ススメ第四小隊!~転生兵士の異世界戦場サバイバル~

潮ノ海月

第1話 異世界の見知らぬ街

徐々に意識がハッキリしてくると体の感覚が戻ってきて、体の全てがズキズキと激痛が走る。

あまりの痛さに我慢できずに手を動かし、地面の冷たさと砂のジャリジャリする感覚に驚いて目を開けた。


すると中世の西洋風の建物が目に飛び込んできて、どうやら大通りのど真ん中に倒れているようだ。

そして少し離れた場所から人々が慄いた表情で俺を見ている。


意識を失う直前のことは全く覚えていない。

今わかることは、このは日本ではなさそうということ。


だって俺を囲んでいる人達の髪の色は金髪や茶髪だし、瞳の色も青や赤だったり。


皆が着ている服装もどこか古めかしいデザインで、ほとんどの人は痩せ細っていて表情が暗い。


日本の景気が後退しているからといって、いきなり西洋の中世時代みたいな環境に変化することはないよな。


ということは、これは俺の妄想?

それともリアルな現実なのか……


「あの……ここはどこですか? 俺に何が起こったか知っている人はいませんか?」


腕を伸ばして目の合った人に問いかけるが、誰からも返答はない。

俺に呼びかけられた人達は、不気味そうな表情を浮かべて、次々と逃げるように去っていった。


これでは日本語が通じるかもわからないな。


痛む体を起こし、胡坐をかいて地面に座り込む。


今の現状も状況も全くわからないから、次に何をしていいのかもわからない。


困り果てて、自分の持ち物を確かめようと尻に手を当てると、ズボンの後ろポケットにスマホが入っていた。


スマホといえばGPS。これで現在地がわかるぞ。

勢いこんで画面を操作してみるが、電波状況は圏外。

これでは使い物にならないな。


スマホをポケットに戻し、髪の毛をかいて悩んでいると、周囲の人々が騒ぎだした。


俺は慌てて立ち上がっり、周囲の様子をみていると、人混みの後ろから鎧を着た兵士達が槍を片手にゾロゾロと現れ、その中から軽鎧の女子が進み出て、片手を腰に当てる。


「私はリスラティア王国、右翼軍第七大隊所属、第四中隊、第三小隊隊長のエリナ少尉。アナタは名は? どこの所属かしら?」


「えっと……俺の名前は二階堂蓮(にかいどうれん)。所属は日本在住の高校生です」


「日本? 高校生? そういう意味のわからないことを言って時間稼ぎなら無駄よ。早く所属を言いなさい」


エリナ少尉は怪訝な表情を浮かべ姿勢を低くし、腰に吊るしてある剣の柄を握る。

彼女の目つきは鋭くなり、殺気めいた気配を感じる。


どうやら俺の話を信じてくれるつもりはないらしい。


俺は両肘を曲げて腕を上にあげて、降参のポーズを取った。


「嘘は言っていない。俺は別の国の住人だ」


「それは密入国者ということね。我が王国のことを諜報にきたの?」


「よく考えてくれよ。こんな人通りの多い道端で途方に暮れてる密偵なんていないだろ」


エリナ少尉の言葉に反応して、思わず俺は両腕を広げて弁解する。

そんな首筋に剣の刃が当てられた。


「疑わしい男ね。全てを吐いてもらうわ。私が直々に尋問するから 、この者を駐屯地の牢へ連行しろ。」


「「はっ!」」


二人の兵士が歩いてきて、槍を構えて切っ先を俺に向ける。

兵士達の構えには殺気が含まれており、このまま動かなければ本気で殺されそうだ。

こんな状況に平和ボケした俺が耐えられるはずがない。

俺は素直に連行されることに決めた。


いざ逃げるとなっても、どこへ向かえばいいのかわからないし、とにかく情報が要る。


先ほどエリナと名乗った少尉は、少し気が強そうだが、俺と近い年頃ようだ。

それに、なんといっても美少女なんだよな。


鎧に隠されているが、胸のボリュームもありそうだし、かなりスタイルもよい。

どうせ尋問されるなら、素直に彼女と話し合うのが得策だろう。


エリナ少尉を先頭に、兵士達に囲まれながら歩くこと三十分ほどで、三階建ての横に広い建物の前まで連行された。


背中から槍で突かれて中に入ると、室内は広く、兵士達が忙しく働いている。

エリナ少尉と兵士の多くは部屋の中で散開し、二人の兵士によって俺は階段を下りて地下二階へ向う。

するとそこは薄暗く、鉄格子の牢がズラリと並んでいた。


兵士達に手荒く牢へ放り込まれた俺は、壁にもたれて頭の中を整理する。


どこで記憶が途切れているのか……まず今日の出来事を思い出してみる。


まずは朝、妹のスタンピングの一撃を腹にもらって目を覚ましたのは覚えてる。

最近になってギャルと化した妹は、陰キャで目立つ性格でもない俺のことを嫌っているからな。


昔はお兄ちゃん、お兄ちゃんと俺の背中を追いかけてきて可愛かったけど……。

今では小さい頃の思い出話を言おうものなら、ガチで妹に殺害される。


それから制服に着替え、朝食を食べてから、自転車で高校へと向かったんだよな。

耳にイヤホンをして、スマホにダウンロードしてあるお気に入りの曲を大音量で再生しながら、いつものように通学路を爆走したわけだけど。


それで交差点の近くで俺と同じ学校の女子達の集団を発見して……


あれ? 交差点の信号機の色は青だったけ? もしかすると赤?

確認した覚えがないな。


そういえば体に強烈な衝撃があったような……


そこからは先はどうしても思い出すことができない。

でもハッキリしていることは、俺は日本にいたということだ。


先ほどエリナ少尉はリスラティア王国と言っていたが、日本国内にそんな王国が建国したというニュースは聞いたこともないぞ。

それに彼女達が身に着けていた武装……あんな軽鎧、骨董品屋でも置いてないだろう。


ということは……今いる世界は別次元の世界で、いわゆるラノベ小説によくある異世界転生という類ではなかろうか。


こんな発想をしているから、周囲から陰キャだとか、根暗だとか言われるんだろうな。

あー、今なら妹の暴力も懐かしく思える……ちょっと目から汗が滲みでるけど。


そんなことをボーっと考えていると、階段を下りてくる足音が聞こえてきた。

少しすると三人の兵士が現れ、鍵を開けて牢の中へと入ってくる。

そして一人の金髪の兵士が、木剣を握りしめてニヤリと笑んだ。


「これから尋問を始める。お前のことを全て吐け」


「先ほどの少尉さんは?」


「お前などのためにエリナ少尉の手を煩わせることはない。お前達、さっさとこいつを壁の手枷にくくりつけろ!」


男の命令に兵士二人が動き、俺は羽交い絞めされて、壁に取り付けてある鉄輪に手首をはめられた。

それから金髪男による強制的な尋問が始まった。


「お前はどこの国の諜報員だ? 誰が我が王国を裏切って、お前をリスラティア王国に潜入させたのだ?」


「さっきも言ったが俺はどこの国の諜報員でもない。どうやってこの街に来たのかもわからないし、誰かに手引きしてもらったわけでもない」


そこまで言いきったところで、俺に顔に向けて金髪男が木剣を振り抜く。

頬に強烈な衝撃と痛みが走り抜け、口の中で奥歯が折れて唇から血が流れる。

俺が痛そうに表情を歪めると、金髪男は楽しそうに口を歪めた。


「私が問い質している。反論は許さない。素直に全てを吐くまで尋問を続けるぞ。お前はどこの国の工作員だ。この国に潜り込んだ目的は?」


「そんなの知らねーよ。俺は日本の高校生、二階堂蓮だ。怪しいと思うなら日本政府に確かめるといいだろ」


「あくまで白を切り通すつもりのようだな。よかろう。お前の心が折れるまで付き合ってる」


金髪男は眉を吊り上げてニヤリと笑い、俺の鳩尾に木刀を強烈に突き込む。

その瞬間に腹に激痛が走り、俺は胃の中のモノを盛大に吐いた。


この世界のことを全く知らないし、どうしてこの街の路上で倒れていたのかもわからない。

どこの誰と質問されれば、日本の高校生と名乗るしか説明する言葉がない。


金髪男は次々と質問を浴びせかけ、俺の応えが気に入らずに、次々と木剣を叩き込んだ。

その度に服は引き裂かれ、体中に裂傷が増えていく。

そして、何時間にも思える拷問の末に、俺は意識を手放した。


異世界転生系のラノベ小説って、最初からチート能力があって、イージーモードで物語が進んでいくんじゃなかったのかよ?

どうして、俺だけがこんな目に……

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