2-4 初登校
学園への転入手続きの方は無事に受領されて、日曜日の朝には転入後の流れについて知らせる封筒が届いた。
日本は春が新学期だけどここでは日本以外の他の国と同じようで9月から新学期らしい。
9月3日月曜日つまり明日から、新しく9年生としてハイスクールに上がる同い年の生徒たちと一緒にスタートを切れるという。転入が遅れれば遅れただけ、既存のコミュニティが出来上がってしまい、新参者の
それにしても、あの散々な適性で入学できたのはおそらく王国側もアキラと俺を一緒に監視したいとかそういう思惑もあってのことかもしれない。つまり、アキラのおまけというか、お情けで入学させてもらえたようなものだ。
9月3日。いよいよ異世界に来て初めての登校。朝はさすがに俺のメイクの腕では登校時間に間に合わない。4時間くらい早起きしてメイクをするという手もあるとアキラには提案してみたが、それではお肌の調子が悪くなってしまい、逆にメイクの
なので、朝はできるところまで自分で手を動かしつつ、結局アキラの早業で仕上げをしてもらった。髪留めも勝手がわからず、自分1人では付けられないのでアキラにお願いして付けてもらった。お揃いの制服とローブを着て寮を出ると、周りには今日から新学年に上がったハイスクール生たちも校舎へとゾロゾロと向かっていた。
朝からアキラは生徒たちの視線を集めているし、愛想のいい挨拶で黄色い声をいただいていた。その隣でできる限り、邪魔にならないように歩く。
「シヅク、今日は初日だけあってすごく人が多いね」
「そうですね」
「どうしてそっち側に寄ったんだい?」
「いや、アキラを見たい人達の視線をできるだけ遮らないようにしないと」
「僕はかまわないけれど、君を見たい人の視線はどうするんだい?さっきから鋭い視線がいくつか僕のことを貫通したそうにこちらに届いているんだけど」
「そんなわけないでしょう。私が見られる意味が分からないし、たぶん女子の視線を集めちゃってるからやっかまれているだけで、私とは無関係です」
「まあ、いいけどね。シヅクを独り占めできるなら僕はその方がいいと思うし」
「独り占めでもなんでもかまいませんが、早く教室に着いてほしいです」
アキラと一緒に登校するなんて不思議な感覚だけど、この3日間ずっと一緒にいたせいか、隣にいることにも少し慣れてきた感はある。しかし、目立つのはごめんこうむりたい。自分でしたところのメイクの粗が出てしまっていないか不安だし、他の女子に恨まれたくもない。
「わっとと……え?なにこれ……」
「あらら、引っ掛かってしまったね。今とってあげるからじっとしてて」
あまりにも道の端を歩いていたせいか、ローブとスカートが植栽に引っ掛かってしまったらしい。
「いや、大丈夫。これくらい引っ張れば……んしょ」
「あ、こら!やめなさい」
アキラがとっさに手で俺のスカートをつかんで引くのを阻止した。
「まったく、そんなことをしたらスカートが破れてしまうよ。男物とちがって生地が繊細なんだから、もっと丁寧に扱わないとダメなんだからね?だからじっとしててって言ったのに」
「そ、そうなのか……ごめん、知らなくて……」
「まあ、僕も届いた服を着てみてわかったことなんだけどね。ほら、引っ掛かっていた枝とか全部外したよ」
「ありがとう、アキラ」
「これに懲りたら、もう道の端すれすれを歩くのはやめるんだよ」
「でも、こっちだと視線が……」
「視線くらいガマンガマン。女の子は結構
「うへぇ……ひたすら自分と向き合う武者修行より大変かもしれない」
「そういう表情もあんまり出さないようにね。誰に見られているか分かったものじゃないから、普段から平静な顔つきでいるのがいいかも」
「そうなんだ。なら、大会の時を思い出してポーカーフェイスしてみるね」
「大会?まあ、ポーカーフェイスはいいと思う。今のお嬢様な雰囲気の恰好にもあってるかもしれないな」
アキラのアドバイスで少しだけピンときたことがあった。それはこっちに召喚される前のバイト中のアキラの様子だ。たしかにバイト中は変な客も結構居たし、思えばアキラに不躾な視線を送る人もそこそこいた。そういう時も、嫌な顔はせずクールに対応していたアキラの姿が思い出されたのだった。
そうか。あれってアキラなりの処世術でそうしてたのか。ってことは、そうじゃないアキラの方が普段通りのアキラだった?
……俺と話してた時のアキラって、わりとくだけていたような気もする。ぶっちゃけ今と大した変わらないというか、つまりこっちが素ってこと?でも、本当にプライベートなアキラの普段を知らないから、勝手にそう思うのは失礼だよね。一旦これは忘れよう。
――
封筒の中身に指定されていた講義室に既定の時間までにやってきたが、そこには約 50 人ほどの生徒たちがいた。
封筒内のしおりを読んだ事前の情報では、学園の初週は校内を1週間をかけて先生や先輩がついてハイスクール生の教室の場所や使い方、注意点を含めたオリエンテーションを受けるとあった。
それから、日本の高校とは異なり、学園では自分で授業を選択して受けに行くという。
オリエンテーション後の1週間でまず主要な授業の1講目をすべて受講してみて、選択する授業を生徒が選ぶ。
選ぶ基準は様々で、取得が簡単であったり得意なものを選択する場合もあるだろう。しかし、最も考慮すべきは最終的に習得したい技術や、より専門的な分野を学ぶことであり、そのためには前もって取得しなければならない基礎的な授業を早い段階で受けておく必要がある。
ハイスクール生でいられるのは9年生から 12 年生となる4年間だが、必要な単位数を取得していれば4年経たずともいつでも卒業できるらしい。そのような講義に学生が自ら主体的に参加する形態は、日本では4年制の大学などで取られている形式だが、こちらではハイスクール(高校)とカレッジ(大学)とも共通のようだ。
日本の高校のような補講などで敗者復活ができるようなシステムはなく、担当の先生に実力が認められなければその授業を受けただけでは単位がもらえず、次に同じ講義が開かれるまで取得できないシビアさもある。逆もまたしかりで、授業で習得できるレベルに早い段階で達したと証明し、担当の先生に実力を認められれば、すべての授業に出ずとも単位がもらえるようだ。そうする為には授業の最終的な合格基準を理解している必要があるので、1度合格できず二回目のチャレンジとなる場合や上級生や卒業生などからどうしたら合格になるかの、アドバイスを受けられる機会に恵まれた人などが単位の先取りが可能だろう。もちろん、単位を取ったあとも不安が残るようなら講義に出続けるのは自由だ。
「お二人とも、ごきげんよう。王立魔法学園へようこそ」
「ごきげんよう、コルネイディア姫」
「ご、ごきげんよう」
突然の慣れないあいさつにアキラは即レスできていたが、俺は若干どもってしまった。こういうあいさつで動じないところは、アキラが女子校で
「コルネイディア姫様は、今日は学園制服とローブなのですね?」
「ええ、わたくしもこの学園の
「コルネイディア姫も僕らと同じ学年なんですか?」
「はい。わたくしも今日からハイスクール生として9年生になりましたわ。お二人とは同じ寮に引き続き、級友ということになりますわね。これからはどうかもっと気安く、わたくしのことはコルネやコルンとお呼びになってくださいませんか?」
「恐れ多くもその栄誉にあずかれるのでしたら喜んで。僕はコルンとお呼びしましょうか」
「ええ、ありがとうございます、アキラ様」
「どうぞコルンもアキラと呼び捨てにしてくれてかまわない」
「まあ。ですがお互いのためにアキラさんと呼ばせてくださいませ」
「ええ、承知しました、コルン」
この国では女性から男性への呼び捨てはなかなかしないのかな?
「ありがとう。シヅク様はどのようなお呼びかけがよろしいかしら?」
「私はシヅクとお呼びください。寮でも一緒でちょっとだけ仲良くなれたみたいでうれしいので、コルネと呼ばせていただいても?」
「あら、シヅク、でいいのかしら?ちょっとと言わず、うんと仲良くしてくださるとわたくしもうれしいわ」
自然な笑顔に見えるなぁ。さすがは王族というだけあって、態度や声音、表情、しぐさも、人当たりの良さそうな印象を受ける。俺が知っている女子の時のアキラと比較してみるとなおのこといい印象だ。アキラの場合、初見の時の”レイさん”はクールな感じでとっつきにくかったし、アキラだとわかってからは少し砕けすぎていた感じがして、あまり参考にはしない方がよさそうだ。俺が参考にするなら、コルネイディア姫、コルネみたいな人の方がいいのだろうな。よく見て取り入れていこう。
「シヅク。君、ちょっとコルンのこと食い入るように見過ぎ。みるなら僕の顔を見なよ」
「ちょっ、アキラ。どうして視界の大半を
「くすくす、お二人はやっぱり仲がよろしいのですね」
今のお上品な笑い方も参考に、ってまたアキラが俺の前に……一体何なんだ?しかもこいつ、ちょっと目が笑ってなくて怖いんだが……
そんな小競り合いのようなことをしていると、シルベスター先生が教壇の前にやってきた。ざわつきが自然と静まってきた。そろそろ始まる時間だ。
「
講義室の全員が俺たちと一緒に座っていたコルネに視線を向けて、拍手をし始めた。みなの視線の中にはコルネの隣のアキラへと流れるものや、流れ弾のような感じで俺にも視線が突き刺さる。いや、みんなコルネの方を見ようよ!と思っていたら……
「はい。それからちょうどその隣にいるのが、ハイスクールクラスから転入した二人です。一部で噂になっていた救世の御子とはそこの二人のことになります。二人とも異世界から召喚の儀で召喚されたばかりなので、わからないことも多いはずです。みなさんは良識あるアリスカンダール寮生として、御子のお二人とも仲良くしてあげてください」
さっき突き刺さった視線よりも数倍多くの視線が俺とアキラに向けられる。こういう視線を集めるようなことなんて、
ちらりと隣を見ると、アキラの方は涼しそうな笑顔で、手までふっていた。マジかよこいつ。鋼の心臓でも持っているのだろうか。それかイケメンとしてはこういう場で照れるなんて違うとか、アキラの中で謎のできるイケメン補正がそうさせているのだろうか。
講義室に黄色い歓声と口笛が響く。それと低い音も……きっとコルネに向けたものだろう。こういう時って、なぜか口笛吹くやつが絶対いるよな、俺も口笛を吹けるやつの真似をしようとして出なかったことあるなぁと思うと、少しだけ前の世界と同じ気がして少しだけ平静さを取り戻せた。
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