第10話「決戦の時、迫る影」
クラウスとの試合を終え、俺は息を整えながら木剣を握りしめた。未熟な自分が、剣術に長けたクラウス相手に善戦できたのは正直な驚きだった。しかし、体力も集中力も消耗している中、次の試合が控えている。この試練はまだ終わりではない。
「次の試合は…イザベラ・フォン・ライヒェン様対ラウル・バイン様!」
執事の発表が広間に響くと、会場の空気が再び高まった。イザベラは美しいドレスのまま、優雅な歩みでフィールドへ向かう。その動きには威圧感すら漂っていた。一方のラウルは、鍛え抜かれた体躯を誇示するように木剣を構え、戦闘態勢に入った。
「興味深い組み合わせですね」
隣に座っていたクラウスがぼそりと呟いた。その目は次の試合に集中している。
イザベラ対ラウル:優雅と力の対決
「始め!」
執事の声と同時に、ラウルが素早く間合いを詰めた。鋭い動きで低い体勢から剣を振り上げる。観客たちが息を呑む中、その剣先はイザベラの胴体を狙って一直線に迫った。
だが、イザベラは微動だにしない。剣を軽く傾けるだけでラウルの一撃を弾き、優雅な足運びで後退した。まるで踊るような動きに、ラウルの攻撃は空を切る。
「その程度の力では、私には届かないわよ」
イザベラは軽やかに木剣を振り、ラウルの攻撃をすべて受け流す。その一挙手一投足から、彼女がただの剣技だけでなく、心理戦にも長けていることが見て取れた。
ラウルはさらに猛攻を仕掛ける。左右からの連撃に加え、上下を織り交ぜた変則的な攻撃。だが、イザベラは冷静に動きを読み切り、わずかな剣捌きですべての攻撃をいなしていく。
ラウルの動きが鈍った瞬間、イザベラが一歩踏み込む。木剣が弧を描き、ラウルの木剣を打ち上げた。その反動でラウルが体勢を崩すと、彼女の剣先が彼の胴体を軽く叩いた。
「そこまで!」
執事の声が響くと、ラウルは悔しそうに肩を落としながら一礼する。一方のイザベラは、ほほ笑みを浮かべながら木剣を下ろし、優雅に礼を返した。
「見事な動きでした」
彼女の柔らかな声に、ラウルは顔を上げる。試合中は圧倒的な強さを見せた彼女だが、礼儀を忘れないその姿勢がさらに観客の評価を高めているようだった。
次の試合:マルコ対クラウス
「次の試合は…マルコ・ディーネス様対クラウス・ローゼン様!」
マルコは屈強な体躯を誇る男で、剣を構えるだけでその存在感が広間を支配する。一方、クラウスは冷静な表情で木剣を握りしめ、相手を観察している。
「始め!」
執事の合図と同時に、マルコが剛力を生かした大振りの一撃を繰り出した。観客たちが思わず身を引くほどの迫力で木剣が振り下ろされる。だが、クラウスはその一撃を横へ受け流し、鋭くステップを踏み込んで間合いを詰めた。
「強い力には隙が生じる。そこを突かせてもらう」
クラウスは低い体勢から木剣を斜めに振り上げ、マルコの胴体を狙う。その攻撃が届きそうになった瞬間、マルコが剣を引き戻し、ぎりぎりで防御する。
「ほう、なかなかやるな」
マルコがにやりと笑いながら攻撃を再開する。力任せの連撃がフィールドを埋め尽くし、クラウスは防御に徹する形になった。だが、その防御には一切の乱れがなく、観客たちも息を呑むように見守っている。
「攻撃ばかりでは勝てない」
クラウスが冷静に言葉を紡ぎ、攻撃の隙を伺う。マルコの剣筋がわずかに乱れた瞬間、彼は素早く動き、木剣を相手の肩口に当てる。
「そこまで!」
執事が終了を告げ、試合はクラウスの勝利で幕を閉じた。マルコは力の差を感じたのか、素直に一礼し、クラウスも冷静に礼を返した。
対戦相手:カイル・ヴェインブルク
「次の試合、亮様対カイル・ヴェインブルク様!」
執事の声が響き渡ると、広間全体に緊張感が走る。ついに来た──この試練で最も避けたかった相手との対戦だ。
カイルは余裕たっぷりの笑みを浮かべ、フィールドに向かう。その歩みには威圧感があり、観客たちの視線を独り占めにしているようだった。俺も木剣を握りしめながらフィールドに向かう。
「ようやく君と戦えるようだね、亮君」
カイルが軽く木剣を振りながら声をかけてきた。その表情には、自信と勝利への確信が見え隠れしている。
「君がアリアお嬢様の婚約者なら、ここでその実力を見せてもらおう」
「受けて立つさ」
俺は短く返し、木剣を構える。緊張と焦りが入り混じる中、なんとか冷静を保とうとした。
戦いの始まり
「始め!」
執事の合図とともに、カイルが一瞬で間合いを詰めてきた。その動きは鋭く、風を切るような速さがある。俺は咄嗟に木剣を横に構え、防御の体勢を取る。
バンッ!
木剣同士がぶつかり合う音が響き、衝撃が腕に伝わる。その重さと正確さは、これまでのどの対戦相手とも比較にならない。
カイルはそのまま流れるような動きで、次々と剣を繰り出してくる。攻撃の角度や速度が一定ではなく、予測することが難しい。
「防御ばかりでは勝てないよ」
カイルが挑発的に言葉を投げかけるが、俺は防御に徹するしかなかった。一撃でも受ければ試合が終わることは明白だ。
だが、このまま守り続けるわけにもいかない。攻撃の隙を見つけ、反撃する方法を探さなければ──。
次回に続く。
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