告発原文08 警察は事実を揉み消そうとした

戸田駅頭に張り込みしている若い刑事に挨拶をしてみようかとも思いましたが、結局何も言わず私はその場を離れました。そして姉の家まで行き、ことの次第を洗いざらい話しました。けれども姉は、どうしても話を信じません。知り合いのおじさん(それもとても善良な人柄の方)の息子が殺人犯だなど、そんなまさかの一点ばりです。姉の呑みこみの悪さに腹を立てて、私は家を飛び出しました。


私が出たあとで、姉は中川警察に電話を掛けたのだそうです。応対に出たのは、あのX刑事らしい。姉は刑事に、「妹が、警察が電話の盗聴をしていると申していますが、本当ですか」と問い合わせたのだそうです。

刑事は高笑いしてこういったそうです。

「まーさか。電話の盗聴は憲法で禁じられています。警察がそんなことするわけがありません。あの男が殺人犯なんてことはありえません。警戒なんかしなくてもいいですよ。妹さんはなにか考え過ぎじゃないですか、あっはっはー。」

無知な姉は、「刑事が盗聴してないっていうから、するわけないじゃないの。あんたの考えすぎ、考えすぎ」と、笑って私にそう告げるのです。憲法で禁じられている盗聴捜査を、警察は隠れて行っているということを知らない市民もいるのです。


私の兄は実家を出て離れたところに世帯を構えているのですが、夜になるとその兄が父の見舞いに病院にやってきました。私は、今度は兄に、ことの次第を説明しました。兄は、その場で中川警察に電話を入れ、事実を確認しようとしました。相手の刑事は、「捜査上の秘密だから」と言葉を濁して何も言おうとしなかったそうです。


ところが翌日、兄の会社にひそかに電話があったそうです。滝本刑事からでした。刑事は、2月16日の夜、わたくし宅へあらわれた男は、妊婦殺人とは一切関係がないと断言する一方で、こう強く警告を発したそうです。「その夜、あなたの妹さんが男に対してとてもぶしつけな応対をしたので、男が怒って妹さんの生命に危害を加える可能性がある。だから警戒したほうがいい。ただし、このことは妹さんやお姉さんには絶対内緒に」と、固く口止めをしたのだそうです。


同じ日、姉の家に、直接、X刑事と滝本刑事がやってきたのだそうです。彼らは屈託なく笑いながら、「あの男は妊婦殺人とは関係がない。集金に来たのに、妹さんが玄関を開けてやらなかったから、怒っただけのことだ。悪いのは妹さんのほうだ。警戒なんかちーっともしなくていいですよ」と、再三にわたって繰り返したのだそうです。


つまり刑事は、男が容疑者であるという事実が、民間人に漏れてしまったことを、慌てて糊塗する一方で、いざ私が、110番通報したことを男に逆恨みされて再々度襲われて現実に殺されてしまった場合、落ち度を問われないために、兄に対してだけはあらかじめ警告を発しておいたわけです。つまり兄は、警察の格好の逃げ道として使われたのです。


また、刑事は、私を「男を怒らせるようなぶしつけな応対をする女。自分が襲われてもいないのに襲われた襲われたと被害妄想を発展させ騒ぎ立てる女」に強引に仕立て上げようとするのでした。このことで私は、いたく被害者感情を傷つけられ、自尊心をなみされました(私は一歩間違えれば命を落としていたのです)。その心の傷はいまでも深く残っているのです。


私の話を信じようとしなかった姉も、刑事が姉には警戒しなくてもいいと告げる一方で、兄に対しては強く警告を発した、しかも口止めまでしたことを知ると、さすがに警察を疑い始めました。それに姉は現に、不審な若い男が慌てて逃げていくのを目撃しているのです。


私が、「そのうえ刑事は暇人じゃない。犯人でないものを犯人だ犯人だと騒ぎ立てている女に、いちいち構いだてしてるほど親切でもない。刑事がわざわざあなたのところまで説明に訪ねてきたこと自体が、反対にあの男が容疑者である証拠にほかならない」というと、姉はやっと得心することができたようです。


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