第35話 油断大敵
フランからアマテラスの情報を得た後、『ボス』は一人でその他の作業と並行しつつ、アマテラスの捕獲作戦を練っていた。
『アクニンダン』が――『ボス』の最終目標を達成する為には、どうしてもアマテラスの存在が必要不可欠になる。一回でも作戦が失敗すれば、彼女の特異性や有用性が『魔法庁』の上層部に露見して、身柄の確保が困難になる可能性が大いにある。
(いや、魔法少女を都合の良い兵器の類だと思っている、あの連中のことだ。既にアマテラスがただの魔法少女ではないことに……死者すらを蘇らせる力があることに気づいているかもしれん。
フランの『生体改造』の支配下にあった死人のウィッチを、ただの人間に戻す場面は見られている。確実に、感づいているはずだ。一刻も早く、計画を実行に映さねば――!)
少しばかり考えごとに耽っていた『ボス』は、些細な――大きな異変を感知する。
幹部達の魔法は、『ボス』が与えたものであり、彼女達が裏切ることを抑止する為の首輪でもある。その副次的な効果として、幹部達の状態を大雑把にリアルタイムに把握することもできる。
『ボス』の感覚が、幹部の一人が致命傷を負ったことを認識した。
場所は一体どこであるのか。即死か、そうではないか。他の幹部達は無事なのか。
僅か数秒にも満たない一瞬で、『ボス』の思考は回転し、大まかな状況を把握した。
(……反応場所はアジトの中だと? 舐められたものだな、儂も。……襲撃対象はフランか。アマテラスを別にしても、あいつの魔法も強力だからな。それに加えて、当の本人の戦闘能力は皆無。あいつ程に、狙い易い者もいないだろう。
……どうやって侵入したかは、侵入者に直接聞くとしよう。儂の所有物に手を出した報いは、きちんと受けてもらわないとな)
そう結論づけた『ボス』は玉座から立ち上がり、アジト内限定の転移の魔法を発動させる。
『ボス』の視界は一瞬にして切り替わり、その隙を突かれないように辺りを見渡す。
場所は転移する前に把握していた、フランの
そして、部屋の主であるフランであった。彼女は余程大きな傷を受けたのか、辺りの床一面が赤く染まる程に出血していた。
それでも即死していないのは、『ボス』が与えた魔法の力のお陰だろうか。
(……襲撃者の姿はない。逃げたのか? いや、フランの身柄が目的であるのなら、まだ近くに潜んでいる可能性もある。油断はできないな。
流石に、『調整』途中の実験体が暴走して離反した、なんてつまらないオチではないよな?)
そこまで考えて、自らに突き刺さる殺意の籠もった視線を考えれば、強ちその可能性は否定できない『ボス』。
間接的に彼らの人生を奪った『ボス』で、これだけの憎悪がぶつけられているのだ。当の本人であるフランであるなら、一回殺したぐらいではその憎悪が晴れることはないだろう。
ラボ内のカプセルに異変がない時点で、その線はないと『ボス』は判断したが。
瞬時に状況の整理が終えた『ボス』は、すぐにフランに駆け寄る。力を刻み込んだ心臓が無事であるのなら、死んでいない限り幹部を五体満足にして復活できる。
「おい、大丈夫か。フランよ。今、回復してやる――っ!?」
フランの心臓に魔力を注ぎ込もうとした『ボス』の手が止まる。フランの胸に大きな穴が空いていた。心臓が抉り取られていたのだ。
流石の『ボス』も、一瞬だけではあるが気が動転してしまう。
これでは、フランを回復させることができない。つまりは彼女の魔法が、『アクニンダン』の戦力が大きく減少することを意味する。
全面的ではないとはいえ、何れはフランが造る『改造人間』を戦力として完全に当てにしていたのだが。
悲願を目の前にして、このような状況は許容できない。
そんな焦りが、『ボス』の中で駆け巡る。
延命目的として、しばらく使うことのなかった回復魔法をフランに施しながら、彼女の心臓の在り処を探ろうと意識を集中しようとした瞬間。『ボス』は無視できない違和感を抱いた。
フランの戦闘能力が皆無なことは、『アクニンダン』では周知の事実で、『魔法庁』側もこの事実は知っている前提で、フランは普段から護衛として『改造人間』第三号――通称『シャドウ』を影に潜ませていたはず。
『シャドウ』と呼ばれる個体の強さは『ボス』も褒める程であり、それを『ボス』が駆けつけるよりも先に倒して、フランの心臓を抉り出す時間など、ほぼ無いに等しい。
『シャドウ』が暴走したのだろうか。いや、他の個体ならあり得たかもしれないが、『シャドウ』に限ってはないと『ボス』にも断言できた。
――では、この惨劇の下手人は一体誰が?
(――まさか!?)
――どすっ。
「――油断大敵ですよ? 『ボス』」
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