第16話 ムカつく桐乃


 翌日。


 教室に入ると、


「うおっ」「わっ」


 ちょうど教室から出ようとしている人がいてぶつかりそうになる。

 何とか寸前で踏みとどまり、ぶつからずに済んだのだが……。


「あ、桐葉」


「げっ、京極……」


「げっ、ってなんだよ。そんな汚れ物みたいな反応するな」


「自分の評価よくわかってるじゃん」


「汚れ物じゃねぇから、俺」


 嫌われてるならまだしも、汚れ物は色々キツイ。

 それにしたって物言いに容赦がなさすぎるだろ。

 まだ初めて話してから日が浅いっていうのに。


「ってか、今日も学校来たのか」


「は? なんか悪い?」


「いや悪いとかじゃないけど……」


 言葉に詰まっていると、桐葉の顔がカッと赤くなる。

 

「べ、別にただの気まぐれだから。京極が私の登校意欲に少しでもプラスに作用したとか考えないでよ。ってか普通にキモイから」


「まだ俺何も言ってなくない?」


 桐葉の頭の中で想像が先行しすぎでは?

 桐葉は俺から視線をそらしながら、髪の毛をいじる。


「そういう勘違い普通に困るから。京極のことなんか悪人面でみんなから嫌われてて、汚れ物で馬鹿っていうくらいにしか思ってないし」


「何その悪口詰め放題。あのな、俺だって普通に傷つくんだからな? 嫌われ慣れてるし、そういう噂を幼い頃から耳にしてきたとはいえ」


「ほんと大馬鹿」


「俺の話聞いてた? 勝手に続行するなよマジで……」


「ってかどいて。教室の外出たいんだけど」


「じゃあ桐葉が道譲れよ。俺教室の中入りたいから」


「は?」


「……は?」


 バチバチに視線を交わし合う。

 すると後ろから肩を叩かれた。



「おはよう、京極くんっ!」



 井良々がニコニコしながら顔を出す。


「おはよう、井良々」


「桐葉さんもおはよう!」


「っ! ……お、おはよう」


 どうやら桐葉も井良々のオーラが眩しすぎるらしい。

 わかる、その気持ち。


「何の話してたの?」


「えっと……汚れ物って言われてから数々の悪口を経由して、今はどっちが道を譲るかの話してる」


「へぇ、そうなんだ! ……どういうこと?」


 でしょうね。


「とにかく、私急いでるから」


 桐葉が強引に突破してくる。

 しかし、俺は教室のドアをふさいだ。


「タダで通すわけねぇだろ? 俺にあれだけ言っておいて……なぁ?」


「っ! な、何が望みなわけ?」


「それはもちろん……わかるよな?」


「え、どういうこと⁉ どういうことなの京極くん!」

 

 言われっぱなしじゃフェアじゃない。 

 罵詈雑言を俺に浴びせたんだ。

 それ相応のことをしてもらわないといけない。


 桐葉が少し考えたあと、ハッと気づいたように頬を赤く染める。

 そして……。


「桐葉、お前には――」



「へ、変態っ!」

「さっきの発言を撤回してもらうぞ!」

「ほんとにどういうこと⁉」



「「「…………え?」」」


 俺と井良々、桐葉の声が重なる。

 困惑していると、桐葉がさらに顔を真っ赤にし、


「う、ウザいっ! どけっ!」


 桐葉がグイっと俺を押しのけ、教室の外に出て行った。

 取り残される俺と井良々。


「……なんか俺、怒らせるようなことしたか?」


「……総じて、どういうこと?」


 井良々、もう俺に説明できる自信と余裕はないよ……。





     ♦ ♦ ♦





 ※桐葉桐乃視点



 放課後。


 ヘッドホンで音楽を聴きながら、帰り道を一人で歩く。

 

「…………ウザっ」


 思い出すのは今朝のこと。

 京極に通せんぼされて、変な勘違いさせられて……。


「……ほんとウザい」


 絶対アイツ、私が学校に来たら自分の影響が、とか思ってるよね。

 そういう顔だ。

 ほんとにムカつくし、ウザい。


 

 ――うるせぇよ、お前ら



 ふと思い出すのは、昨日のこと。

 いっつも私に絡んできて、ポストに嫌がらせの紙を入れてくるアイツらに会ったとき。


 あぁやって馬鹿にされるのは正直慣れてるけど、やっぱり何度言われてもムカつくものはムカつくし。

 なにより京極に、私が嫌がらせされてることがバレたのが嫌だった。

 私を弱い奴だって、可哀そうな奴だって思われたくなかった。


 なのにアイツは、なんでか怒って、



 ――好き放題言ってるけどな、お前らのやってることの方がダサいからな。一人に大人数で……恥ずかしくないのか? そんな年にもなって小学生とやってることのレベルが変わってねぇこと



 どうしてあんなにはっきりと言えるんだろう。

 私は怒るだけ無駄だと思って、何も言えないのに。

 なのにアイツは、自分が言われたんじゃなくて私に言ったことにちゃんとムカついて、言い返して……。



 ――誰とも付き合ったことがねぇから、そんなの知らねぇわ!



 ……あれはほんと馬鹿。

 思わず笑っちゃったし。

 でも、なんか嫌いになれない馬鹿で。



 ――どうせ桐葉のこともよく知らねぇで、知ろうとしないで適当に言ってんだろ? 無責任に、自分勝手に。言われる側の気持ちも考えねぇでさ



 まるで自分のことのように怒って、それで、



 ――そんなダセぇことするな。――二度と、桐葉にな



 京極の言葉が、睨んだ顔が。

 私の頭に張り付いて離れない。



「…………ほんとウザい」



 どうしてくれるんだ。

 あんな悪人面の奴のことをふとしたときに思い出してしまう。

 馬鹿で変で、井良々みたいな人気者に謎に好かれて。

 ほんと、意味わかんない。


 そんなことを考えていると、気づけば家についていた。

 音楽はいつの間にか別の曲に変わっていて。

 アイツのせいで、無駄な時間を過ごさせられた。

 あんな奴……。


「ん? あれは……」


 ポストに雑に押し込まれた紙。


「っ!!!」


 慌てて取り出し、中を確認する。

 するとそこには日時と場所が書かれていて、さらに、



『あの童貞襲われたくなきゃ来な。もちろん、あんた一人で』



「…………」


 紙をくしゃっと握り潰す。

 世の中、理不尽なことばっかりだ。


 前まではどうでもいいと思ってたけど。

 今の私は無性にそれが許せない。

 これも全部、あの大馬鹿野郎のせいで……。



「…………うざ」



 複雑な感情で体がずしりと重くなりながら、私はもう一度くしゃっと紙を握った。

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