第15話 馬鹿ばっかな馬鹿


 クソ女共を睨みつける。


 クソ女共は一瞬顔を強張らせるも、プライドがあるのだろう。

 ぎこちなくも頬をピクピクさせながら睨み返してきた。


「は? な、なに?」


「それはこっちのセリフだよ。出会い頭に汚ねぇ言葉ばっか使いやがって……悪気はないだ? 嘘つけ。悪気だらけじゃねぇか」


「なにキレてんの?w ……ぷっ、アハハハハ! もしかして正義のヒーローでも気取ってんの?www」


「俺が正義なヒーローなわけねぇだろ。幼少期から憧れもしなかった。ってか、そんなのこの世にいないからな」


 いたならとっくに俺の前に現れてるはずだ。

 結局ヒーローは都合のいい人の前にしか現れない。

 そんなのそもそも正義のヒーローでもなんでもない。


「好き放題言ってるけどな、お前らのやってることの方がダサいからな。一人に大人数で……恥ずかしくないのか? そんな年にもなって小学生とやってることのレベルが変わってねぇことが」


「っ!!!」


 クソ女たちがうろたえる。

 しかし、こいつらはプライドだけは高い。

 それにあっちが人数的に多数派なのは依然として変わらない。

 それを何よりのアドバンテージだとこいつらは思っている。


「なにムキになっちゃってんの?www」


「そんなに彼女馬鹿にされることが嫌だった? ならごめんねぇwwwでも、早くそんな奴と別れた方がいいよ? 付き合ってて面白くないからさwww」


「色々言いたいことはあるが、全部堪えて一つ、言わせてもらう」


 大きく息を吸い、そして言った。




「――誰とも付き合ったことがねぇから、そんなの知らねぇわ!」




「「「「「…………は?」」」」」


 口をぽかんと開ける桐葉とクソ女たち。

 やがてぷっ、と吹き出して笑い始めたのは……。



「あんた、ほんと馬鹿でしょ」



 桐葉が笑いながら俺を見る。

 

「馬鹿じゃねぇから。むしろ聡明? みたいな?」


「聡明の意味もあんまわかってないのに使ってる時点で馬鹿。大馬鹿」


「うぐっ……」


 痛いところを突かれる。

 返す言葉もない。


「ちょっと、何イチャイチャしてんの?」


「マジキモイからwww」


「ただの童貞じゃんwww普通にキモイんですけど」


「お似合いだねwww」


 ケラケラ笑うクソ女共。

 俺は再び、クソ女共を睨みつける。

 

「お似合いとかじゃねぇよ。第一付き合ってないし」


「は? 意味わかんないんだけどwww」


「わからないだろうな、お前らみたいな本当に“馬鹿”な奴には」


「なっ……童貞のくせに調子乗んな! さっきからペラペラと……!」


「さっきから発言がペラペラなのはお前らだろ。結局自分勝手でしかない。ただ誰かを攻撃して、自分が優位だって優越感に浸りたいだけなんだろ? ちっさい人間だな、お前ら」


「ッ!!!! あんたねぇ……!!!!!」


 クソ女共の方に一歩踏み出す。


「どうせ桐葉のこともよく知らねぇで、知ろうともしないで適当に言ってんだろ? 無責任に、自分勝手に。言われる側の気持ちも考えねぇでさ」


 そして怒りの感情を落ちつけながら、それでも力強く言った。




「そんなダセぇことするな。――二度と、桐葉にな」




「「「「ッ!!!!!!!」」」」


 クソ女共の顔が強張る。


「い、行こ」


「こいつ相手にしてるだけ時間の無駄だし」


「そ、そうだね」


 クソ女共が逃げるように立ち去っていく。

 そして去り際、負け犬の遠吠えのように一言。


「覚悟しときなさいよ……!」


 どんどんクソ女共が遠ざかっていく。

 ふぅと一息つき、何やらボーっとしている桐葉を見る。

 

「桐葉?」


「わっ!」


 声をかけると、桐葉が驚いたように声を上げた。 

 ほんのり頬が赤く、俺と目が合うと鋭く睨んでくる。


「……急に話しかけないでくんない?」


「今、急だったか?」


「きゅ、急だったから」


「そ、そうか。悪い」


「…………ふんっ」


 桐葉がそっぽを向く。

 全く、桐葉は難しいな。

 なんてことを思っていると、桐葉が聞こえない声量でボソッと呟いた。









「…………ありがと」









「え? なんて?」


「これで義理は果たしたから! これ以上はない! だから言わない! 馬鹿っ!」


「馬鹿って言いすぎじゃね⁉ あと俺、そんな馬鹿じゃねぇからな!」


「私の中であんたは馬鹿だから! だからもう馬鹿! 馬鹿確定馬鹿!」


 馬鹿馬鹿言われすぎて頭が馬鹿になりそうだ……あぁ、馬鹿多すぎる。


「ったく……」


 桐葉が口をとがらせながら、首にかけていたヘッドホンをつける。

 イヤホンジャックをスマホに挿入すると、俺なんてそっちのけで歩き始めた。


 ……なるほど、俺が馬鹿すぎて話したくないってことですかそうですか。

 なんてふてくされていると、



『つまらな~い~くだらな~い、退屈だけを愛し抜け~』



「「ッ!!!!」」


 スマホから流れる音楽。

 どうやらイヤホンジャックがちゃんと差し込まれていなかったらしく、顔を真っ赤にする桐葉。


「えっと、い、今のは……!」



「桐葉も『ラザニアぺんしる』好きなのか⁉」



 興奮気味に桐葉に言う。

 桐葉は少し固まった後、俺から視線をそらした。


「……好き、だけど」


「俺もなんだよ! ここ最近は結構聞いててさ」


「……私も、だけど」


「いいよな~ノスタルジックな雰囲気が曲全体を包み込んでてさ」


「歌詞もシンプルでいい」


「わかるわー」


 それから『ラザニアぺんしる』の話題で盛り上がり。

 どんな偶然か、俺と桐葉の音楽の趣味がかなり一致していることが判明した。

 さっきはあれだけ言い合っていたのに、音楽の話になると桐葉もなかなかに饒舌で。


「じゃあな。また音楽の話でもしよう」


「……また」


 桐葉と別れ、歩き始める。

 案外、桐葉は悪い奴じゃない。

 ただ口下手で、色々と下手くそなだけで。

 ま、俺もそうなんだが。


 ……それにしても、さっきのクソ女たち。

 おそらくあいつらが桐葉の家のポストに紙を入れてた奴らだと思うが……。


「これで桐葉から手を引くって感じでもなさそうだよな」


 あぁいう奴らはネチネチしている。

 必ずまた何かしてくるだろう。 

 むしろ俺に言われたことにキレて、より過激なことをしてくるかもしれない。


 ……思わず桐葉の問題に首を突っ込んじまったな。

 こうして桐葉にリスクを背負わせてしまったわけだし。


「何してんだ俺は……」


 後悔で胸が押しつぶされそうになる。

 とにかく、これでもう俺が桐葉の件と無関係とは言えなくなった。


「……何もしてこなきゃいいけど」


 そう思いながら、自分の感情的な行動を大反省して帰宅する俺だった。





    ♦ ♦ ♦





 ※クソ女視点



「マジウザいッ! あたしらに言いたい放題言ってたのアイツじゃん!」


「桐乃も男に守られやがって……腹立つ!」


「ただでさえ翔琉さんに気に入られてるだけでムカつくっていうのに……!」


「マジでさ、一回痛い目遭わせないとわかんないかもね、アイツ」


「確かにwwwもうクソ童貞とかどうでもいいや。アイツ、やっちゃおうよww」


「サンセーーーwww」


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