(3番目)
そんな高島は目撃したのだ。仕事終わりらしい春矢がいつもの広場とは違う方へと歩いていく姿をだ。そればかりか高校生と思われる3人の少女と共に…。
(誰よ?あの子達は!?)
『浅井 春矢』という人物が見た目は今風の茶髪で軽そうな若い男だが、意外に交友関係は狭い事を花島は知っていた。当然、知り合いや友人の中に少女達がいない事もだ。だからこそ春矢の今の姿が信じられず、高島は4人に距離を置きながら尾行していく。それは彼らが『カッコウほーむ』に入っていくのに気が付いても止まる事はない。むしろ『春矢と少女達の関係を突き止める』という意欲が相当に強いのだろう。彼らに気付かれないようにしながらも『カッコウほーむ』に勢いよく入っていった。
そうして思い付くがまま行動した高島だが、後悔のような感情も芽生えてしまう事になる。春矢達が向かっていったのは『カッコウほーむ』内のピアノが設置されている部屋だったのだが、演奏と歌声が聞こえると徐々に室内の雰囲気が変化。霧のように微かなものであったが闘技場に似た光景が見えたのだ。本来は1台のピアノと観客席に10脚ほどの椅子しかない空間だというのに…。
(…っ!?一体、何が起きているの!?)
自分の周囲に広がる光景が信じられないせいか。終始、動揺し続けてしまう高島。その動揺は自分でも驚くほどに強くなっていたらしい。現に高島は逃げるように『カッコウほーむ』から出ていく。春矢と少女達の関係を当然何も問えないまま…。
一方の愛はピアノ演奏に集中している真歩やギターを鳴らす春矢。そして愛の歌声と皆の演奏にも集中していた翔子とは異なり高島の事に気付いていた。自分達を見つめてくる瞳が心なしか鋭いものになっていた事にもだ。それだけではなく自分達の唄と演奏を聞き始めてすぐに出て行ったのも…。
(誰?私達の唄と演奏で驚いて逃げたみたいだけど…。)
自分では分からないが、翔子を含め皆の話から自身の歌声を聞くと様々な光景が見える事は知っていた。それにより今、女性が慌てた様子で出て行った原因について何となくでも察した。だが、原因は分かっても相手は知らない女性だった。何より愛はまだ真歩のピアノと春矢のギター演奏に合わせて歌いたかったからだろう。翔子も含め自分以外は女性が訪ねて出て行ったのも未だ気付いていなかった事もあり、特に何も言わないまま歌唱を続けるのだった。
翌日。愛は昨日歌えた事で翔子達と同様に満たされた気分だったが、一方の高島は真逆の気分で過ごしていた。昨日の事が頭を過り続けていたからだ。春矢が見知らぬ少女達と楽しそうにする、仕事中に見た事ない姿が…。
(ああ…もう!こんな事を考えている場合じゃないのに!)
メジャーデビューしたとはいえ高島はまだまだ無名だ。周囲に名を知られ、業界で生き残る為には舞い込んできた仕事を少しでも多く行わなくてはならない。つまり1曲でも多く歌唱し、歌声と共に自分の事を知って貰わなくてはならないのだ。だが、頭では分かっていても歌唱しようとすると、いつも以上に声が出ない事にも気が付いてしまった。しかも意識すればするほど声が出なくなっていたのだ。高島はいつも歌っている楽曲に対しても想った通りの声を発せなくなってしまう。メジャーデビューして日が経過していないのに歌手生命すら危うくなりそうだった。
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