第43話 『改造人間』第六号

「……本当に、その命令を受けたら私を解放してくれるの?」

「うんうん。そのつもりだよ。君をここに連れて来てから、僕が約束を破ったことがあるかい?」



 ――ダイヤモンド・ダストは、少し前のフランとの会話を思い出していた。

 彼女が抱くフランへの印象は、最悪なものであった。



 ダイヤモンド・ダストは、自分の薄れつつある記憶を振り返る限りでは、最初に出会った際の印象はそう悪いものではなかったような気がする。



 『アクニンダン』の幹部、フラン。『魔法庁』の支部を襲撃してきた彼女を捕縛せよという命令を受けて、複数人の魔法少女達によるチームを組み、行われた追撃戦。

 圧倒的な人数差を物ともせずにフランは撤退し、その作戦自体は失敗に終わっている。



 その時点では、ダイヤモンド・ダストにとってフランは、『アクニンダン』の幹部という肩書きを持ち、様々な悪事を働いているとは言っても、得られていた情報から彼女はあくまでも無理やりに言うことを聞かせられている被害者である。

 そう思っていたのだが、それは大きな勘違いであった。



 ダイヤモンド・ダストが交戦した『改造人間』第五号ウィッチに街を襲うように強制させていたのは、フランであった。

 それだけではなく、ダイヤモンド・ダスト自身を『アクニンダン』のアジトに連れ去り、手駒『改造人間』にするべく、拷問染みた『調整』を繰り返す日々。

 ダイヤモンド・ダストは肉体的にも、精神的にも疲弊――壊れかけていた。



 そして、フランは壊れていくダイヤモンド・ダストの様子を見て、心底楽しそうに笑っていた。



 その歪な笑みは、生まれ持っての狂人にしか出せない類いの表情だと、ダイヤモンド・ダストには確信できた。



 やがて無限にしか思えない責め苦の中で、ダイヤモンド・ダストはとうとう折れてしまい、フランに懇願してしまった。



 もう、この地獄から解放してほしいと。



 そのダイヤモンド・ダストの頼みは、条件付きでフランに許可を出された。

 冒頭のやり取りが、その際の会話であり、フランから提示された条件とは――。



 ――魔法少女、アマテラスへの襲撃であった。



 抹殺でもなく襲撃。別に些細な違いは、ダイヤモンド・ダストにはどうでも良かった。

 むしろ、フランが異常な執着を見せている相手を万が一殺してしまったら、その時が彼女の最期になるだろう。



 アマテラスはウィッチを殺した憎い相手でもあるが、今のダイヤモンド・ダストにとって狂人フランの傍から離れることが最優先。

 不本意ながらも、できる限り従順な態度を装い、ダイヤモンド・ダストは目標対象がいるという『魔法庁』の本部へと直行した。



(本当はあんな狂人の指示には従いたくないのに……)



 『アクニンダン』のアジトがある異空間から、現実世界に戻されたダイヤモンド・ダスト。このまま『魔法庁』に戻って、自身の生存やフランから得られた情報を報告しに行きたかったのだが――。



 今のダイヤモンド・ダストには、それが許されていなかった。彼女の肉体は、既にただの人間や魔法少女のものではなく、以前のウィッチと同様に肉体改造を施されている。

 それを為したフランの命令にも逆らえないようになっていて、余計な言動を少しでも見せれば、気紛れで残されている自我すらも塗り潰されてしまうだろう。

 そんな末路は、何としても避けたい。



(……だけど、魔法少女の私が堕ちたものね)



 そう自嘲するダイヤモンド・ダスト。

 ――『改造人間』第六号。それが、現在の彼女を示す記号名前でもあった。



「……お願いだから、早く出てきなさいよ」



 ダイヤモンド・ダストはそう小さく呟き、フランの命令に従いって、『魔法庁』本部の上空で交戦を開始した。

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