異世界転生したら俺の嫁が悪役令嬢だった件
arina
第1話 異世界転生!婚約者は悪役令嬢ですか?
「…ねえ、亮君、こんなところで寝てる場合じゃないでしょ?」
目が覚めると、目の前には信じられないほど美しい少女が立っていた。青い瞳にプラチナブロンドの髪、肌は雪のように白く、まるでおとぎ話から出てきたかのような麗人だ。だが、その表情は冷酷で、どこか棘があるように感じた。
「……ここ、どこ?」
ぼんやりとした頭で辺りを見回す。目に入るのは豪華な装飾が施された部屋の中。まるで王侯貴族が住むような場所だ。大きなシャンデリアが天井から下がり、壁にはきらびやかな絵画やタペストリーが掛けられている。
「さあ、あなたが寝ていた部屋よ。それ以外に何があるの?」
冷たい声と共に少女が視線を投げかける。自分に対して異様に苛立っているようで、まるで存在自体が彼女の機嫌を損ねているかのようだった。
「えっと…もしかして、俺…夢でも見てるのか?」
少し前のことを思い出してみる。自分は確か、会社のオフィスで仕事をしていたはずだ。深夜まで残業をし、徹夜続きで限界だった。特に最近は、自分が担当しているゲームのリリースに向けて、忙しさが尋常じゃなかった。疲れ切った身体を無理に動かしながら、同僚に「お疲れ」と声をかけ、帰路につこうとした瞬間、視界がふっと暗くなり…。
「倒れた、のか?」
そうだ、倒れたんだ。過労で。そこまでは覚えている。だが、その後がどうも思い出せない。病院かどこかで目を覚ますはずが、ここは一体…。
「…まだぼんやりしてるの?」
冷たい視線を向けてくる少女が苛立った様子でため息をついた。
「あなた、私の婚約者であることを自覚しているのかしら?あまりに呑気で、まるで庶民のようだわ」
「婚約者!?いや、待ってくれ!そもそも、君誰だ?」
少女の眉がピクリと動き、不機嫌そうに腕を組んだ。
「私の名前も知らないの?まったく、呆れたものね。私の名前はアリア・エドワード、エドワード公爵家の令嬢よ。あなたと私の婚約はすでに決まっていること、覚えておいて頂戴」
アリア・エドワード…エドワード公爵家…どこかで聞いたことがあるような…。
いや、そんなはずはない。聞いたことがあるわけがない。だが、その名前にはなぜか心当たりがあった。脳裏に浮かんだのは、最近夜な夜なプレイしていた乙女ゲーム「夜明けのラプソディー」だ。仕事の息抜きに少しだけプレイしたつもりが、気がつけばその美麗なキャラクターたちに心を奪われ、深夜までプレイしてしまっていた。特に印象に残っているのは、物語の後半に登場する「悪役令嬢」──その名前が確か、「アリア・エドワード」。
「……まさか」
まさか、ここは「夜明けのラプソディー」の世界なのか?そして、俺はそのゲームの登場人物になってしまった?
「何をぼんやりしているの?」
アリアの冷ややかな声にハッと我に返る。これは夢かもしれないが、ただの夢として片付けるにはあまりにリアルすぎる。
「えっと…アリアさん、少し話を聞かせてくれないかな?ここがどこで、俺がどうして婚約者なんてことになってるのか、さっぱり分からないんだ」
「いいわ、あなたがあまりに頼りなさそうだから教えてあげるけれど、情けないわね。あなたは私の婚約者として、私を支える立場にある。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「支える立場、ねぇ…」
アリアの態度は相変わらず冷たいが、その視線の奥には何か隠された感情があるようにも見える。彼女が演じる「冷酷な悪役令嬢」は、ゲームの中でただの嫌われ役にすぎなかった。だが、ここでは彼女の本当の姿が見える気がする──彼女は何かに囚われている。
「ところで…亮君、もう少しマシな服装はできないの?」
彼女がふと俺の姿に視線を落とし、ため息をついた。俺の格好は今まで通りのスーツ姿で、異世界にはまったく馴染んでいない。彼女の貴族然とした華やかなドレスとは対照的で、どう見ても場違いだ。
「ごめん、服装はこれしかなくてさ」
アリアは呆れたように首を振りながら、侍女に何かを指示する。すぐに彼女の指示通りに、豪華な装飾のある服が運ばれてきた。
「さあ、早く着替えて。これ以上あなたの醜態を見せられると恥ずかしいわ」
「わかったよ…」
どうやら俺は、この「婚約者」としての立場を演じる必要があるようだ。とりあえず、この異世界で生き延びるためにも、彼女の指示に従うしかなさそうだ。
新しい服に着替えた俺を見て、アリアはようやく少しだけ満足した様子を見せた。しかし、その顔に浮かぶのは相変わらず冷たい微笑みだ。
「さて、私たちは公爵家の立場にある以上、社交の場に出ることも少なくない。あなたも早く慣れてもらわないと困るわ」
「社交の場、ねぇ…」
この世界がゲーム「夜明けのラプソディー」そのものだとしたら、俺には厄介な問題が山積みだ。ゲームのストーリーを知っている限り、アリアには「破滅エンド」が待っている。彼女が悪役令嬢として破滅するシナリオが既に決まっているのだ。
「そういえば、アリアさん…」
彼女が「悪役令嬢」であることを知っている俺は、つい彼女に問いかけてしまう。
「破滅エンド…なんてこと、考えたことある?」
アリアの顔が一瞬だけ曇ったが、すぐに冷たい笑みを浮かべた。
「破滅エンド?馬鹿なことを。私はエドワード家の誇りを守るために生きているわ。そんなこと、起こり得ない」
そう答える彼女の瞳には、どこか不安の色が見える。この世界での彼女は本当に「悪役令嬢」としての道を歩むのだろうか?
この世界に転生してしまった俺は、彼女の未来を変えられるのかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。
「俺が君を守るよ。アリア、どんな未来が待っていようと、俺が一緒に戦うから」
アリアは驚いた表情でこちらを見つめるが、すぐにそっぽを向き、顔を赤く染めた。
「ふん、何を言っているのかしら…まあ、少しは期待してあげるわ」
こうして、異世界での新たな生活が幕を開けた。俺の役割は悪役令嬢の「婚約者」。だが、俺の目標はただ一つ、彼女を破滅から救い出すことだ──。
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