(4番目)
すると愛の一番の友人を自負しているが故に、話していた広場にいた若い男の事が気になったらしい。昼食を終える直前、こんな事を告げてきたのだから…。
「…ねぇ、その人って今日も広場にいるのかな。」
「どうかしら?私よりも年上って感じだったから社会人か学生かと思うけど。でも平日の夕方にいるのなら一般的?な会社員じゃないんじゃないかな。あと、度々あそこでギター演奏とかもしている人かもしれない。周りが彼を気に留めている様子がなかったから。…っていうか、もしかして会うつもりなの?」
「うん。今日、特に授業後に予定ないから。あ、愛もどう?一緒に行こうよ。」
「ごめんだけど、今日は無理ね。バイトがあるし。それに…また行って会っちゃったら絡まれそうだし。だから私はパス。」
「分かった。じゃあ、私だけ行ってみるね。どんな人なんだろう。」
「…。気を付けなさいよ。」
自分とは違って他人と関わる事に対し、特にためらわない性格をしているせいだろう。愛の話に出てきた若い男に会おうとしている事を翔子は宣言してくる。愛も昨日初めて会い、まだ人柄が全く掴めていない人物だというのにだ。だが、告げてくる姿から翔子が考えを改める気がない事。何より翔子に言った通り今日は下校後にコンビニでのバイトがあり、しかも夜遅くまで入っていたからだろう。若い男に1人で会おうとするのを止める事ばかりか、行動を共にする事も出来ない。それにより今の愛が翔子に出来たのは身を案じている言葉を口にする事だけだった。
こうして翔子の身を案じながら一夜を明かした愛。だが、そんな心配が杞憂だったと愛は知る事になる。というのも、翌日に会った翔子はいつものように愛に声をかけてきたのだが、その時の表情が常よりも更に明るく楽しそうなものになっていたのだ。むしろ翔子が自分に対し何かを言いたそうにしているのに気付いた事。それが愛にとっては良いと思える内容ではない事も察してしまったのだ。芽生えた警戒により体には自然と力が入ってしまい、素早く立ち去ろうと足も踏み出した。
だが…。
「『浅井 春矢(あさい はるや)』って言うらしいよ。愛が広場で出会ったギターの弾き語りをしていた人。ほら、連絡先も貰っちゃった!」
「…は?」
腕を掴まれたかと思うと、翔子が想像以上の行動を取っていた事を自白してきたからか。困惑により思わず声を漏らしてしまう愛。すると翔子は高潮した様子で続けた。
「あの後、愛が言っていた広場に寄ったの。そうしたら最初はいなかったんだけど、夕方の6時近くになってからかな?彼が姿を現してね。ギターの演奏も始めたから聞いてみたの。『昨日、黒髪の女の子があなたの演奏に合わせて歌っていませんでしたか?』って。それに彼が頷いたから『私はその子の友達でマネージャーです!』って言って名刺渡したの。で、それを受け取った彼が名前と連絡先も教えてくれたから登録したの。…って、もしかして怒ってる?」
「っ、怒ってはいない。呆れているの。」
高らかな声で告げてきたのはギターの弾き語りをしていた若い男の正体を掴んだ事だけでなく連絡先も仕入れていた事。しかも自分の情報まで相手に与えた事も口にしてきたからだろう。自ら危険な所に踏み込んでいるとしか感じない翔子の姿に愛は冷めた様子で見つめながら呟く。それでも翔子は愛が怒っていないと気付き、その事がまた嬉しかったらしい。終始呆れ続けるばかりで、翔子の行動や理由について未だ理解出来ていないであろう愛に対し続けた。
「…ごめんね。勝手な事しちゃって。愛の歌を褒めてくれた事が嬉しくて動いちゃったの。」
「…?どういう事?」
「愛はさ。普段はあまり出していないみたいだけど、良い声で歌っているんだよ。もちろん音程とかだけじゃなくて綺麗な声で。それに歌に対する想いと聞く相手の事も考えたりしながら歌うからかな?結構、優しい歌にもなったりしている。歌の中の世界にも入り込めたりもする。少なくても私はそういう所が好きだよ。寂しくしていた時に癒されたから。」
「翔子…。」
「そんな愛の歌声を褒めてくれたんだよ?嬉しくてつい動いちゃったんだ!」
「そう…。分かった。」
そう答えてくる愛の姿は懐こい笑みを浮かべていて。何より自分の事のように明るく話している姿に無意識の内に絆されてもしまったらしい。愛の口から出たのは責めるのではなく受け入れるような言葉だった。そして愛のその様子に自分の行動が否定されなかったのが分かった事。それに強い喜びを感じたからだろう。翔子は益々愛に擦り寄るのだった。
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