第3話:運命の人は過労死寸前?!(3)
タクシーが夜の街を駆け抜け、やがてタイラーの家に到着した。タイラーは恥ずかしそうに笑いながらリリスを招き入れると、リビングルームに通した。温かみのある家具と彼の生活感が漂う小物の数々に、リリスはほっと安心感を覚える。
「リリス、飲み物でもどう?」
タイラーがキッチンに向かうと、リリスは「じゃあ、何か甘いやつをお願い。」と微笑む。しかし、彼女の意識はすでに彼のエネルギーを確保することに向いていた。
しばらくして、タイラーが飲み物を持って戻ってくると、リリスは優雅にグラスを受け取り、軽く口をつけた。そしてタイラーが油断した瞬間、リリスは彼の肩にそっと手を置いた。その小さな接触だけでも、彼からは豊かなエネルギーが伝わってきて、彼女の空腹を刺激する。リリスはもう我慢の限界だった。
「……リリー、君にはなんだか不思議な魅力があるね。」
タイラーが言葉を漏らすと、リリスはやわらかい微笑みを浮かべ、彼に顔を寄せてそっと唇を重ねた。彼の驚いた表情がゆっくりと緩んでいき、彼女の唇に応えるように目を閉じる。彼の体からは濃厚なエネルギーが満ちてきて、リリスの空腹をじわじわと満たしていく。グミのような、軽くて甘い、お菓子のような味がする。アスモデウスとは異なる感覚をゆっくりと味わうように、リリスは何度も角度を変えてキスを楽しんだ。
「ありがとね、タイラー。」
リリスは彼の額にそっとキスを落とし、静かに感謝をつぶやいた。この夜、彼女は無事に「食事」を済ませることができた。
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数週間が過ぎ、リリスはタイラーとの関係に馴染みつつあった。休日のたびに二人はデートを重ね、親密になったリリスは、いつの間にか彼と寝床を共有する仲になっていた。これは、リリスにとって非常に都合のいいことだった。
タイラーの家に転がり込んでからというもの、リリスは彼とのキスで「食事」をしていた。しかし、それだけでは我慢ができなくなり、タイラーの寝室に忍び込んでは彼の夢に入り込み、みだらな夢を見せてエネルギーをいただいていた。同じ部屋で過ごせるのなら、わざわざ彼を起こさないように忍び寄る手間が省ける。
タイラーの無尽蔵に湧き出る生命エネルギーの前ではリリスが盗み食いするエネルギーなど微々たるもので、彼はいつも元気に起床してきていた。これからも盗み食いを続けても、きっと大丈夫だろう。
タイラーの寝室は夜の静けさの中に包まれ、ほの暗い照明が二人の影を柔らかく映し出していた。ふわりと漂う彼の優しい香りに、リリスの心は自然と穏やかになり、安らぎを感じていた。いつも一緒にいると楽しくて、彼のそばでは無理をする必要がなく、ただありのままでいられる。リリスは心の奥で少しずつ、そんなタイラーのことを受け入れている自分に気づいていた。
彼はふとリリスを見つめ、「リリー、なんだかまたきれいになった?」と穏やかな笑顔を浮かべた。その言葉にリリスの心臓が少しだけ跳ね、つい照れ隠しに微笑みながら彼を抱きしめた。実際、彼の提供してくれる良質なエネルギーをたくさん摂取しているおかげで、リリスはサキュバスとしての魅力をさらに高めていて、その美しさに磨きがかかっていた。
「タイラーのおかげだよ。いつも優しくしてくれるから。」
リリスがそう答えると、タイラーは彼女の言葉に一層喜んだように、そのままリリスをベッドに押し倒す。そして、彼女の手を優しく取り、まっすぐな瞳で見つめた。
「その、ダメかな。君のことを、もっと知りたいんだ。」
その真剣な言葉に、リリスは一瞬緊張し、体がこわばっていくのがわかった。過去に経験した成人の儀の失敗が胸をよぎり、思わず息を詰める。震えるリリスに気づいたタイラーは、心配そうに彼女の顔を覗き込み、柔らかく微笑むとそっと唇を重ねた。
タイラーのキスは驚くほど優しく、まるで溶けるように柔らかい。リリスの口の中に、グミやジェリービーンズのような、甘くて少しチープなお菓子のような味が広がる。彼の味には、親しみやすさと安心感があり、リリスはタイラーの無邪気で屈託のない性格をそこに感じ取っていた。
彼の舌がそっと入り込んでくると、リリスは戸惑いながらもタイラーのことを思う。彼のあたたかな人柄や、陽気で屈託のない笑顔。彼が自分のことを心から大切に思ってくれているのが伝わる。その純粋さが、彼を特別な存在に感じさせた。
(……彼が運命の人ならいいのになあ。)
リリスの心の奥でふとそんな思いが浮かぶ。アスモデウスの言葉が、彼女の脳裏に響きわたる。
『お前が運命の相手を見つけ、行為を果たせば、お前の淫紋も覚醒する。そうすれば、道は開けるだろう』
少し迷いが残るものの、リリスはここで踏み出すべきだと覚悟を決めた。そして彼を見つめ、かすかに頬を赤らめながら微笑んでみせた。
「……いいよ。優しくしてね、タイラー。」
その言葉にタイラーの顔がほころび、彼はゆっくりとリリスに身を寄せた。リリスは彼の腕の中に身を預けるようにして、彼を受け入れた。
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