オナホ片手に異世界転生

藤原くう

第1話

 異世界に転生したら、どんなスキルが与えられるんだろうな。


 誰よりも強くなれるスキル?


 ありとあらゆる美女に愛されるスキル?


 俺、天河院てんがいんトイに与えられたもんはそんなちゃちなもんじゃない。


 ピンク色のぷにぷにの物体。


 唇みたいな穴が開いているアレだ。中にヒダヒダとかツブツブとかゾリゾリとかがあるアレだよアレ。


 オナホ。


 オナホールである。


「なんでオナホなんだよ!?」


 手にしていたオナホを地面へ叩きつける。


 男性器を刺激するためのそれは、あまりにやわらかく、医療用にも用いられる熱可塑性ねつかそせいエラストマーはどれだけ皮膚が弱くてもかぶれることはない。


「これでどうすりゃいいんだよ……」


 こんなんじゃ、魔王を倒すどころかスライム……いや、メスガキだって倒せそうになかった。


 ため息がドパドパ出ていく。


 神様は、俺に自慰じいでもしてろって言いたいんだろうか。


 マジでそうしたろうかと、勢いズボンに手をかけ、挿入しようとしたところで、はたと冷静になった。


 賢者けんじゃモードになったわけじゃないぜ、シコってもなにも解決しないって気がついたんだ。


 一人遊びを見た神様が舌をみ切って死ぬならそれでもいいが、いいとこ俺が恥をかくだけ。


 こんな悪趣味なスキルを与えるやつだ。俺が絶頂イッた瞬間、笑い転げるに違いない。


 しょうがないので、オナホを拾い上げて歩きはじめることにする。


 怒りのままにみしだいたオナホが、キュウと鳴いた。






 転生したときに、地図をもらっていた。


 それによれば、ここからほどないところに【はじまりの街】はあった。転生者が最初に行くところであり、冒険者ギルドとかがある。


 たいていの転生者はギルドで登録をし、冒険者としての第一歩を歩みはじめるというわけだ。


 だが、俺が行ったところでふざけていると思われるだけだろう。


 相手がオナホっていう自らをなぐさめるためのツールを知らなかったとしても、このくにゃくにゃのブツが武器になるとは考えられないしな。


 仮に知ってたら?


「うわぁ、おにいちゃん、オナホ持ってるぅ。きんもー」


 なんて、町のメスガキに言われるに違いない。んなもん、言われた日には切腹ものだ。


 そういうわけで、人目を避けるように黙々もくもく歩いてるってわけだが、


「のど乾いたな……」


 刺すような日光が容赦なく照りつけていた。オナホも心なしか、カピカピになっている。


 それでも歩いていけば、川が見えてくる。


 水辺へダッシュし、水を手ですくう。


 飲めば、清流の冷たい水が体中にしみわたって気持ちがいい。


「あ」


 俺は、オナホを見る。こいつは非貫通式。穴が一方しか開いていないタイプのオナホだ。


 だから、水をむことだってできる。


 くぽぽぽぽ。


 オナホは水でいっぱいになった。


「オナホを水筒代わりにしてるやつなんて俺だけだろうな……」


 コンドームを風船代わりにしたときのような居心地の悪さを感じながら、ふたたび歩きはじめる。






「待ちな」


 影から出てきたのは、緑色の皮膚をした、巨体。


 異世界で竿役をやらされていそうなその風貌は、見覚えがある。


「お、オーク」


「へへっ。オレ様たちも有名になっちまったもんだ。そうさ、オークだ。殺されたくなけりゃ、荷物を置いていきな!」


 なんて、テンプレ盗賊だろうか。


 腰には局部を隠せていそうでいないぼろきれ。丸太のような腕に支えられているのは、幾重いくえにも処女の生き血をすすり赤黒く変色したチン――じゃなかったやり


 たいして、俺の手にあるものといったら、シコるしか能のない道具だけ。


 頭の中の作戦会議は、みこすり半に満たないほどの短期間で終わった。


 俺は土下座した。


「この通りです。これしかありませんので……!」


 土下座とともに、俺は手にしていたオナホを差し出す。さっきまで水が入っていたので、しっとり濡れてなまめかしい。


 オークがギラリと、眼光を鋭くさせた。


「スライムのなりそこないみてぇのはいらねえ。カネだしな!」


「だからないんですって。確かめてみてくださいよ」


 俺はホールドアップ。


 オークが俺へと近づこうとしたところで、ピタと止まる。


 槍を突きつけ、


「おまえさん、さては転生者だな。近づいたところを妙ちくりんな力で殺すつもりだろう」


 俺はブンブン首を振る。


 違うんです、このちくわみたいにクネクネするブツが、スキルなんです。


 オナホが出せるだけの一般ピーポーなんです。


「オレ様をめてんのか!?」


 槍がくるくるクルクル回る。


 そのたびに、オークのオークがぼろぎれの向こうで風車みたいに暴れまわる。


 そして、槍が振り下ろされる――。


 俺は思わず、オナホで受け止めようとした。


 こんなぷに穴オナホに止められるわけがない。そうは思いつつも、とっさに。


 ガキン。


 硬いものと硬いものとがぶつかったような音が、こだました。


 手に衝撃があって、見ればオナホが1本の棒のようになっていた。


「な、なにぃぃぃっ!?」


 オークが驚きの声を上げている。


 俺だって、驚いていたさ。


 こんにゃくみたいなやわらかさだったオナホが、タイヤのようなかたさになって、槍を受け止めていた。色も黒くなっていたが、穴は相変わらずあって、オナホには違いないらしい。


 こんなオナホがあっても、ムスコがクタクタのサラリーマンみたいにすり切れるだけだと思うのだが、そのおかげで命拾いしたのだから、ありがたい。


 もしかして、オレは、このオナホを自由自在に扱えるのか。


 硬さだけではなく、たぶん、長さとか中のイボイボとかヒダヒダとかゾリゾリとかだって――。


「だからってなんになるんだよ!」


 黒光りする棒と化したオナホ片手に、俺はオークへととびかかっていった。


 だが、敵うわけもなく――脳天に槍の一撃をもらって目の前が真っ暗になった。

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