恋人

中田絵夢

旅行先に

お婆ちゃんがいる、少し遠くへ

旅行に行った。


家族旅行、いや、修学旅行か?

同い年くらいの数人、と、家族だった。

そのなかで一人、優しくて正義感の強い人が。その人に、胸を射抜かれた。

その人をみるとちょっと照れくさくて、どきどきしちゃって。だめだなあ、顔に出やすいんだよ、僕

その人は黒と白のジャンパーを来てた。顔はかっこいい、あ、でも、照れくさくてうまく見れないから…なんともいえないや。

名前は、…アキラ、か、アキトか、

似た名前の芸人がいた気がする、なんて可笑しなことを思ったっけ?なんで過去形、それに、好きな人の名前を忘れるってなんだ?

なんでかは、わからないけども。


なんでだったか?ふとした瞬間に手を繋いだ。暖かいかな…冷たい気もする。けれども…?

そこから、急展開で何故か恋人繋ぎ、なんで?

んー、もしかして僕のこと好きなのか?

なんて、単純明快な自分の思考がバカみたいに感じる。

恋愛脳?…チョロいんだもん、私は!

…勘違いさせてるの?あー

恥ずかしい、嬉しい、困惑とか、興奮とか色々がまざって頭パンクしそう!

で、まあ、相手にも気があったようで。

付き合うことになったね。うん。はぁー!!

夢みたいだ!!!

嘘だ!とかおもったけど、相手の目が、本当に本気の目だったから。

めを、合わせた、その顔は。

どうだったのかしら?


…あれぇ、わかんない。

でも、かっこいいことは変わらない。



そろそろ、旅行も終わる。

あっという間だった。


お土産屋さんにいこう、なんて、ずっと手を握ってくれた、他の友達たちは楽しくお土産を選んでいたね。暇だったからさ、小さい博物館のような、展覧会みたいな、そんなよくわからないキャラクターが飾られているところを見たね、意外とまじまじと見つめてたね。

楽しかった。笑顔でいてくれて、それを眺めた。

これが、幸せ、なんだろうね。



そんな、旅行だった。



なにも予定がない日、好きなことしていい日。

後、1日で、家に帰る。準備はもう、終わっていた。

私は友達と歩いてた。

大きめの、ターミナル駅とか言うんだった気がする、そんな場所で、ちょっと暇だから、と、いろんな所をみた。なんとなく適当に2つにわかれる流れになって、相手と離れちゃったんだ。あー…手を繋いでたかった。

ぎゅって抱きつきたかった。

あー、…離れないで欲しかった、離れたらきっと、なにか、悪いことが。起きてしまいそうなんだよ。

なんておもったよ。


その勘は当たった




…のだ。






聞こえた鈍い音に、反射的に目がいった

嫌な予感がした。


階段の方から、音。

そっちの方に行っていた。

アキラ…?が、落ちたんじゃないか?

怪我、したんじゃないか?骨折とか

たいじょばないだろうな

痛いし、辛いだろうな



なんて、おもって、友達なんて気にしないで、向かった

走った、少し離れていたから、五秒はかかった。


階段は、一直線。一番上の段から、見下ろす。

もう今更?…


おそかった。

んだね。




ははは

可笑しいなあ


不思議おかしい


ははは

はは、は


はあ…は、は…



…は?



倒れて、

壊れた

あなたが


…そこに?


あ、血、赤くて、顔、見えない。

ぐちゃぐちゃ、

頭が形少し、いびつと、化す。

血、血がどくどくと滝のように、川のように、波紋のように、血が染め上げた、白いタイル、駅の、階段の踊り場に血、階段に、血痕がまだらにいろどった、ある種の芸術作品のような、独特で、歪んだ、人間のような、跡、有象無象、傷痕、異常にその場には確実に溶け込まないであろう。…創痕。

鮮やかで、気色悪い、生きている、いや?生きてい、証になるもの。が、そこに。


あ、嘘だ、夢なんだこれは

きっと、そうだ。

彼と一緒にいたあの子達は何処に?

逃げた?この、惨状から?

あ、なんでそんなこと?

なんで、こんなことに?


嫌だよ、嘘だよこんなの、嘘、。嘘なんだ。

全部!夢なんだ!こんなの、あり得ないんだ!


屍体がある踊り場までの、階段を、何段も飛ばして、転びかけそうになりながら、駆け寄る。



嘘だと、これが、ドッキリかなにかで…

でもなあ

それなら、こんなに歪にならないよ

頭は。こんなにぐちゃぐちゃに。



ねえ!ねえぇ!

自分は息を吸ったらしかった

ッ…アキ…


あー、でも、なにも、でない。



あれ、あー…名前?は

頭が、混乱して、名前がでてこない。

声もでない、ただ、息をおもいっきり吸って、叫ぶ準備をしているだけで、つまって、苦しくて、詰まって、痛くての、繰り返しが、声。にならない悲鳴を、視界を塩辛い水で濡らして、なにも見えなくなる。だけ。だ。


どうすれば?

私は、どうすれば…


ぁ…そうだ、警察、?…救急!!

携帯電話…あれ、?ない?

持ってない。

いや、ここは、駅だぞ?人くらいいっぱいいる。


恋人から離れて、恋人のために、無我夢中で、階段を駆け昇る。


スマホを眺める大人たち。

僕の恋人の惨状に見向きもせず、なにも、せず。

ただ、スマホを眺めている。

その中の一人に、私は言う。


「ぁ、あ、!あの!助けて!助けてください!!、」


私の悲惨な声が、恐怖に震えて弱った声が、出た。


おかしい、な

なんの反応も示さない。

なにかに取り憑かれたように、吸い込まれるように、液晶画面から、目を離さない。

普通ならば、この惨状に気をとめて、カメラを向けて、ざわめきだすだろうに。

声が、届いていない?否、そんなことはない。

はずだ。


「あの!あの、救急車を!呼んでほしいんです!!!お願いします!ねぇ!!!」


涙が止まらないまま、私はそう叫び続ける。


私が呼び掛けた一人はなんの反応も示さない。

周りの輩も。なにも示さない。

声が届いていないように、まるで、…人形。

人間によく似た人形に叫び続ける、狂人のように、僕は見えるのだろう。

あぁ、そうだ、こ、公衆電話!

…は、近くにない。駅にくるまでに一度も見てはいない。こういう場所にはあるんじゃないのか?あ、ああ!どうしよう。どうすれば?



と、おもった、その時に。


右の手首を捕まれた。




横には、人。


「ッ…ぇ、」


息が漏れて、言葉が詰まった。誰?なんのために、?でも、すぐに、言葉を発する準備を、僕はした。


その人は、にこにことした、朗らかで穏やかな笑みを、浮かべていた。胡散臭い、ようにも見えた。



「ぁ、あ!ひ、人が!階段から、落ちて、それで、血だらけで、あの、だ、だから、…救急!、に、電話を、かけてくだ」


そう、言った途中だった。


手首を掴んだその人は、言った。

否、言ってないかもしれない、けれど。

でも…その人は、確かに、それを、自分に伝えた。何らかの方法で?

口を動かして息を吐いて器官を通して振動をおとに変えて?…それが、声、というもの。

穏やかなはずの笑みから感じる、冷冷たる表情で

「騒々しい」「うるさい」「早く帰れ」

と、そんな、ことを。

緑の服を着ていた。地域の?…ボランティアの、人?…のような人だった。

そんな人が?そんなことを?

ものすごい重圧で、頭がいたくなった、怖くなって、恐くなって、息ができなくなった。弱い、重圧に、拒絶に、私は弱いから。こわい、恐い。

でも、それでも、恋人は、と、おもって、彼の方に向かおうとしても、手首を離さない。強い。振りほどけない。でも、痛くない。その捕まれた手首は。

無痛で、不気味で、仕方がないのだ。


怖くて、恋人どころじゃないほどに、怖くて、急いで、なぜかしら、わからないけれど、そんなに、恐いものだったかしら?…けれど、足を動かして、全速力で、逃げた。気持ちは、恋人の方に向いている。

でも、足は、身体は。

向けられた感情に

勝てなかった。



全速力で逃げた。

無我夢中で走った。


その一時だけ、恋人を忘れていた。


いつの間にか目の前に、祖母の家。

あ、ああ。ついた、ここなら、安心だ。

襲ってきたのは、安堵と、さっきの惨状への不快感。




いつの間にか、…祖母の家についていた。

怖くてしかたがなくて、一緒に寝ようなんて、幼稚で、愚かしい、…そんなことを言った。








今この時だけは、あの惨状を忘れろ、と。

目を…つむった。

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