(6番目)
そうして翔子と共に思考を巡らせていた時だった。愛は『ある事』を思い出す。脅迫文に書かれていた春矢が歌っている事を知っているという内容をだ。そして春矢の証言や自身の記憶から春矢の唄を聞いた事があるのは、出会ったあの広場である可能性が高いというのを…。
「出来る、かもしれない。脅迫文を書いた人を誘き出す事。」
「?どういう事?」
「前に脅迫文について彼が話してくれた事があったでしょう?『自分は人前で歌った事ほとんどがない。職場で鼻歌を口ずさんでも相当に小さくしている。』って。でも脅迫文を出してきた相手は彼の唄を知っていた。だから考えたの。『彼の唄を何処で知ったのか?』って。そして考えている内に気付いたの。あそこでなら彼の唄を、その姿を見て知る事が出来るって。」
「…っ、それって…。」
自分が春矢と関わるようになったきっかけを知っている翔子は、愛が言っているのが広場だという事も分かったからか。携帯端末越しに息を呑む。だが、愛は特に気にする様子もなく続けた。
「…ええ。私と彼が会って、あなたも引き合わせる為に行ってくれたあの広場よ。」
「っ、やっぱり…。」
「あそこで歌えば脅迫文を書いた人を誘き出せると思うの。少なくても正体ぐらいは突き止められるかと思って。」
「そう、かもしれないけど…。危なくない?それに相手が必ず姿を見せるかも分からないわよ?」
「そこなのよね。だから…何度か試してみようと思うの。現れるまで。…ううん、現れなくても噂になるぐらいまで。改めて…どうかしら?」
「…。」
思っていた以上に高い行動力を愛が見せてきた。しかも最終判断を促してくるかのように問いかけてもくるが、話す声色から愛の意思が固い事。何より愛の話が脅迫者を誘き出すのに一番手っ取り早いと思えたのだろう。小さく息を吐くと答えた。
「…良いんじゃない?方法らしい方法、今のところ思い付かないし。…ただ、ヤバそうな相手だったらすぐに警察に突き出すわ。そうなったら私のお母さんだけじゃなくて、あなたの叔母さんにも情報が行っちゃうと思うけど…。それも覚悟の上だよね?」
「もちろん。」
「…そっか。分かった。なら私も協力する。とりあえず万が一に備えて私のお母さんには先に連絡して…。あ、彼への連絡もこっちでしておくね。」
「翔子…。その…ありがとう。」
「っ、うん。」
最終確認をすれば愛の意思が変わらない事が分かったのだ。その様子に愛を自分なりにサポートする事を決意する。更には改めてその事を愛が感謝を口にしてくれて。大好きな人の言葉に気分が高揚した翔子は、作戦の成功を強く願いながら動き始めるのだった。
こうして脅迫者を誘き出す為に広場へと戻り歌唱するようになった愛。すると最近歌っていたのが『カッコウほーむ』という人目があまり付かない場所の建物内だったせいか。屋外の、それも広場という人が行き交う場所で久し振りに歌う事に愛は体を強張らせる。だが、あの時から人前で何度も歌ってきた。何より以前とは異なり春矢のギターだけではなく真歩が持参したキーボードを演奏。更に演奏を翔子が近くで温かく見守ってくれていたからだろう。1つ息を吐くと愛は歌唱の為に喉を震わせていく。その歌声は『カッコウほーむ』で度々歌っていた事で思っていた以上に鍛えられたものになっていたらしい。現に愛の歌声は5メートル近くも離れた人の耳にも届き、聞こえたらしい人々は次々と足を止めてもいく。そして元々人通りが多くない広場や周辺とはいえ、愛達の前には常に10人近くが集まるようになる。しかも中には愛達を撮影する事を望む人も発生。脅迫者の耳に入り易くなる事を考えた翔子の提案もあって、映像ではなく音源のみという条件で記録する事を了承する。おかげでネット上には再び愛の唄が上がるようになった。
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