(2番目)
こうして促されるがまま脅迫文について告白した春矢。すると耳を傾けている愛達の表情は話が進むほどに険しいものになっていく。特に翔子は眉間にシワを寄せると言い放った。
「言っておくけど私達はやってないからね?むしろ話をしてくれるまで知らなかったんだから。」
「いや、疑ってないし。」
翔子の言葉を素早く否定する春矢。尋ねられた為に話しただけだというのに、脅迫文の犯人として疑っていると察したからだ。そして愛も考え込むような表情を浮かべると口を開いた。
「ちなみに…あなたって職場で歌った事あるの?」
「あ、いや…。知っての通り上手くないから歌った事はないな。鼻歌も小さくしているし。」
「なら、職場以外でのあなたの事を、正確には口ずさんでいる時のでもあなたを知っているって事になるわね。」
「何か怖いですね…。」
愛の言葉に体を震わせ呟いてもしまう真歩。私生活の姿を何者かが知らない内に把握。事実を基にした脅迫文を作って送ってもきたのだ。自分の事ではないとはいえ恐怖を覚えるのは当然だろう。それでも春矢は脅迫文を送ってくる人物の正体について考えているからか。真歩のように青ざめる事はなかった。
だが、他の皆のように恐怖は感じなくても脅迫文は届き続けているせいだろう。脅迫者の正体について考える時間は増えていく。最近では仕事中にもだ。すると利用者と接する際にはほぼ普段通りにしていたが、事務作業では不意に手が止まっていたりした事。更には呼びかけられても反応が遅くなっていたりもしていたからか。他の職員達も春矢の様子が以前とは異なっていた事で気付く。そして主任から問われた事で脅迫文について告白。他の職員達は春矢がずっと打ち明けなかった事に小言を漏らしたりもしていたが、今でも彼が真面目に仕事に向き合い続けているのも知っていたからだろう。文句を言う者はすぐにいなくなる。そればかりか皆は春矢の相談に乗り勤務形態を変えたりもしたのだった。
一方の脅迫文を送った人物…『高島 杏樹(たかしま あんじゅ)』は少し不満げな様子だった。脅迫文を送ったのが自分だと全く気が付いていない様子だったからだ。そればかりか多少は疲労していても、その態度は普段とほぼ変わらない。特に利用者の家族に対しては以前と変わらない、当たり障りのない態度のままだったのだから…。
(何で…何で気付かないの?目の前にあの手紙を書いた奴がいるのに…。)
名前を書かなかったとはいえ脅迫文は直筆であり、それもこの施設の利用者にあたる祖母の書類についても自分が書いている。つまり脅迫文の犯人が自分だという事に気付くはずなのだ。だが、実際は何も言ってこない上、他の利用者の家族に対する接し方と変わらない態度だったせいか。高島の中で苛立ちが積もっていく。『自分の事だけを見て欲しい。』という感情により…。
(…よし。また手紙を出そう。気付くまで、何度でも。)
メジャーデビューして間もない為に相当なストレスが溜まっていた。更に彼女の中にある春矢への執着は相当なものだったからだろう。気付かれなかった事に安堵し止めるのではなく、苛立ちと共に脅迫文を用意し送り続ける事を決意する。そして一度決意した事はあまり間髪入れずに実行する傾向でもある性格だからか。ストレス発散も兼ねて今すぐ新たな脅迫文を作り送る事も決めた高島は家を出ていった。
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