ボス』にどんな思惑があるにせよ、『魔法庁』の壊滅を許せば、多くの人達に迷惑がかかってしまう。

 アリサちゃんを人質にとって私に言うことを聞かせようとしたり、フランを変わった魔法を使える玩具扱いするような連中は好きではない。

 けれど、現状彼女達の存在がいきなり消えれば、世界は瞬く間に大混乱に陥ってしまう。

 それは歓迎すべきことではない。今はまだ。



 魔法封じの枷のせいで体に上手く力が入らないが、取り敢えず敵を倒さないと。

 確認できる敵は、恐らくあの時のアリサちゃんと同じように洗脳されているダイヤモンド・ダストと魔物の群れ。



 対して、今周囲で動けそうな者は私一人だけ。力を制限されているとは言っても、私は魔法少女。こんなことで、足を止める訳にはいかない。



 それにダイヤモンド・ダストを洗脳から解放してあげないと。これ以上、彼女に手を汚させては――。



 そこまで考えをまとめて、行動に移そうとした私に襲いかかる影が一つ。どこかで見たことある、黒い影のような異形が、スライム状に変形して私の体にまとわりついてきた。



「な、何、これ……!? 取れないっ!?」



 黒い影のような異形は、そのまま私の体を雁字搦めに縛り、この場から動けないようにした。もしも枷さえ嵌められていなかったら、すぐに拘束を振りほどけただろうが、今の状態ではそれも叶わない。



 それに加えて――。



「ちょっと……くすぐったいよ! そこは……ん……!」



 私の体を縛る魔物は、蛇のように肌を這いずり回り余計な刺激を与えてくる。



 こんなことをしている暇はない。そう思った瞬間に、首と右腕に嵌められた枷が効力を失ったかのように外れた。

 それを好機と見て、魔力を放出。拘束していた魔物を吹き飛ばす。耐久力がなかったのか、それが止めとなり影に似た異形は消滅した。



 余計な時間を浪費してしまった。魔物の群れは、他所の支部から応援としてやって来た魔法少女達が対処している。



 ならば、私が相手をすべき人物は一番の強敵だろうダイヤモンド・ダストだ。彼女の魔力反応が感じられる場所、先ほどまで私がいた『魔法庁』の地下に向かう。

 道中で魔物の足止めを食らいつつ、移動中に地下で強大な魔力反応がいくつも現れて消えたりしているのを感知していた。

 それに嫌な予感を抱きながら、時間をかけて私は目的地へと到着した。



 ――そこで私が見たものは、ダイヤモンド・ダスト一人に破れた傲慢な魔法少女達の惨めな姿であった。

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